第八話 魔法少女とダンジョン攻略①
「それでは模擬戦闘、はじめッッッ!」
開始と同時に紫電さんが動く。左回りに高速に移動しながら、光の帯を放ってくる。しかし、直線的な動きのため、それを難なく回避した──。
「おっと、それだけじゃあ。ないんだな」
「なっ、そんなっ」
回避したはずの光の帯は、まるで追尾するかのようにこちらに向かってくる。かといって、下手に触れてしまうと、そのまま拘束される可能性があるため、避けるしか手がなかった。
「くそっ、ならば本体を……」
光の帯を回避しつつ、紫電さんに接近して剣を振るう。しかし、彼はその斬撃を悠々と回避した。
「くくっ、俺は運動神経も良いぞ。異能による拘束力は確かに高い。だが、それだけでSランクになれるほど甘くはねえぜ。もちろん、攻撃もな」
紫電さんは光の帯を変形させ、巨大なハンマーを作り出した。
「そうら、隙だらけだぜ」
「うわあああ」
ハンマーを振り回して、打ち付けてくる。それを剣で受け止めるも、勢いを殺せずに、そのまま吹き飛ばされてしまった。
「つ、強い……」
氷室さんの異能と違って、面で制圧するようなものではないものの、彼の身体能力との組み合わせによって、恐ろしいまでの強さを発揮していた。
「く、ならば……『蝕』」
先ほどと同様にラーフの力を顕現させる。しかし彼は、それを見て鼻で笑った。
「へっ、氷姫ならまだしも、俺にはその攻撃は効かねえぜ」
彼は右手を出すと、今度は光をそのまま放出した。それは黒い球体をも呑み込み消滅させてしまった。
「そんな……」
「俺の異能は光だ。たとえ異能を食っちまう力だったとしても、光そのものは食えねえはずだぜ。俺の異能はこの世界の溢れる光というエネルギーを自在に操るだけの力なんだからな」
「くっ……。だけど、概念的なものなら消せるはず。なのに、なぜ……」
「そりゃ、当然だぜ。光はエネルギーという概念でもあるが、同時に光子という粒子、いわゆる物質でもあるんだからな」
彼の異能を消すには、今の私の力だけでは足りない、ということだろう。その事実に焦りを感じつつも、打開策を見つけようと目を凝らし、意識を巡らす。
「それなら……。『狐火』」
呪文に呼応するように、ライカの力の一端である炎が現れる。それを彼に向かって放つが、光の帯によって受け止められてしまった。炎が消えてしまったわけではない。しかし、炎が光の帯を燃やし尽くすこともなく、炎として燃え続けるだけだった。
「ひゅぅ、なかなか怖い力だな。でも、光は純粋なエネルギーでもあるから。炎も効かないんだな、これが」
「くっ……」
彼の隙の無い異能に手も足も出ないことを再認識するだけの結果となってしまう。そんな私に追い打ちをかけるように、彼は私に向かって両手を突き出した。
「さあて、もう少し遊んでも良いんだけど、あんまりやり過ぎると虐めてるみたいになっちゃうからな。ここらでとっておきを見せてやるよ」
彼の両手に光が集まる。その影響からか闘技場全体が少しだけ暗くなるように感じた。
「これは光を高密度に収束させて放つ技だ。滅多に使わないんだけど、特別に見せてやるよ。俺もS級らしく、大規模殲滅が可能な異能があるって言うことを見せないとだしな」
彼の両手に収束した光が、まっすぐに私の身体を貫いた。次の瞬間、私と紫電さんは闘技場の外に放り出されていた。
「WINNER、紫電啓介ッッッ!」
私の敗北を告げる合成音声が無情にも響き渡った。
「負けた……」
負けたショックで項垂れていると、そっと手を差し伸べられる。ふと、顔を上げると、紫電さんだった。
「いい勝負だったぜ。俺も久々に本気出そうって思える相手だったからな」
「いえ、今度は……勝ちます」
「はっはっは。いい心がけだ。だが、そう簡単に勝ちは譲らねえぜ」
「望むところです。あの時、パーティーに入れておけば良かったって、後悔させてあげますよ」
「えっ、何を言ってるんですか?」
「……何を言ってんだ? おいおい、鬼道ちゃんよぉ。なんて説明したんだ?」
「指示の通り、パーティー編入試験と伝えましたが、何か?」
発言した鬼道先生以外、その場にいる全員の間に微妙な空気が流れる。
「試験ですよね? 負けてしまいましたから、今回のお話は無しということですよね?」
「な、何を言ってるんですの。葵ちゃんも新城さんも既にパーティー加入済みですわ。編入するにあたって、詳しい能力をテストするという話はありましたけども……」
「そうだな。最初から、そういう話だったぞ。模擬戦やりたかったっつーのもあるけどよ」
二人の言葉に、その場にいる全員が鬼道先生の方を向く。
「おいおい、何でこっち見てんだよ。パーティー編入のテストもパーティー編入試験も大して変わんねーだろうが──」
先生が言い終わるよりも先に、あたりの空気がひんやりし始める。いや、ひんやりどころか──。
「さ、さむっ。何で夏なのに。冷房強すぎませんか?」
「ち、違うぞ、相沢。氷室を見ろ」
振り返ると氷室さんが笑顔で先生の方を見ていた。笑顔とは言ったが、その笑顔には本来無いはずの圧があった。そして、彼女の周りに夥しい白いもやが発生していた。
「これは、もしや……。冷気?」
「そうだ。私たちは怒らせちゃいけないヤツを怒らせたらしい」
「いや、私たちって……。さりげなく巻き込んでますけど……。全部先生が原因ですよね?」
「……相沢は先生を見捨てるのか?」
「これ以上、氷室さんを煽らない方が良いかと思いますよ、先生」
そう言って、氷室さんを指差した。先生もそれにつられて彼女の方を見た瞬間、凍り付いた。たとえではなく物理的に。
「ふふふ、そこでしばらく反省してくださいませ」
そう言って、先生の形をした氷の彫像をポンポンと叩く。
「あー、ちょっと脱線しちまったが、模擬戦の結果に関係なく、お前らは俺たちのパーティーメンバーだ。これからよろしくな」
「よろしくお願いしますわ。葵ちゃん。新城さん」
「よろしく頼みますわね」
右手を出してきた紫電さんと握手を交わすと、氷室さんと白瀬さんも同じように歓迎の意を示すように右手を差し出してきた。彼らと順番に握手を交わし終えると、紫電さんが今後の予定について話を始めた。
「攻略開始は明後日からだ。その前に明日、全校集会で攻略パーティーのメンバー発表がある。そこで正式に学園に公表される形だな」
「急いで帰ってきていただいたところ申し訳ありませんが、攻略参加メンバーは本日から調整期間に入ります。葵ちゃんたちも明後日からの攻略の準備をお願いしますね」
「あ、消耗品は基本はこっちで用意しておくから。これが用意する消耗品のリストね。これ以外に必要な物があったら、準備しておいて。その時、領収書は必ず貰っておいてね」
「おう、そういうことだから、何かあれば連絡しろよ。ほら、これが連絡先」
そう言って、三人と連絡先を交換した私たちは、準備のために学園を出た。その足で、学園に併設しているショップへと向かう。
「えーと、何か買うものあるかな? っと、その前に支給品の確認をしないと……」
支給品のリストを確認すると、そこには回復ポーション×5、異能力ポーション×5、覚醒ポーション×1、緊急脱出クリスタル×1と書かれていた。
「うーん、これだけかぁ。もうちょっと買い足さないとダメかな」
「葵の力は異能じゃないから、クリスタル以外は不要かな」
「えっ、回復ポーションは要るでしょ」
「大丈夫よ、私のは支給品で十分だから。葵の持ち物を買いに行こうか」
美咲は私の手を取ると、ショップから出てホームセンターへとやってきた。
「何でホームセンターなんだよ」
「まあまあ、いいから」
そう言って、私たちはホームセンターで簡易キノコ栽培キット、携帯式の包丁とフライパンとコンロ、それとバターと塩コショウを購入した。
「ねえ、ダンジョンに行くんだよね? キャンプじゃなくて」
「もちろんよ。これと緊急脱出クリスタルを持てば完璧ね」
まるで一人だけキャンプに行くかのような持ち物に不安を覚えるが、美咲の言うことを信じることにした。
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