第192話 裏の裏の裏の……。

サスケさんが確認したい事があると言ってから2日目の昼。

俺はこの2日間、のんびり街を観光していたのだが、魏王一家の事件は街中に広まらず、女神の懐も騒ぎにならなかった。

というか、一般人は誰も気付いてないようだ。

まあ、相変わらず犯罪はあっちこっちで起きてるけどね。


『スリだ!! 誰か捕まえてくれ!!』


人混みの中を歩いてると、前の方からそんな声が聞こえて来た。

この街じゃこれが日常茶飯事だ。

昨日も3回は聞いたぞ。


なんて思ってると前方から男が、人を押しのけて走って来たので横へスッと避けながら足を引っ掻け転ばせる。


「ぐっ!? ってぇなコラァ!!」

「クズが何を言ってんだか」


手を突いて起き上がろうとするが身体が動かず、追いかけて来た男に取り押さえられてしまう。

はい、不動金剛術です。


周囲の人は距離を置いてスリが捕まるのを、またかといった感じで見ていた。

男が取り押さえたのを確認して不動金剛術を解除し、観光の続きをする。



その後、屋台で肉串を買って食べながら歩いてると、ギンジからリングに連絡が入った。


『師匠、首都に到着しました。今どの辺りですか?』

『えーっと、街の中心から少し西を歩いてるところ。お前はどこに居る?』

『南のゲートから入ってすぐの所です』

『じゃあ、メイン通りをそのまま北へ向かった広場で落ち合おう』

『了解です』


リングの通話を切ると広場へ向かい、10分程で到着。

噴水とベンチのある広場で、背の高い木が数本植えられている。

広場を見回すがギンジの姿は無い。


噴水近くのベンチに座り、煙草を吸い始めると背後から近づく気配がしたので空間感知で確かめるとギンジだと判明。


「師匠、お久しぶりです」

「よう。ギンジもチャルドムに入ってたんだな」


ギンジが隣に座って答える。


「師匠と別れた後、そのまま北上してチャルドムに入りました。リュウゼンの情報を集めていたんですけど中々……それでリュウゼンはどこに?」

「さあ? たぶんあそこ」


そう言って近くに聳え立つ、政府の中枢である4つのビルを指す。

あそこが何なのかギンジは知らないので、分かってる事を説明する。

政府の中枢にアジトがある事、明日会合が行われる可能性がある事を。


「それでサスケさんが確認したい事があるって言うから、今はサスケさん待ち」

「サスケさんとは?」

「……あっ、そっか、知らないよな」


なぜか知ってると思って話してたよ。


「異界の里のメンバーで元住人で影の里の忍び頭だ」

「影の里? 風の里や火の里は知ってますが影の里なんてあったんですか?」

「魔の領域の中にある忍者の里だな」

「魔の領域に……あれ? そんな里の忍び頭がなぜ師匠のクランに?」


時間はあるのでサスケさんとの出会いから話す。

チュートリアルで俺を担当してくれたのがサスケさんで、影の里への届け物をして再会し、影忍になるための試練のサポートをしてもらった事など。


「なるほど、凄い経験ですね」

「って言っても、所詮はゲーム……と思ってたんだけどねぇ。まさか現実になるなんて思わないよなぁ?」

「はは、それはプレイヤー全員が思う事ですよ」


それからサイの話をして、裏の忍びになった事を話すと。


「つまり死んだはずの息子が生きていて、暗黒街という組織に入っていたと……サスケさんは何を確認してるんですかね?」

「今日連絡が来るはずなんだけど、まだ来ないんだよねぇ」

「まだ確信が得られてないとか?」

「それか、確信を得られたからこそ、話せないのかも?」

「……息子が既に裏切ってるのは明らかですから、今更話せない事なんて無いと思いますけど?」


普通に考えたらそうだが忍者の場合、その裏を読まないといけない。

なぜ死の偽装をしたのか、なぜ裏の忍びになったのか、この2日間俺もいろいろ考えていたがその答えはまったく分かん。

情報が少なすぎる。


「何か理由があるんだろ。じゃないと……」


そこでサスケさんから念話が届く。


『キジ丸君、確認が終わった』

「サスケさんから念話だ」


ギンジにそう言って念話で答える。


『で? 答えは?』

『サイがなぜ死の偽装をしたのかは分からないが、何かしらの理由で裏の忍びの組織に入ったのは確かだ。情報を集めたが結局そこは分からなかったよ』

『それでトップ達は?』

『ああ、明日、政府の中枢の地下で会合が行われるという情報は確かなようだ』

『結局その情報はどこから出たんですか?』

『……サイだ』

『ん? あの時そんなやり取りって、念話ですか?』

『いや、あいつが言った言葉だよ』


何て言ってたっけ?


『俺は任務があるので帰らせてもらう。いつもの見回りが3日も掛かってるんでね。昼までには終わらせたかったが……という言葉、これは情報を伝えるための言い回しだ』

『つまりサイは、暗黒街に潜入してるって事ですか?』

『いや、これは分かりやすい言い回しだったから微妙だったのだ。なのでその情報が正しいのか確認していたが、会合がある事は本当だ』


うむ、サイはサスケさんに分かるような言い回しをしてその情報を伝えたが、サイが味方か敵か分からないので、情報の精査をしてたって事か。

情報が正しかったって事は、サイは味方?


『サイは味方って事ですか?』

『いや、そうとも言えない。読んで来る事を想定してああいう言い回しをした可能性もある』

『でも情報は正しかったんですよね?』

『ああ、しかしこの情報には、我々を誘き寄せるための罠という可能性もある』


なるほど。

裏の裏の裏を読んで、俺達が来るように誘導してるって事か。

結局サイが敵か味方かは、組織を潰すまで分からないと。


『サイが組織に入った理由は分かないんですか? 何か任務があるとか……』

『うむ、随分前の事で、殆ど覚えていないのだ。すまない』


100年以上前だもんなぁ。


『まあ、どちらにせよ。行くんですよね?』

『大量の敵が待ち構えてるかもしれない。死ぬ可能性が高いぞ?』

『俺を誰だと思ってるんですか? 大量の敵? 訓練に丁度良いじゃないですか』

『ははは、罠を訓練と言うか……』


おそらくこれは罠だろう。

違うならそれで構わないが、アジトを襲撃されたトップが動かないのは、俺達を誘き寄せるため。

普通は、襲撃されたのに会合なんて開いてる場合じゃない。

なのに会合を開くって事は……襲撃されるよりもっと重要な事がある?


『罠といっても大量の敵かどうか分かりませんよ? 例えば……俺達を悪者にするための罠の可能性もありますね』

『なるほど、国の敵になる可能性もあるのか』

『その時は、正面からこの国を潰してやるけどね』

『流石マスター、では準備をして明日の会合に合わせ、あの建物へ潜入しよう』

『了解です』


念話を終了し、今話した内容を簡潔にギンジにも話し、そこにリュウゼンが居る可能性がある事を伝えるとギンジも明日、一緒に行く事になった。


どんな罠が待ってるんだろう。

ワクワクする!

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