第162話 山に住むショタ。

セイリュウ砦へ続く街道は既に使われておらず、草が生え放題になった状態だ。

砦を迂回するように新たな街道が敷かれたらしい。

普通こういう廃墟には、魔物が住み着くが空間感知と魔力感知、そしてカゲの探知には何も引っ掛からないので魔物は居ない事は把握済み。


カゲから降りて一緒に中へ入る。

懐かしい。


「……あんなに冒険者が多かったのにな」

『魔の領域が無いので捨てたのでしょうか?』

「どうだろう? 争った後はあるから戦争で潰れたまま放置してるんじゃないか?」


魔物が暴れたというより人間同士の争いの痕跡だ。

大昔にボルケンと戦争した時に潰れたんだろう。


建物内もあっちこっち崩れていたりしてるが、ギルドだった建物は綺麗に残ってる。

以前は中に入ると見えなかった空が今は、天井の一部が崩れて結構明るい。

懐かしみながら砦の中を通り過ぎ、ゲームの時は魔の領域に続いてた崩壊してる門に到着すると、広い森ではなく草原と遠くには森と高い山々が見える。


「本当に魔の領域が無いのか」

『以前はクチナが見えましたね』

「ああ、ここから見た時は驚いたなぁ……さて、行くか」

『はっ!』

「ここからは俺も走るぞ」

『競争ですね?』

「じゃあ、あの2つ目の山まで競争だ」

『はい!』


ブンブン尻尾を振るカゲ、可愛いのう。

砦から続く街道は、数百メートル先にある森の中に続いており、すぐ左側には高い山が聳え立ち奥まで続いてる。

右側にも少し離れてるが山があって同じように奥まで続いてる様子。

その間にある森の中を街道が通ってるようだ。


俺は閻魔鉱の装備を付けると身体を解し、カゲと同じラインに立つ。


「じゃあ行くぞ?」

『はっ!』

「よ~い、ドンッ!」


合図と共に地を蹴り、ドンッ! と土煙を上げながら数秒で森の中へ突入。

俺もカゲも街道は走らず、とにかく奥に続く2つ目の山を目指して真っ直ぐ進む。

どちらも木々の隙間を縫うように走り抜け、偶にデコボコした地面を跳んで移動して進む事約数分後。


2つ目の山の手前に到着。


「かぁ~、流石カゲ、速いなぁ」

『次はどうしますか?』


途中、閻魔鉱の装備を付けてるお陰で柔らかい地面に沈み、ちょっと遅れてしまい競争には負けてしまった。

カゲは、尻尾を振りながら次はどうするのか楽しそうにしてる。


「そうだなぁ……」


周囲を見回してるとカゲが何かを感知したようで、山の方を見て念話で伝えてくる。


『主、人が居ます』

「距離は?」

『約10キロ程です。山の中腹当たりですね』


そんな所に人?

狩りでもやってるのかな?

何人居るのか聞くと1人との事。

なら危険な目に遭ってる可能性もあるので、一応見に行く事にする。


カゲに乗って山を登り、最初の尾根に到着すると山の中腹が窪んで、山に囲まれた小さな森になっていた。

カゲの話しでは、この森の中に人が居るらしいので、そこへ向かってもらう。


すると尾根から跳んでほぼ空を飛んでる状態になり、眼下に広がる山々と森を見渡す。


「ヒャッホゥー!!」


数秒で森に落下していき木にぶつかる直前、カゲが空中を駆けながら木々の隙間を降りて行くと前方に、人の魔力を感知。

そして木々の隙間から見えてきたのは、森の中にある魔女の家っぽいログハウスと周囲を木の柵で囲い、敷地内には小さな畑まであり、誰か住んでるよう場所を発見。


木の柵の前に着地し、敷地内を見てふと思い出す。

ゲームで見た事があるような光景。

これはもしや……。

人は家の中に居るな。


「すみませーん! 誰か居ますかー!」

『はーい!』


そうして出て来たのは、青色のつなぎを着たショタドワーフプレイヤーこと『オム』である。


「どちらさ……キジ丸さん!?」

「よっ、久しぶり」


オムは慌てて走り寄って来ると驚いた様子で、話し始める。


「どうしてキジ丸さんがここに!? ってかなんですかそのデカい狼は!? あっ、それよりキジ丸さんは、ここが現実だと理解出来てますか!?」

「落ち着け、ちゃんと現実なのは分かってる。久しぶりに会ったし、お茶でもしながら話さないか?」

「あっ、すみません。久しぶりに人と会ったので、どうぞ、中で話しましょう」


そう言って笑顔で家に案内してくれるオム。

うむ、相変わらずのショタだな。



家の中は、別荘地にあるような家っぽい感じで、暖炉とリビング、絨毯にダイニングキッチンとかなり充実してる。

入ってすぐのリビングに案内され、L字に置かれたソファに座るとオムがインベントリからカップを取り出し、お茶を入れてくれた。

ちなみにカゲは、外で待たせている。


お互いお茶を1口飲んで落ち着くと、オムが先に口を開く。


「いやぁ~、人に会うの何年ぶりかな? しかもキジ丸さんとはねぇ」

「オムはいつからこっちに?」

「あぁ~、100年程までは数えてたけど、面倒になって数えて無いから分かんない。でもだいたい300年くらいだと思う」

「えっ、300年も1人で暮らしてるのか?」

「そうだよ?」


それが何か? みたいにキョトンとするオム。

見た目は完全ショタなのに中身はジジイ。


「街には行ってるんだろ?」

「えーっと、200年以上行ってないかな?」

「よく生きてこれたな」


塩とかどうしてんだ?


「フッフッフッフッ、僕には錬金術があるからね。魔物や地中に埋まってる岩塩や鉱石を抽出していろいろ作ってるんだよね」

「畑に植える種は?」

「この山に自生してる野菜や植物から採った」

「そんなに街に行くのが嫌なのかよ」

「そういう訳じゃないけど、自分の力で欲しい物は作って、必要な物は自分で採取する。そんなスローライフが現実に出来るんだから最高だよ」


ゲームでも魔の領域でスローライフ送ってたもんな。


「ん? アキトは? あいつも近くに暮らしてたろ? こっちに来てないのか?」

「一応家があった場所は見に行ったけど、何も無かったね。と言っても100年以上前だけど」


完全な世捨て人になってやがる。

まあ、アキトがこっちに来てたらオムの所に顔は出すだろう。

それがまだならこっちに来てない可能性が高い。

それか大昔に来て別の場所に移住して、スローライフを送ってるかだな。


「そう言えば、オムの職業ってなんだっけ?」

「今は『破壊王』だね」

「へ~、そんな職業もあるのか」


確か初めて会った時は、ドワーフ専用職業の重戦士だったはず。

ついでに何回転職したのか聞くと、これまでに『重戦士』『レンジャー』『魔法使い』と上位職を何個か就いたらしい。

そして最終的に破壊王とは、どういう経歴だ。


「破壊王になったお陰で、力が滅茶苦茶強くなったよ。畑仕事も余裕だし、ドラゴンぐらいなら片手で持ち上げられるよ」


そう言って細い腕で力こぶを作る。

あの細腕で……職業と魔力によるもんだろうな。

それにしてもオムにも職証創造を与えようかと思ったけど、人と会わないから意味ないか?


街に行って証を与えてやってくれとは、言えないしね。

……まあ、話だけでもしてみるか。

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