第186話 女神の懐。

影に潜って敷地内の建物を調べていると、いろんな人を発見。


「女神アメリース様、どうか我らに御加護を……」

「私はずっと若いまま生きていたいです」

「どうか良い男と出会えますように」

「めがみさま、おかあさんがもどってきますように」

「何でもします。どうか永遠の命をお与え下さい」


と、体育館程ある広い部屋で人々が跪き、女神像に向かってお祈りをしてたり、この宗教をどうやって広めるか部屋で話し合ったり、若い女同士でレズってたりといろいろである。


あっ、絡み合ってるのは暫く観察してましたよ。

幸い、男同士の絡みを発見しなくて良かった。


しかし、あっちこっち見て回ってるが、誰が上層部なのか分からない。

全員怪しく見えて来るのはなぜだろう。

裏の仕事に関わってるのは上層部だけ、一般の信者はただの信者だ。

では、どこからが関わってるのか?


『裏の仕事に関わってる者』と設定して心眼で視たが、赤く視える者は居なかった。

この敷地には居ないのかな?

なんて思いながらも一番大きな教会の内部を探ってると、ダンから念話が届く。


『マスター、上層部の者を発見しました』

『どこだ?』

『どうやら裏に関わってるのはどれも、役職を与えられてる者のようです』

『役職?』

『司祭やシスターといった感じです』

『シスターも裏に関わってるのか?』

『はい』


心眼で視たけど赤くなかったぞ?

なぜ……もう一度試すか。

と、礼拝堂へ戻るとシスターが居たので心眼で視ると、先程と一緒で青く光ってる。


裏の仕事ではなく、裏に関わってる者で視ると赤く光るシスター。

なるほど、人身売買などではなく、裏に関わってるだけか。

それでも、犯罪に手を染めてるのは明らかだ。


ダンになぜ分かったのか聞くと、トップと思われる者の部屋で隠し部屋を発見。

大量の資料に名簿が置いてあったそうな。

何の仕事をしてるのか細かく書かれていたらしく、全員役職がある者だったらしい。


『トップは居たか?』

『いえ、部屋には居ません』


そこでバルから念話が入ったので、全員で念話会議を始める事に。


『マスター、トップと思われる者は現在、南東にある建物で講義を行っています』

『そう言えばトップってどんな奴?』

『聖女のような白いローブを着た長い銀髪の女の子ですね』

『女の子がトップ?』

『見た目は成人したての女の子に見えますが、見た目通りの年齢とは違うと思います』


その理由は、講義をしてるトップの喋り方や仕草、立ち居振る舞いが明らかに子供ではないという。


『確実ではありませんが、おそらくトップは、小人族かエルフの可能性が高いと思われます』


確かに女の子に見えても年齢が違うなら、その種族が有力だが……忍者という可能性もあるんだよね。

あとは幻術師か。

見た目を変える方法はいくらでもある。

しかし、見たまんまの年齢って事もあり得るからなぁ。

とくにこの世界なら猶更。


講義をしてる場に一般信者は居るのか聞くと、一般信者と数人のシスターとトップしか居ないとの事。



どうするか考えてると式紙の鳥からリアルタイムで、映像が送られてきた。


『なっ!?』

『クソッ!!』

『やった奴を捜せ!!』


と、魏王一家の三兄妹の首が並べられた部屋に、構成員が入って来たところである。

出掛けていた奴らが返って来て外の死体を見たのか大騒ぎだ。

そりゃ殆どの組員が死んでるんだもんね。

しかし、トップらしき者は居ない。


『おい! 親父に知らせろ!』

『今はどこに居るのか分からねぇぞ!?』

『そうだ、若しか知らないんだった……とりあえずやった奴を探し出せ! 誰か生きてるはずだ! 目撃者も探せ!』


なるほど、トップの居場所は兄妹の誰かしか知らないのか。

俺は式紙に、そのまま見張るように指示を出し、念話会議に戻る。


『よし皆。一般信者にバレないように、役職に就いてる者達を始末していこう。騒がれたら面倒だ。それと、姿を見せる時は女に変装しろ。トップは、俺がやる』


そう言うと3人とも了承し、念話を終了。


影の中で日本に居る時見ていたアイドルに変装し、影渡りでトップが居る南東の建物へ移動。

体育館のように広い空間に椅子が並べられ一般信者が数百人座り、奥の舞台に女の子が教壇に立ち話しをしていた。


「私達は、女神アメリース様に護られています。永遠の命を望む方は、強い祈りと覚悟を表すためのお布施が必要です。私は全財産を寄付した事で今の立場になりました。女神アメリース様の声を聞き、数十年歳を取る事もありません。更に私には奇跡が起きました。それは……長年治らなかった病が治った事です! 以前私は、醜い見た目をしていました。ですが……」


と、胡散臭い話が続く。

それから数分程してトップの女の子が舞台袖に引っ込み、シスターが代わりに話を始めたので舞台袖へ移動。


影の中からトップを探すと奥の扉へ入って行くのが見え、彼女の影に移動してどこへ行くのか確かめるとトップは、地下へ続く階段を下りて行く。

これだけデカい敷地と建物だ。

地下があっても不思議じゃない。


どれくらい下りたのか最下層に到着すると、扉を開けて中に入るとそこは、数人の男達がソファやテレビが置かれた広い部屋の中で寛いでいた。


「よう、お疲れさん」

「どうだった?」


するとトップは、首を横に振って答える。


「いや、今回は微妙だな」

「まあ、あいつらが上手くやるだろ」

「だよな。シスター達は、この女神の懐に全てを捧げてるからなぁ」


トップが歩いてソファに行くと、見た目を男に変えて座った。

幻術?

いや、あれは変装術か。

やっぱり忍者も居るのかよ。


「これで俺の番は終わりだ」

「あぁ、次は俺か、はぁ~、マスターに変装するのは緊張するぜ」

「下手な事したら始末されるからな」

「マスターの本当の姿って見た事あるか?」

「いや、俺は無い」

「俺も」

「誰も見た事無いだろ? 幹部の人でも知らないらしいぞ?」

「あんな可愛いならやりたいぜ」

「殺されるぞ?」

「いや、たまに男を連れ込んでやってるらしい」

「マジかよ。俺も呼ばれたい」

「下手だったら殺されるかも?」

「……分身で練習しとこう」

「俺も」


マジかぁ。

ここもトップが不在?


「そう言えば、マスターはいつ帰って来るんだろ?」

「さぁ? 戻るまでは俺達がマスターのフリをしないといけないからな。早く戻ってほしいぜ」

「聞いてないのか? 会合があるらしいぞ」

「会合って……四皇帝の!?」

「って噂だ」

「噂かよ」


うむ、会合ねぇ。

そのために組織のトップが誰も居ないのか?

おそらく武双連合のトップも居ないはず。

なら、トップが帰ってくる前に、他の連中を始末しときますか。


帰って来たらブチギレするかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る