第三話 魔法少女と殺意②
「そこまでだ」
それは鬼道先生の声だった。その直後に凍った体の上から、光のロープみたいなものがグルグルと巻き付いて、完全に動きを封じられる。頑張れば脱出できないことも無いだろうけど、状況的に好ましくないと判断して、いったんは大人しくすることにした。幸いにも『コロセ』という心の声は聞こえなくなっていた。
「落ち着いたか?」
「……問題ありません」
先生が顔を覗き込みながら尋ねてきた。それに冷静に答えると、安心したように笑みを浮かべた。そして、轟たちに向き直ると大きなため息を吐いた。
「ふぅぅ、やってくれたな。まあ、とりあえずは治療が先だ。白瀬、頼めるか?」
「もちろんですわ、先生。このために私を呼んだのでしょう?」
「悪いな。こんな時間に」
「いえいえ、お気になさらず。ここまでキレイに死にかけている状況はなかなかお目にかかれませんから」
三人の前に進み出た
「んん……こ、これは?」
「あれ? おれはどうしたんだ?」
「お、お前たち……」
目を覚ました二人は、未だ状況を飲みこめていないようだった。そんな彼らを轟は安堵した表情で見つめる。
「なんだ、一応は友情みたいなものもあるんだな……」
「コラッ、そんな言い方するんじゃない」
「いてっ。じょ、冗談ですよぉ」
そんな彼らの様子に率直な感想を述べると、先生に頭を引っ叩かれたので慌てて弁解する。すでに拘束は解かれていたが、今さら彼らに何かをするつもりもなかったので、状況を見守ることにした。美咲も一緒に来ていたようで、私を見ながら深いため息を吐いた。
「まったく……。だから気を付けろって言ったのに」
「しょうがないじゃない。この身体じゃ抵抗のしようがなかったんだから」
「まあ、起きたものはしょうがないし、念のためと先生にもお願いしたことが無駄にならなくて良かったわ」
「これは美咲が?」
「そうよ。葵が暴走するかもしれないと思ったからね」
それにしても過剰戦力じゃないかと思ったけど、結果的に私を拘束して彼らの命を助ける、という目的においては必要な戦力だったと言えた。特に、白瀬さんがいなければ確実に犠牲者が出ていただろう。そんな彼女は先生と話をしているようだった。
「相変わらず、凄い異能だな。本当に死んだ人間を蘇らせるとはな」
「そこまでではありませんわ。普通に死なれたら蘇生などできませんが、彼らはキレイに首だけ斬られて殺されたので何とかなったのです。私も久々に全力で異能を使わせていただきましたわ」
「なるほどな。まあ、それでも十分凄いんだがな。さすが『銀髪の天使』といわれるだけはあるな」
「その呼び方は止めてくださいまし」
揶揄うような軽口を言う先生に、彼女は不満そうな表情で抗議をしていたが、先生の方は全く意に介していないようだった。もっとも……、ここで死人が出たら先生の責任問題も問われかねないので、安心したのかもしれない。
「さて」
一転して真顔になった先生は、轟たちの前に立って腕を組む。その威圧感は鬼や悪魔を従える魔王のようであった。もちろん、キノッピーのようななんちゃって魔王とは別だ。
「どうしてこうなったのか、きっちり説明してもらおうか。なあ、轟?」
「……えっ、えっと。お、俺はアイツが調子に乗っているから注意してあげただけで……。アイツが逆上して、襲い掛かってきたんです」
「……本当か?」
「本当です。ホントにアイツはヤバいやつなんです」
「ふぅ、しかしだな。クラスの連中はお前が相沢を連れ出したって言ってるぞ?」
「……アイツら。あ、いえ、それは見間違えです。一言注意したくて……少し強引になってしまったかもしれませんが。でも、アイツはそんなことで俺たちを殺そうとしてきたんです」
必死に言い訳を繰り返す轟たちを冷たい表情で見下ろす先生の視線が、少しずつ厳しくなっていることに彼らは気付いていなかった。なにしろ、S級と呼ばれるエリート異能力者を四人も動員しているのだから、彼らに全面的に非があると分かれば重いペナルティが課せられる。
「言いたいことはそれだけか。ならば聞くが、私は相沢への対人戦は禁止すると言ったはずだぞ。お前たちの行動は最低でもそれに違反している」
「い、いや。俺たちは手を出していなかったんだ。アイツが先に……」
「ならば聞くが、あそこに落ちている相沢の服は何て説明する?」
「そ、それは……」
「少し調べてみたが、服にはあちこちに擦ったような跡と、土が付いていたぞ? それに……。そもそも服が落ちているような状況に何でなったんだろうなぁ?」
今日一番に低い声で問いかける先生に三人はひたすら震えることしかできなかった。
「とりあえず、今期の成績はマイナス200ポイントだからな。それ以外のペナルティは追って協議する」
「そ、そんな。それじゃあ留年確定……」
「状況を分かっているのか? 下手したらお前ら、ここで人生終わってたんだぞ? いまさら留年程度で済んだんだから喜べ」
「「「……」」」
意気消沈した三人は先生に連れられて、どこかに行ってしまった。その後、私は助けに来てくれた四人のS級に話しかけられた。白瀬さんの他には、私を凍らせた
特に戦闘が得意そうな氷室さんと紫電さんは対人禁止が解けたら模擬戦をしよう、などと言ってきたり、白瀬さんは今度は戦いが始まりそうな時には事前に呼ぶようにと強引に電話番号を交換させられたりした。前々からS級の人たちは変わっているという噂があったが、その噂に違わぬ勢いだった。
「やっと帰ってくれたわね」
「うん、疲れたよ……。今日はありがとう」
「どういたしまして。でも、さっきのは何とか対処しないとダメね」
「あの状態かぁ……どうすればいいんだろう……」
嵐のように彼らが去った後、話題は今日のことになった。おそらく彼らに襲われたことが原因だと思うのだけど……。
「それじゃあ、温泉にいくわよ。明日から」
「えっ?! 何で温泉?」
「ストレス発散よ。これまで無能力者として抱えてきたストレスも関係しているはずだからね」
「なるほど、でも学園は?」
「行く前に検査結果だけ聞きにいくわ。そこからは四日間休みを取ってるから」
「えっ? 授業はどうするのさ」
「心配いらないわ。今日のことで先生方は対応を検討しなきゃだし、他の生徒にも説明が必要になるからね。しばらく休むように先生にも言われたのよ。それでお目付け役の私も一緒に付いていくように、ってね」
「お目付け役って……」
「何よ、今日だって私のおかげで事なきを得たんじゃない」
「まあ、そうなんだけど。わかったよ。それじゃあ、明日からよろしく」
「ふふふ、明日から楽しみね」
その後、他愛もない話をしながら、私たちは帰途についた。
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