第176話 スカウト。

ダルサムにお礼を言ってからギルドを後にし、まず近い魏王一家のアジトを目指す。

人混みを歩いてると気配を察知し、前から歩いて来た男を避ける。

すれ違いざまに男は『チッ』と舌打ちをした。

スリだな。

まあ、ポケットには何も入って無いけど。


そのまま人混みの中を歩いてると、4人の男達がスッと前に出て来て道を塞ぐ。


「何の用だ?」

「向こうで話そうか」


金髪の短髪というか坊主で、額に傷跡がある男が言う。

いかにもチンピラって感じだ。

他の奴らもね。


道のど真ん中だと他の人の迷惑になるので、男に付いて行くと2人が俺の後ろに付く。

そのまま人が居ない路地に入り、通りから見えない位置まで来ると後ろに居た茶髪が後頭部を殴ろうとしてきたので避けながら振り返り、腕を掴むと捻り上げて茶髪の後ろに回る。


「いっ!?」

「いきなり攻撃とは、良いねぇ~」

「ほう、そいつの攻撃を避けるとはな。まあ、合格だ」

「合格? 何が?」

「俺達は武双連合の者だ」

「武双連合? 犯罪組織が何の用だ?」

「はっ、俺達は別に犯罪組織じゃねぇ」


サスケさんの話しだと、武闘派組織で暴力事件をしょっちゅう起こしてる組織だ。


「いつも暴力事件を起こしてるって聞いたけど? あと殺人もするって」

「それは俺達を舐めた奴らを見せしめにしてるだけだ。それと……暴力事件は相手が喧嘩を売って来たから買ってるだけで、こちらから殴り込みをした事は一度も無い」

「ほう、ただの戦闘集団って事か?」

「うちの組織は、ここまで武力だけでのし上がったからな」

「で? そんな組織が俺に何の用だ?」


問い掛けながら茶髪の腕を離す。


「お前、さっきギルドから出て来ただろ?」

「ああ」

「冒険者か?」

「まあな」

「ランクは?」

「C」

「ならうちの組織に来い。Cランクなら部隊のトップになれるぜ?」


なるほど、勧誘か。

戦力のある者をスカウトね。


「あぁ……俺を組織のトップにするなら考えてやる」

「ほう、どうやら俺達を舐めてるようだな」

「まあ、たかが犯罪組織のトップになんて興味は無いけど」

「ランクCで魔力が使えるからって調子に乗ってるようだな。ちなみに俺を冒険者ランクで言えば……Aだ」

「Aってどれくらいか知らないんだけど?」

「お前冒険者だろ?」

「登録しただけで依頼も受けてないし、ランクにも興味が無いから」


いずれゼルメアに帰るからな。


「そうか……他の組織に入られると面倒だ。やれ」


男がそう言うと俺を囲っていた3人が、まったく動かない。


「おい、どうした? さっさとやれ」

「動けないみたいだねぇ~」


囲ってる奴らがガタガタと震え、冷や汗をかくのを見た男は。


「どうした? ……ビビってるのか?」

「ビビってるっていうか、俺の威圧で動けないんだよ」

「威圧? ……テメェ何者だ?」

「だから、ランクCの冒険者だって……たぶん」


ニヤっと笑うと男は、面倒臭そうに溜息を吐く。


「はぁ~、仕方ねぇ……俺がやるか」


男はノーモーションで左拳を打ち込んで来たが、避けるまでもなく右手で受け止め、強めに拳を握る。


「ぐあっ!?」

「ほらどうした? ランクAってこの程度か?」


すると男の右拳が迫って来たので左手で受け止め、また強く握る。

それで少しメキっと音がした。


「残念だ。もっと強いと思ってたけど、この程度とはな。刃物を出さなかったので命だけは取らないでおいてやろう」


そう告げて男の両拳を握りつぶす。

バキボキと音が鳴り響くと男は、声にならない声を出しながらその場に蹲る。


「っ!?」

「素手で来るなら命は取らない。他の奴にも言っとけ。もし武器を手に現れるなら死を覚悟して来いってな」


威圧で動けない3人の男達の腹に軽く拳を打ち込み、全員蹲ったところで表通りへ向かって歩き出す。

が、すぐ立ち止まり、男に近付いて問いかける。


「そう言えば聞きたい事があるんだけど、暗黒街のアジトってどこか知ってる?」


しかし、痛みで何も答えられないようだ。


「仕方ない。足も潰せば答えてくれるかな?」

「ま、はあ、はあ、待て……くっ……つっ~……」

「さっさと答えろ」

「はあはあ……あ、暗黒街の奴らは誰も知らない……四皇帝と幹部以外は……誰も、暗黒街が存在してるとは、思ってない。それだけ情報が出回らないんだ」

「お前は知ってるようだが?」

「はあ、はあ……っ……俺は、幹部の人に、聞いた事があるだけだ」

「ほう、それはなんて?」

「……暗黒街に……関わるな」

「それだけ?」


頷く男。


「暗黒街に詳しい奴を紹介してくれ、そしたらその怪我治してやるぞ」

「……分かった。幹部の人を、紹介する」

「よし」


俺は体内に印を書き、全員を治療した。


「バキバキだった手が治った……あんた、本当に何者だ?」

「ただのCランク冒険者だって、それより暗黒街について知ってる奴を紹介しろ」

「あ、ああ、この時間ならあの人は居るはずだ。案内する」


そう言って立ち上がり、歩き出す男と痛みが無くなって驚く他の者達が歩き出したので、後を付いて行く。

その道中。


「向かってるのは武双連合のアジトか?」

「いや、俺達にアジトは無い」

「アジトが無い? それで組織として成り立つのか?」

「あぁ、いうなれば俺達のアジトは、この街全体がアジトだな」


決まったアジトが無いのね。

だからギルドでもアジトを把握してないと。

そりゃ無いから無理だな。


男の名前を聞くとリーダーは『サイルカ』で、他の者は茶髪が『ベスタル』緑の髪が『ホーカス』黒髪が『カデミル』との事。

武双連合でスカウトの仕事を任されてるらしい。


雑談をしながら歩く事約10分後。

通りから少し入った細い路地にある食堂に到着。

看板には『コバルト』と書かれてる。


サイルカが扉を開けると中は、薄暗く明かりが点いてない。

左手にカウンターがあり、正面と右手には丸テーブルが幾つか乱雑に置かれ、その上に椅子を逆にして乗せられてる。

店はすでに潰れてるっぽい。


「すみません! サイルカです! 『レオン』さん居ますか!?」


レオン?

どっかで聞いた事がある名前だな。

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