第二話 魔法少女と女の子の戸惑い①
ゴブリンを倒してダンジョンから出ると、すっかり日も落ちていた。すでに魔法少女の服装を解除していたため、脱げかけた制服を手で押さえながら、学園の職員室へと急ぐ。
「急がなくちゃ。帰りが遅いと母さんが心配する」
職員室には、放課後にも関わらず、先生方がたくさん残っていた。私はダンジョン攻略実習担当の
「誰だ、お前?」
「いや、相沢ですけど……」
「はぁっ? 何を言ってるんだ?」
そこで契約によって姿が変わってしまったことを思い出した。
「あ、これは……。なんか、異能……で女の子になっちゃったんですよね。ははは」
「元から見た目は女の子みたいだったじゃないか。それよりも、なんで背が縮んでるんだ?」
「ええと、だから異能で……」
「よし、わかった。明日、特別カウンセリングの予約入れておくから、ちゃんと行くようにな」
「いやいや、僕は正常ですよ。いたって正常です」
「おかしいヤツに限って、自分は正常だと言うんだ。大人しく行ってこい」
取りつく島もなく明日の予定が決まってしまった。
「それで何の用だ?」
先生の言葉に本来の用件を思い出して、カバンから剥ぎ取った素材とゴブリンの討伐証明部位を取り出した。
「えっと、こっちが補習の討伐証明です。それで、こっちが剥ぎ取った素材です」
「ふむ。討伐証明は問題ないな。あと、こっちがホーンラビットとリトルボア、それからブラックウルフ――じゃないな。何だこれは?」
「えっと、オルトロスです」
「正気か? お前に倒せるようなモンスターじゃないぞ? だが……、確かに鑑定結果はオルトロスのものだな。全て売却でいいのか?」
「はい」
ユニークモンスターの素材まで売却することに先生は眉を顰めるが、私の事情も知っているため売却を受け入れてくれるようだ。
「わかった。全部いったん預かっておく。正式な査定が終わったら、素材分のお金は口座に振り込まれるからな」
「はい、ありがとうございます」
「ああ、それとユニークモンスター討伐おめでとう。こっちは評価にも加算されるから、今期の成績は期待するといい」
「はい、ありがとうございます」
私は何度も先生にお礼を言い、心の中で達成感と安堵感が入り混じるのを感じた。そして、職員室を後にした時間も遅くなったので、急いで帰り支度をしていると、スマートフォンにメッセージが入った。
「あれ? 美咲からだ。なんだろう……」
『今日は補習おつかれさま。どうせ、困ったことでも起きたんでしょ? 手伝ってあげるから、帰りに私の家に寄りなさい』
「相変わらず勘がいいなぁ……」
まるで未来のことが分かるんじゃないかと思うくらい、彼女は勘が鋭い。しかし、実際に困ったことにはなっているので、大人しく美咲の家に寄って帰ることにした。新宿駅の喧騒を抜け、いつもの京王線ではなく小田急線に乗り換え、成城学園前で降りると、静かな住宅街が広がっていた。彼女の家は駅から歩いて15分ほどのところにあった。呼び鈴を鳴らすと、バタバタと音がして玄関の扉が開き、美咲が顔を出してきた。
「ふぅん、大変だったわね。ま、上がりなさい。葵のお母さんには遅くなるって連絡してあるから。まあ、私の家に来るって伝えたら、『泊ってきても……いいのよ?』って言ってたけどね」
「あははは」
私と美咲は幼馴染ということもあって、小さい頃から家同士の交流があった。学園に上がる前は結構な頻度で彼女の家に泊まったこともある。もっとも、学園に上がってからは最寄り駅が違うということもあって、彼女の家に行くことは無く、今日訪れるのも久しぶりのことだった。
「ま、こんなところで立ち話も何だし。上がってよ」
「はーい、お邪魔しまーす」
彼女の部屋に通された私は、部屋の中央に置かれた段ボール箱に違和感を感じた。
「これは?」
「葵の服よ。ピッタリの服持ってないでしょ。私が小学生の頃の服を引っ張り出してきたのよ」
用意が良すぎだと思ったが、ちょうど着る服が無くて困っていたところだったので渡りに船だった。美咲と段ボールの中身を漁って、良さそうな服を探してみた。
「子供っぽい服ばっかなんだけど……」
「まあ、小学生の服だからね。でも、葵には丁度いいんじゃないかな?」
美咲は私の胸の辺りをチラチラと見ていた。そのことに気付いて思わず胸を手で隠した。
「……男の時より控えめな胸になってるわね」
「しょうがないじゃない。パットじゃないんだから」
「まあまあ、大きいパットより小さい生乳って言うじゃない?」
「初耳なんだけど……」
「私もよ」
彼女の冗談に翻弄されつつも、薄いピンク色のブラウスと紺色のロングスカートを選んで着てみた。
「こんなのはどうかな?」
「うーん、いまいちね」
そんなやり取りをしながら、2時間近く着せ替え人形となって、色々なコーディネートを試す。しかし、尿意が襲ってきてモジモジし始める。
「トイレ行きたいなら、部屋から出てすぐのところにあるわよ」
「わかった、行ってくる」
「漏らしちゃダメだからね」
トイレに入って用を足すと、思わぬハプニングが起きた。
「あわわわ。ちょ、ちょっとぉ……」
「ああ、葵やっちゃったのね」
「ふえぇぇぇ……」
恥ずかしさで顔が真っ赤になり、目に涙が浮かんできた。そんな私の手を握りながら、彼女は私の目を見つめる。
「ここは片付けておくからお風呂にいってらしゃい」
「うぅぅ、ありがとぉ」
「あ、汚れた服は洗濯機に入れておいてね」
「はーい」
お風呂に向かって、服を脱いで身体を洗おうとすると、美咲が入ってきた。
「な、な、なああ?!」
「何よ。驚くことないじゃない」
「いや、私がまだ入っているんだけど……」
「何よ、女の子同士なんだから気にしないで」
「それはそうだけど……」
「ついでに身体も洗ってあげるわ。まだ慣れていないでしょ?」
なし崩し的にお風呂に入るだけでなく、身体も洗われることになってしまって戸惑うが、彼女の方は気にする様子もなく、私の背中にぴったりとついた。
「それじゃあ、葵。そこにあるボディソープを取って。それからスポンジもね」
ボディソープとスポンジを取って渡すと、彼女はスポンジにボディソープをたっぷりと付けて背中を優しく洗う。一通り背中を洗うと、わきの下から手が伸びて前を洗い始めた。くすぐったい感触に戸惑いながらなすがままにされていると、今度はスポンジを置いて手にボディソープをたっぷりと付けて、再び脇の下から手を出してきた。
「デリケートなところはスポンジでも傷つきやすいから、こうして手で洗うのよ」
そう言いながら、身体のデリケートな部分に手を這わせる。先ほどまでスポンジの刺激を受けていた部分が少しだけ敏感になっているようで、手で直接触れられると声が漏れそうになった。
「ちょ、や、やめぇ。んふぅ。も、もう……」
支離滅裂な言葉が口から洩れるが、彼女は容赦なく身体を洗い続ける。手を脇の下から出しているせいで、まるで自分でイケナイことをしているような錯覚を覚えた。一通り洗い終えると、シャワーで全身を洗い流してくれた。
「あふぅ」
「ふふっ、こうやって洗うのよ」
「わ、わかったって……」
少し頬が火照るのを感じながら、全身さっぱりしたことによる気持ちよさからため息が漏れた。身体をきれいにした後は、二人で湯船に浸かって十分に温まってから上がって、二番目に良さそうなコーディネートの服に着替えると、既に寝る準備が整えられていた。
「今日は時間も遅いし、泊まっていくでしょ?」
「うん」
「でも、まずは夕食だね。今日はカレーよ」
「えっ、やったぁ」
思わず歓喜の声が漏れてしまう。彼女の家のカレーは小さいころに何度か食べたことあるけど、いまだに忘れられないほど美味しかった記憶がある。懐かしさを感じながら、カレーを三杯もお代わりしてしまった。その後も美咲につきっきりで指導してもらったおかげで日常生活に支障が無いところまでには慣れることができた。
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