第174話 チャルドム共和国の街。

時は少し遡り、チャルドム共和国の冒険者に変装し、強制送還された俺の影分身は、4時間程でチャルドム共和国に入り、最初の街で警察署に護送されて牢屋に入れられると1時間もしない内に釈放。


「ほら出ろ」


何も言わず言われたまま牢屋から出るとそのまま、出入り口まで連れていかれ、荷物を返されると。


「もう捕まるなよ。あの国の奴らは馬鹿だからな。お前が捕まってると思ってるだろうが、あいつらの国で何をやってもこっちでは犯罪にならない。お前も強制送還でよかったな」

「ん? 他に何かあったっけ?」

「その場で殺される事もあるだろ?」


なんて話して正面玄関に到着すると、騒ぐ旅行者っぽいカップルに手錠を嵌めて連行している警官を発見。

すると横の警官は、いやらしい笑みを浮かべていた。


「旅行者が何かやったのか?」

「ん? あぁ、何か盗んだんだろ」

『今晩はあの女をたっぷり味わえるな』


適当な罪をでっちあげて逮捕し、旅行に来た女を玩具にするって訳か。

相当腐ってるな。


「ほらさっさと行け、もう捕まるなよ」


と、面倒臭そうに言いながら去っていく警官。

さて、あの旅行者は、本当に何か罪を犯したのかな?

とりあえず外に出て建物の陰に隠れると影に潜り影渡りで、先程のカップルの女の影へ移動。


するとカップルは途中で別々に連れて行かれ、女は牢屋に入れられてしまう。

男の方を確かめると地下の薄暗い部屋に連れて来られたようで、部屋の中心に置かれた椅子に縛り付けられ、警官が出て行き扉を閉められる。


「クソッ! おい! 俺達は何もやってない!! マリヤナはどこだ!? 聞いてるんだろ!? 何なんだよ……」


俺は冒険者からアリバに変装し、影から出て男の背後に立つ。


「どうもっす」

「っ!? 誰だ!?」

「静かに、警察が来ると面倒なんで……ちょっと話を聞きたくて、どうして逮捕されたんすか?」

「……俺達はただ買い物をしてただけだ。なのにいきなり警官に囲まれて、店の物を盗んだとか言って無理やり連れて来られた……俺達は何も盗んでねぇ! なのに……マリヤナ……」

「マリヤナって彼女さんっすか?」

「妻だ、新婚旅行で来たのにこれじゃあ……クソッ!」


それから男にいろいろ聞いた。

男の名前は『ケルヤ』と言ってチャルドム共和国の北にある『ジャボレ』という小さな国から来たそうで、民主制の国らしい。


「チャルドム共和国の噂は聞いた事無いっすか?」

「治安が悪いってのは聞いてたけど、それはどの国も同じだろ? でもまさか警察がこんな事をするなんて……もう俺達は終わりだ。マリヤナも……あの警官、絶対殺してやる。死んだら幽霊になって呪ってやる」


どの国も治安はだいたい一緒か。

仁皇国は、移民のせいで治安が悪くなってるし、ここは元から治安が悪い。

終わってるねぇ。

一般人は、よくこんな国で暮らせるな。


「この街にはどうやって来たんすか?」

「バスだ」

「じゃあ、彼女さんと一緒にここから出してやるから逃げるっす」

「はっ? 何であんたが……」

「あっしはこの国の人間じゃないっすからね。不当逮捕で女が玩具にされるのを黙って見てるつもりは無いっすよ」

「玩具? それはどういう事だ? マリヤナが玩具にされるのか!?」

「まあまあ、今は牢屋に入れられてるだけっすから大丈夫っす。それよりさっさと行くっす」

「でも手錠の鍵が……」


無いと言う前に、手錠に触れて収納。


「これで大丈夫っす。次は彼女さんの所に行くっす」


そう言ってケルヤを影に沈めて俺も沈むと、彼女さんの影に移動するが牢屋なので、近くに警官が居て出るとバレるので何も言わないまま彼女さんを影に沈め、建物の外の影に移動。


影渡りで路地裏の影に移動すると2人を影から出す。


「えっ!? ここは!? さっきまで牢屋に……ケルヤ!!」

「マリヤナ!!」


ケルヤがマリヤナをギュッと抱きしめる。

ちなみにマリヤナは、牢屋に入っていたからなのか手錠はされていない。


「えーっと、バスってどこから乗るんすか?」

「っ!? 誰ですか!?」

「落ち着けマリヤナ、俺達はこの人に助けてもらったんだ」

「どうも、アリバっす。それでバスってどこから乗れるんすか? あっ、金と荷物は?」

「捕まった時、警察に没収された」

「ケルヤに貰った指輪まで盗られたの、ゴメンねケルヤ……」

「大丈夫、また買うさ」

「ちょっと待ってて下さいっす」


そう言って影に潜り、空間感知と魔力感知でカップルを連行していた警察を探すと、自分のデスクに座ってPCで報告書を打ち込んでる足元に、カップルの荷物と思われる物が幾つか置かれているのを発見。

すぐさま全て収納してカップルの下へ戻る。



影から出て荷物を出すと。


「俺達の!?」

「取り返してくれたんですか!? あっ、指輪!」


そう言って荷物を漁る彼女さん。

しかし、指輪はどこにも見当たらないようだ。


「これは、俺達の物じゃないですね」


どうやらカップルの荷物以外も持って来てしまったらしい。

もう一度警官の所へ戻ると、デスクの足元を漁って何か探してるようだった。


「無い……どこだ……」


警官の影に潜みながら空間感知で警官を探ると、ポケットの中に指輪が入ってるのを発見し、すぐさま影に沈めて他の荷物も沈めるとカップルの下へ戻る。


指輪と持って来た荷物を全部見せると2人の物もあったらしく、えらい喜んでくれた。


「ありがとう!」

「ありがとうございます!」

「いえいえ、じゃあバス停まで送るっす」


そう言って2人を影に沈め、影渡りで街の中央付近にあるバス乗り場へ向かう。

ケルヤが言うにはこの街は、あっちこっちから来るバスが多く、街の中央に大きなバス乗り場があるらしい。



その後、2人は無事バスに乗ってこの街を出るのを見送ると俺は、さっそく観光をしながらこの国の事を調べ始めた。

移民やら民度が低い国。

治安も悪くて腐った警察。

もしこれが普通なら、この国は終わってるぞ。


フッフッフッフッ、クズが居れば甚振って始末してやろう。

警官も始末しないとな。

とにかく観光だ!

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