第八話 魔法少女とダンジョン攻略②
翌日、私たちは荷物をもって学園へと向かう。支給品は学園で渡されるのだが、私の荷物はほとんど自前なので、リュックサックの中に栽培キットと調理器具と調味料を入れて学園へと向かう。学園では当然ながらダンジョン攻略について周知されており、そんな中で一人だけリュックを背負って歩いていると場違いな感じがした。
「あら、葵ちゃんじゃない。おはようございます」
「あ、氷室さん。おはようございます」
「ずいぶん、色々と準備したんですのね」
「え、ええと。私は異能とは違うみたいなんで、支給品がほとんど役に立たないみたいなんです」
「あらまぁ、そうだったんですのね。それじゃあ、ホールに行きましょうか」
「あ、はい」
リュックを背負っているだけでも視線が刺さるほどだったのに、Sランク異能力者の氷室さんと親しく会話したおかげで、もはや針のむしろだった。しかし、私が所在なさげにしているのに気付いたのか、彼女が周囲を睨みつけたおかげで、一瞬で私に向けられた視線が無くなってしまった。
「大丈夫です。安心してください。葵ちゃんは絶対に守りますからね」
「あ、ありがとうございます」
ホールに到着すると、今回の残りのメンバーであるSランクの二人と美咲がすでに集合場所で待っていた。全員揃ったところで、パーティーのお披露目のために舞台へと上がる。Sランクを中心とした精鋭のパーティーと言うこともあり、舞台に注がれる視線には熱がこもっていた。
「あれが、今回の第一パーティーか」
「あれ? あの二人って、無能力者じゃね?」
「ホントだ、何でFランクの中でも底辺のヤツらが入ってるんだ?」
「あんなのが入れるなら、俺だって……」
私たち二人が第一パーティーに入っていることに不満や疑問を抱く生徒が大半であった。しかし、そんなことはお構いなしにと、紫電さんがパーティーの説明に入る。
「これが、今回の第一パーティー。俺たちSランクが中心となって最前線を攻略するためのパーティーだ。ちと、見慣れないヤツがいるかもしれねえが、こいつも俺たちと互角以上に戦ったヤツだ。もし文句があるなら、いつでも挑戦は受け付けるぜ。どうせビビって来ねえ奴が大半だろうけどな」
挑発的な挨拶に他の生徒たちのざわめきが大きくなる。
「もちろん、挑戦はサポート役の白瀬と新城はダメだからな。だが、俺や氷室、相沢はいつでも挑戦は受け付けるし、もし互角以上に戦えると判断したなら、第一パーティーに組み込んでやってもいい」
ざわめきを無視してさらに煽りを入れる。特に対戦相手に私が入っていることで、もしかしたら、と考えている人たちが多いのがありありと感じ取れた。
「そ、その言葉嘘じゃねえよな?」
その煽りに応えたのは轟だった。彼は私を睨みつけながら紫電さんに詰め寄る。しかし、紫電さんは不敵な笑みを浮かべていた。
「もし、三人の中の誰かといい勝負ができたら、俺も第一パーティーに入れてくれるってことで良いんだよな?」
「もちろんだ。でも、君は本気でない相沢君にすら、手も足も出なかったじゃないか。大丈夫なのかい?」
「……本気でない?」
紫電さんの言葉に轟は訝しんだ顔をする。
「そうだ。あの時は身体能力こそ高かったが、剣で戦っていただけだろう? 相沢君の本領は魔法、俺たちの異能のようなものにこそある。それすらも引き出せていない君が勝負になるとは思えないけどね。もちろん、そんな人でも挑戦は大歓迎だ。勝てないからと諦めるヤツらよりは遥かにマシだからな」
「……くそっ、だが俺は相沢に挑戦を申し込む。今度こそ、お前をボコボコにしてやるよ!」
そんな轟に紫電さんは笑顔で拍手を送る。
「いやあ、素晴らしい。圧倒的な力の差を理解していながら、それでも勝負を挑む負けん気の強さ。これで実力が伴っていたら、本当に大歓迎だよ」
彼を誉めているようで、煽っているようにしか見えない紫電さんの行動に違和感を抱きつつも、勝負を申し込まれたことにより、私は轟と戦うことになった。揃って闘技場へと向かう。何故か、他の生徒たちも大挙して闘技場へとやってきた。
「こんなに人が……」
「まあまあ、これで実力を見せつけられるでしょ」
「確かに、そうですが……」
「まあ、さくっと行ってきなよ」
「はい」
そう言って、私は闘技場へと降り立った。
『
合言葉を唱えると、魔法少女の姿に変身する。そして、轟をじっと見据えた。
「さあ、始めようか」
「こっちから行くぜ。おりゃああああ。あれ?」
轟はまっすぐにこちらに向かってきて、拳を振り抜いてくる。しかし、彼の直線的な攻撃など当たるはずもなかった。
「さて、それじゃあ、こっちもいくよ。『
呪文を唱えると、周囲がキノコで埋め尽くされる。そして、彼の頭の上に一本のキノコが生えて、目から光が失われた。
「うぼあぁぁぁ」
言葉にならない叫び声を上げながら、轟が暴れ回る。彼の身体能力も上がっているため、被害はフィールドと彼自身の身体に集中していた。
「しかし、キノコが効くのって久々だよなぁ」
感慨深いつぶやきが漏れる。このところ相手が格上ばかりだったので、キノコはほとんど潰されてしまったので、あまり使えないという評価になっていた。しかし、こうして格下と戦うことも想定すると、意外と有用な魔法のように思われる。
「まあ、このまま暴れられても面倒だからなぁ……。『蝕』」
私はラーフの力を解き放つと、轟に向かって放つ。蝕は彼の異能による変化とキノコによる幻覚の両方を瞬く間に食らい尽くしてしまった。
「うぼあ……あれ?」
正気に戻った轟は状況がつかめずに混乱していたが、異能が消されているのに気付いて、私の方に向き直る。
「な、何をしやがった!」
「危ないから異能を解除しただけだよ。ついでに魔法も解けちゃったけどね」
「くそっ……。あれ? 変身できねえ……」
「そりゃ、異能を喰ってしまったからね。変身できなくなってもおかしくないよ」
私の言葉に轟は呆然と立ちすくんでいた。そして、絶望の表情で崩れ落ちる。
「そんな……。俺が、俺が無能力者になっただと……」
自分がバカにし続けてきた無能力者に、自分がなってしまったことに絶望を感じているようだった。ホントは闘技場のアバターの異能を喰っただけから、外に出れば戻るんだけど……。まあ、言わなくてもいいかな。
「さて、どうする? まだ続けるかい?」
「……降参する」
彼の言葉と同時に、二人とも闘技場の外へ追い出された。笑顔で迎えてくれたパーティーメンバーと違って、観戦していた生徒のほとんどは恐怖心を伴った視線で見ていた。
「まあ、無理もないさ。あの試合を見たらな。葵と戦ったら、自分も無能力者にされてしまうかもしれない。それは、アイツらには恐怖だろうさ。もっとも、それでビビっちまうようなヤツは俺たちのパーティーには入れられないけどな」
そう言って、紫電さんは彼らを蔑んだ目で見ながら大声で笑った。
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