第七話 魔法少女と氷姫①
「どうやら、無事に解放できたようだな」
目を覚ますと、ライカの声が耳に飛び込んできた。視界に広がったのは、驚くほど近くにある彼の顔だった。
「ちょっ、なんでそんなに顔を近づけてるんだよ!」
それどころか、自分の置かれた状況を把握すると、彼の両腕で抱えられていることに気付いた。いわゆる、お姫様抱っこ、だった。
「ちょっ、下ろして! 下ろしてよ!」
「分かった分かった。分かったから暴れるでない」
そう言いながら、額に唇を付けてから静かに下ろした。不意を突かれて驚いたが、すぐにその行為の意味に気付き、胸が高鳴るのを感じた。
「ぐぬぬ、ワシの手と口ではできないことを……」
「何を言ってるんだか……。そもそも、キスなんてされても嬉しくないし!」
しかし、ライカはニヤリと笑う。
「顔を真っ赤にして、目を泳がせながら言っても説得力がないぞ」
「う、うるさいな」
「まさか葵が……。あっさりと女の子を受け入れてしまうなんてね……」
「うっ、そ、そんなんじゃないからね!」
美咲の言葉に慌てて否定するも、その様子が余計に図星を突かれたように見えてしまったらしく、三人の視線が妙に温かい。これからどう言い訳──事実無根だから言い訳じゃないんだけど──しようかと思っていると、学園からの緊急連絡着信が入った。
「なんだろう。しばらく学園には来ないようにって言われてるのに……」
一方で、美咲のスマートフォンは鳴っていなかった。そのことを訝しみながら通話ボタンを押してからスピーカーモードに変えた。
「もしもし……」
「お、相沢か。休み中のところすまんな」
どうやら鬼道先生からの通話だったようだ。
「なんで先生が緊急連絡をしてくるんですか……」
「そりゃ、緊急だからに決まってるだろうが。それとも、デートの誘いでも期待したか?」
「……バカなことを言ってないで、とっとと用件を言ってくださいよ」
「ちっ、つまらんヤツめ。まあいい。簡単に言うと、オーバーフローの予兆が観測されたんだ」
「……それで? しばらく学園には来ないように言われてますけど。それに、私は無能力者ですよ」
「相沢も冗談が上手くなったな。先日の件で、すでにお前のランクはBランクになっているから問題ないぞ」
「えっ?! 無能力者の私が、なんでいきなりBランクなんですか!」
「はっはっは。あんなことしておいて、今さらFランクの無能力者なんて言い分が通用するわけなかろう。ホントはSランクに推薦したかったんだがな。さすがに能力が未知数ということもあって、Bランクで妥協させられたんだぞ」
「……Sランクとか、マジでやめてください」
Sランクは文字通り学園最強格の異能力者だ。戦力にして一個師団に匹敵する能力と言われていて、文字通り戦略級の異能の持ち主だ。その能力の高さゆえに好待遇である一方、常に監視されて移動に制限がかけられる。海外旅行など以ての外で、下手に海外に行ったら侵略行為とみなされる場合もあるため、海外に行くときにはSPが付く。もちろん、本人の護衛ではなく周囲の護衛のためだ。
「そもそも、Bランクでも一個大隊規模じゃないですか……。それに異能測定の結果はゼロだったはずですよ」
「あのCランクの轟を、まるで赤子の手を捻るかのようにボコボコにしたじゃないか。教師陣も相沢をBランクにすることに誰も異論はなかったぞ」
「……」
「まあ、そんなことは置いておいて。オーバーフローだよ。Fランクだった時は無関係でいられただろうが、Bランクとなった以上はしっかり働いてもらうぞ」
「いや、勝手に決めておいて、という問題はありますけど……。そもそも、学園に来ないようにということだったじゃないですか」
「それは明日一杯で解除される予定だ。明後日から頑張って働いてもらうからな」
明らかに私をこき使う前提で調整したことがありありと見えてしまい、気持ちが萎えてくる。しかし、それに追い打ちをかけるような事実を知らされることとなった。
「ちなみに、ダンジョン攻略のパーティーだが、相沢の他にはお目付け役の新城と白瀬、氷室、紫電の5人パーティーで最深部まで向かってもらう」
「えっ?」
パーティーメンバーのうち私と美咲はまだわかる。しかし、あとの3人の人選は明らかに異常だった。
「何を言ってるんですか! 私たち以外、全員Sランクじゃないですか」
「当然だろう。最深部へと向かうんだからな」
「そもそも最深部へ向かうパーティーに私が入るのはおかしくないですか?」
「別におかしくないが……。悪いが、決めたのは私じゃないからな。発言権はそいつらの方が上からな、変更はできないぞ」
「いったい誰が……」
先生より上の立場というと、かなり限られてくる。学園の副長、学園長、あるいは理事長くらすの人たちだ。
「もしかして、学園長ですか? それとも、理事長?」
「残念だが……、もっと上だ」
それ以上となると、防衛省や総務省、内閣府といった政府レベルの存在であるが……。
「そんなバカなことがあるはず……」
「お前ら以外のパーティーメンバー三人と宇津木だ。ようするに第一学園にいるSランクのヤツらが全員、お前を指名したことになる」
「そんなバカな……。マジですか?」
Sランクが一人でも相当な発言権になるが、それが四人となると、もはや誰にも止めることはできないだろう。
「ああ、大マジだ。最初はSランクのやつら四人だけの予定だったんだがな。相沢を入れろと直談判されたよ。お目付け役の新城も付けなきゃいけないから、足手まといになると思うが、とは言ったんだがなぁ……」
彼女の疲れた様子は電話越しでもありありと感じ取れたため、あまり深く追及しないようにとは思う。それでも、自分がSランクの異能力者とパーティーを組むことを考えると気分が重くなる。
「まあ、そういうことだから。あとはよろしく頼むわ。旅行は明日までだろ。なので、明後日はパーティーの顔合わせだ。……頑張れよ」
言いたいことだけ言って、通話を切ってしまった。
「葵も大変ねぇ」
「いやいや、美咲も一緒に行くんだよ。それでも良いの?」
「んー。まあ、パーティーメンバーは強い方が安全ではあるからね。それに葵もいるし。でも、大変って言うのは、明後日の顔合わせの方よ」
「えっ?」
「だって、この間、解禁されたら手合わせして欲しいって言ってたじゃない。パーティー加入試験とか言って、戦うことになるわよ。どうせ」
「いやいや、そんなはず……」
「ないと思う?」
「いや……。絶対にあると、思い、ます……」
ただでさえ気が重いSランクパーティーに、さらに気が重くなるイベントが追加されていた。
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