第六話 魔法少女とフードファイター②
気が付くと、石でできた闘技場の舞台みたいなところに立っていた。しかし、周囲の景色がまるで宇宙空間のようになっていて。明らかに自分の知らない場所だと言うことが分かる。
「儂に会いに来る者がいるとは、珍しい」
「お前がドラゴンヘッド……?」
「ふむ……、儂はラーフ。頭だけとなったドラゴンのなれの果てよ」
見た目はただのお爺さんのように見えるが、その威圧感はまさしくドラゴンに匹敵するものだった。
「こんなのと戦うの……?」
「儂に挑戦する者だろう。なれば、我はそれを受けるのみである」
そう言って、ラーフは二つの巨大なテーブルを取り出した。
「まずは、その椅子に座るがよい」
「えっ? 戦うんじゃないの?」
「戦うに決まっておろう。戦いは椅子に座った瞬間に始まるのだ。まずは座るがよい」
そう言って、席を勧めてくる。仕方なく椅子に座ると、もう一つの椅子にラーフが座る。
「くくく、久々の挑戦者。たっぷりと楽しませてもらうぞ」
ラーフの言葉により、背筋に寒気が走る。その直後、カーンという金属音と共に、巨大なテーブルの上に大量の料理が現れた。
「なんだよこれ……」
「戦いだと言ったではないか。ここでのルールはただ一つ……。喰って喰って喰いまくれッッッ。それで勝敗が決まるのだッッッ」
どうやら戦いと言っても、大食い勝負ということだろう。だが、昨日、夕食を食べきった私に隙はない。
「それじゃ、いくよッ!」
「ふはは、かかってくるがよい」
ラーフと私は同時に料理を食べ始める。カレーにパスタ、餃子にラーメン、寿司に焼肉、天ぷらにケーキ、ハンバーガーにサンドイッチと節操なく目の前に並ぶ料理を味のバランスを見ながら食べまくっていた。特に甘いものを挟むタイミングが重要で、これによって食べるペースが大幅に変わる。ここまでは、なかなかいいペースで料理を食べ進めることができている。これならば、と隣のラーフを見た瞬間、私の全身が凍り付いたように茫然としてしまった。
「ごばばばば……」
ラーフはテーブルの上に乗った料理を尽く飲んでいた。よく、勢いよく食べる様を飲むと表現することがあるが、そんなものではない。文字通り、大口を開けて料理を片っ端から飲んでいた。
「そ、そんな……」
既に食べた量はラーフの方が二割ほど多く、もはや、差は圧倒的と言えた。
「こんなの、どうやって勝てばいいんだよぉぉぉ」
こうやって叫び声を上げている間にも、ラーフは淡々と、文字通り料理を飲んでいた。ラーフは一度食べるのを止めて、私の方を向く。
「かっかっか、これは早食いではなく、大食いである。だが、ゆっくり食べていては、あっという間に満腹になるだろうよ」
「……そうか!」
そう、この勝負は早食いではなく、大食いである。ゆえに、ラーフのペースに合わせる必要はなく、自分のペースで多く食べれば良いのだと気付いた。
「それならば……。『神力解放』。うぐっ」
「ふはは、いよいよ血迷ったか。だが、最後まで喰って、喰って、喰い尽くすのだッッッ」
ライカの神としての力を解放する。未熟な私にとって、それはひどく燃費の悪いものだった。だが、それがいい。先ほどまで満腹だったが、すでに餓死寸前な程に空腹になっていた。
「これならッ、食べれるッ、食べれるぞッッ」
ここからはスピードは気にしない。私は餓死しないように必死に料理を口に運ぶ。しかし、食べても食べても消費が早すぎてお腹が膨れることはなかった。何よりも、神力を解放したことにより、胃腸の消化速度も強化されているし、口での咀嚼速度も強化されていた。ラーフには及ばないものの、それに近いスピードで追いすがるように食べ続けた。
全てを呑み込むように料理を平らげていくラーフと、ものすごい勢いで食べ続ける私の勝負は意外にもあっさりと決着がついた。
「ふいぃぃ。さすがにもう喰えんわい」
凄い勢いで食べていたラーフの手がついに止まる。一方、私の方はひたすら餓死しないように料理を食べ続けていた。その結果、あっという間に彼よりも多くの食べてしまう。
「儂の負けじゃ」
そう言うと同時に、テーブルの上の料理が全て消える。だが、すでに勝負のために食べ続けているのでなかった私は、補充できるものが無くなったことで、みるみるうちに干からびていく。
「うう、メシ、メシィィィ」
「ぬぬ、こりゃいかん」
その言葉を最後に、私の意識は空腹によって途切れてしまった。
「ふぅ、やっと目が覚めたか。まったく、無茶する若者じゃな」
「あれ? 元に戻ってる」
「お前の神力を食ったからな。その上で、料理を出してやったら、意識が無いのに、あっという間に平らげおった」
「神力を食った? それは大丈夫なの?」
「大丈夫だ、問題ないぞ。神力の発動を食っただけだからな。まったく、解除する余裕すらないとは……」
「それで、勝負は?!」
「お前の勝ちだ。大人しく、お前の力となってやろう」
ラーフは黒い球体を私に向けて放つ。それは私の胸に当たると、そのまま吸い込まれてしまった。
「さて、力を使ってみるがよい。先ほどの黒い球体をイメージするのだ」
目を瞑り、先ほどの黒い球体をイメージすると、目の前に黒い球体のようなものが現れた。
「これは……?」
「これは『蝕』だ。あらゆるものを食らい尽くす、と言いたいところじゃが、お前の力では物質には効果が無いだろう。概念的なものを消す力だと思えばよい」
「概念的なもの?」
「そうじゃ。例えば、異能とか魔法とかじゃ。もちろん、魔族の意識とやらにも使えるぞ」
「これで意識を乗っ取られなくて済むように──」
「それは厳しいな。お前が乗っ取られないように抵抗していれば、『蝕』は助けてくれるじゃろう。しかし、お前が抵抗できないような状態ならば、あっさり乗っ取られてしまうじゃろう」
「そんなぁ……」
「そんなに落ち込むでない。儂ら九つの星を全て従えることができれば、完全に抑え込むことも可能じゃろうて……。おっと時間のようじゃな」
ラーフの言葉に、わずかな希望を見出しながら、意識が暗闇に包まれて行った。
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