第210話 サスケさんの手伝い完了。

シオウとの戦いが終わるとサスケさんが、のんびり歩きながらこちらへ向かって来る間、カゲと夜叉に残りの構成員を殲滅するように指示を出すと、ギンジに声を掛ける。


「ギンジ、終わったから出て来い」


すると俺の影から出て来たギンジは、疲れた顔をしながら頭を下げた。


「師匠、ありがとうございました」

「リュウゼンの事か?」


ギンジは顔を上げて首を横に振る。


「鍛えて頂いた事のお礼です」

「あぁ、そっちか」

「リュウゼンを倒したのは、師匠が戦いたかったからですよね?」

「まあ、そうかな? それで? 仇が居なくなった今後は、どうするんだ?」


そこでサスケさんが到着し、声を掛けて来た。


「流石マスター、お見事」

「いえいえ、サスケさんも流石ですね。今度摸擬戦しません?」

「いや、遠慮しておくよ」


と、苦笑いで断られる。

俺は断られると思ってなかったので、キョトンとして固まってしまった。


「もっと技を磨いてから挑戦させてくれないか?」

「えっ、今でも十分強いと思うけど?」

「いやいや、キジ丸君に比べたらまだまだ……」


そう言ってしみじみ首を横に振るサスケさん。


「じゃあ、1年経ったらやりましょう」

「分かった。それまでマスターを満足させられるように鍛えておくよ」

「師匠、全員始末するんですか?」


カゲと夜叉が暴れてるのを見ながら聞いて来るギンジ。


「もしかして可哀想とか思ってる?」

「いえいえ、わざわざ殲滅するのかと思っただけです」

「あいつらは裏組織の連中だ。騙されてここに居る訳でも無理やり連れて来られた訳でもない。自分の意思で俺達を殺しに来たんだ。容赦する必要は無いな。それに、いろいろ目撃してる奴らを放置は出来ないだろ?」

「確かにそうですね」

「先程メンバー達にも殲滅するように伝えてある」


と、サスケさんが言うので他の場所を見ると、確かにメンバーが逃げ惑う構成員達を始末してる最中だった。

中にはメンバーに向かって行く者も居るが、実力の差は明らかだ。


そこで周囲を見回し、ふと違和感に気付く。


「また死体が無くなってる。あっ」


俺の言葉にギンジとサスケさんも周囲を見回す中、丁度黒い靄になって消える死体を目撃。

それは一瞬だった。


今のは……まさか悪魔?

だとしたら近くに悪魔が居るのか?

と思い、周囲を探るが見当たらない。

カゲに探ってもらったが、半径10キロ以内に悪魔の気配は無いそうだ。



そこで俺は、この空間に何かまだあるのかと考える。


「そう言えばサスケさん、裏組織は4つありますけど、トップは3人しか居ないんですか?」

「それは私も思っていた。もしかしたら暗黒街のマスターは、逃げたのかもしれんな」

「あっ、暗黒街のトップは、シオウでしたよ。嘘かもしれませんが言ってました」

「ん? どのみち1人足らないな」


そこでギンジが口を開く。


「3人が組織を掛け持ちしてたとか?」

「聞いた時、俺もそう思ったけど、微妙なんだよな。そうだ、サスケさん、シオウがサイは『ある人を追いかけてどこかに行った』と言ってましたよ」

「ある人? 奴らの言う事を全て信じる事は出来ないが、あいつが居れば姿を現してるはずだしな。いったい何を考えてるのやら」

「結局サスケさんの息子さんは、敵なんですか? それとも味方?」


ギンジの問いに俺とサスケさんは、どう答えるか悩んだ。

忍者は、時と場合によっては敵にも味方にもなる。

サイは、何か目的があって動いてるのは確かで、その目的のために俺達と敵対してるなら敵だが、俺達と完全に敵対する感じはしなかった。

戦うならシオウ達と一緒に殺しに来るはず。

なのにそれをせず、誰かを追ってこの場を離れてるのは……。


俺が思考を巡らせてるとサスケさんが先に答える。


「あいつの目的によっては敵にも味方にもなる。忍びとはそういうものだ」

「それは、任務のためならサスケさんとも戦うって事ですか?」


サスケさんは頷く。


「親子で殺し合いなんて……」

「ギンジ、それが忍者だ。親子の絆、恋人の絆、家族の絆よりも忍者にとって優先されるのは、任務、自身の目的になる」

「あ~、日本で育った僕達とは、根本が異なりますね」

「俺も日本で育ったけど?」

「師匠は……忍者の中の忍者って感じですよ」


サスケさんも頷く。

まあ、ゲームの時から忍者になると決めた瞬間から、俺の知る忍者であろうと心がけて来たな。

それが異世界に来て現実になったお陰で更に、キジ丸としての自覚というか忍者としてあろうという気持ちは強くなったと思う。

もしかして俺の前世は忍者だったのかな?


「まあ良いか、サイの事は俺が旅をするついでに探るとしよう。それでギンジはどうするんだ?」

「僕は……サスケさん達と残ろうかと思います。良いですか?」

「私の所に? 別に構わないが、仕事はしてもらうぞ?」

「勿論です」


仇が居なくなったしな。

また彼女を作る気にはなれないか?

よっぽど好きだったんだねぇ。

青春だねぇ~。



そんな話をしてる間に殲滅が終わったようで、戻って来たカゲと夜叉に特製干し肉をあげて送還する。

夜叉も俺の特製干し肉が気に入ったらしい。


みんなで黒い靄になって消える死体を確認し、全ての死体が消えたのを確かめるとサスケさんに向かって問う。


「これで任務完了ですね?」

「ああ、後は政府の連中だけだがこれは、我々だけで十分対処出来る。マスター……ありがとうございました」


サスケさんとメンバー達が突然片膝を突いて跪き、頭を垂れる。

今回の仕事に報酬は無いからな。

終わったならゼルメアを目指すだけだ。


「それで報酬の件だが」

「異界の里のメンバーであるサスケさんの手伝いだから、要らないって言ったでしょ?」

「そうだがやはり何か報酬をとずっと考えていたのだが今回は……チャルドム共和国とその周辺国の平和を報酬としたい」


ほう、そう来たか。


「十分な報酬だな」

「それともう一つ」

「まだ何か?」

「ずっとメンバーの者に情報収集させていたんだが、ゼルメアへの行き方について分かった事がある」

「マジで?」

「チャルドム共和国の北西に『ジャンブロート王国』という島国があるのだが、そこからゼルメアへ船が出てるらしい」

「ほう、チャルドムからは出てないのか」

「昔からチャルドムは、海を渡ってゼルメアにちょっかいを掛けてたらしいが、ここ数百年は、船を出してないそうだ」

「海に魔物でも出たのかな?」


サスケさんは首を横に振って答える。


「チャルドムは、そのジャンブロート王国を実行支配し、その国を基盤に向こうの大陸に侵略しようとしてると噂程度だが、そういう情報が入ってる」

「なるほど、海じゃなく陸から行く気だな」


とりあえず、そのジャンブロート王国に行ってみるか。

チャルドムの奴が何かやってるなら、また邪魔してやろう。

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