第167話 リュウタ。
街中は、全部の道が石畳が敷かれ、馬車が通るように車が走っている。
道の端を歩いて街中を観光しながらお化け屋敷に向かってると、前から歩いて来る男と目が合い、驚いた表情をして動きがピタッと止まった。
男の目を見ながら歩いて近づき、横を通り過ぎる少し前に声を掛けて来る。
「あ、あの」
「はい?」
「き、キジ丸さんですよね?」
「そうですけど、誰ですか?」
「あっ、すみません。俺は『リュウタ』です。ゲームの時、あなたの動画見ました」
「あぁ、どうも」
リュウタは、ボサボサの黒髪で目が少し隠れる程の前髪、ハッキリ言って普通の若者って感じだ。
青いTシャツにカーゴパンツっぽい深緑のズボンで、サンダルを履いてる。
「キジ丸さんもやっぱりこの世界に来てたんすね」
「まあ、最近来たばかりですけど、それで何か?」
「あ、いえ、知ってる人に出会ったのでつい、一方的に知ってるだけですけど」
なるほど。
街中で有名人に会った感じか。
「そうだ。お化け屋敷の詳しい場所って分かります? 南東にあるとは聞いたんですけど」
「えっ、あそこに行くんですか?」
「探してる人が居るかもしれないんで」
するとリュウタは、すこし考えて答える。
「……俺が案内しましょうか?」
「教えてくれるだけでも良いでんですけど?」
リュウタは近づいて小声で話す。
この街は、小声で話す奴が多いな。
「案内する代わりにキジ丸さんにお願いがありまして」
「お願い? ……いえ、遠慮しときます。じゃあ」
そう言って歩き出そうとしたらリュウタが慌てて、俺の横を歩きながら小声で話しかけてくる。
「ちょ、ちょっと待って下さい。お願いします。報酬は払います。話だけでも……」
俺は歩きながら答えた。
「内容は?」
「今から向かうお化け屋敷、そこには、忍者が居るんです」
ほう、知ってるのか。
「それで?」
「実は……俺も忍者でして」
「で?」
「驚かないんすか?」
「忍者なら従者に居るからな」
「えっ、ハンゾウも来てるんですか!?」
「それより君が忍者で、俺にお願いって何だ?」
「はい、異界の里って知ってますよね?」
「あぁ、そんな名前のクランがあったな」
「それで……」
リュウタのお願いとは、今向かってるお化け屋敷に居る異界の里の仲間に入りたいらしい。
しかし、1人で行ってもすぐやられて追い返されるだけ。
そこで最強プレイヤーと名高い俺と一緒に行き、忍者を制圧して仲間にしてもらおうという魂胆だ。
なんとも情けないお願いなのだろう。
そんなんでよく忍者をやってたな。
「今のクラスは?」
「忍び頭です。結構強い方だと思いますよ?」
「だったら1人で行けよ」
「いや、異界の里の人達は、もっと強いんすよねぇ。たぶん忍び頭以上だと思います」
「1人で制圧出来ないなら仲間には入れてもらえないんじゃないか?」
「話だけでも聞いてもらえればと思ってるんですけど、入ったら有無を言わさず襲われるらしくて」
まあ、忍者の領域に入ればそうだろうな。
もし入るなら、正しい手順を踏まないと排除されるのは当然。
「何か合言葉とかあるんじゃないか?」
「そんな噂聞いた事も無いっす」
「で、俺が制圧して話を聞いてもらおうと?」
頷くリュウタ。
「ちなみにその話って?」
「実は忍者には、いくつも里があるんすよ」
知ってる。
「その里の場所の情報とか忍者の情報、あとはチャルドム共和国の情報とかと引き換えに、仲間に入れてもらおうかなと」
里と忍者の情報は、相手も忍者だから知ってる事だと思うが。
「チャルドム共和国の情報? それってどんな情報?」
リュウタは、周囲を見てから小声で話す。
「キジ丸さんには特別に教えますが、誰にも言わないように」
「分かった」
「チャルドム共和国の……」
チャルドム共和国の情報とは、その裏に居る組織『四皇帝』の事で、リュウタの話しによるとその四皇帝がチャルドム共和国を裏で操り、大陸統一を目指してるとの事。
「大陸統一って、馬鹿なのかそいつら?」
「まあ、普通そう思うっすよね。でも本気らしいっすよ」
「裏組織が大陸統一は無理があるだろ」
「いや、それがそうとも言いきれないんですよ。四皇帝のメンバーは殆どが不老、いや、全員が不老と言っても良いかもしれないっす。年を取らない組織なら時間を掛けてじわじわと国盗りも出来るんじゃないっすか? 既にチャルドム共和国のトップは、四皇帝の誰かって話しです」
歳を取らない統一を目指してる国のトップね。
良い未来が思い浮かばないな。
それにしてもなぜリュウタがそんな事を知ってるのかだ。
もしかしてスパイ?
「何でそんな事を知ってるんだ?」
「忍者のスキルで情報屋をやってるんすよ」
「なるほど。こっちに来てどれくらい経つ?」
「まだ半年も経ってないっすね」
「それでよく情報を集めたなぁ」
「ゲームの時もやってたんで」
情報屋か、ゲームの時からやってるなら情報集めは慣れてるだろう。
その能力を売りにして仲間に入れてもらおうって事か。
「ん? その情報集めの能力を使って異界の里の事の情報は得られなかったと?」
「そうです。お化け屋敷周辺や街中をしらみつぶしに探ったんすけど、まったく何も情報が掴めませんでした」
そう言って肩を落とすリュウタ。
異界の里を名乗ってるって事は、うちのメンバーの誰かなのは間違い無い。
いや、異界の里の者を誘き寄せるために名乗ってる可能性もあるな。
もしメンバーの誰かなら、すぐ俺に気付くはず。
しかし襲って来るなら……殺さず捕らえて話を聞くか。
そしてリュウタの事はどうするか……強さはそれ程でもないが情報収集には長けてるし、諜報員としてメンバーに入れてやろうかな?
「リュウタの話しは分かった。お化け屋敷に行ってもし異界の里の者が出て来たら制圧する。俺が話しをした後なら好きなだけ話して良いぞ」
「ありがとうございます! よし、これで俺の将来も安泰だ」
この世界に来てちゃんと生きる道を決めてるんだな。
将来か……。
その後、いろんな話をしながらリュウタの案内で、お化け屋敷へと向かった。
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