第159話 根っからの。

「あ、あの、あなたは誰ですか?」


急にしおらしくなるマナミ。


「拙者は、忍びの者、既にバレているから猫を被る必要はない」

「何の事ですか?」


キョトンとして首を傾げるマナミ。

これがあざといという奴だな。

普通の男子ならこれにコロッと騙されるらしいが、今直ぐ顔面をどつきたいと思うのは、俺だけだろうか?


「シナに対しての言動、そして……ロウタが寝ている間にベッドに潜り込み、自撮りをした事も分かってる」

「……私が? たまに自撮りはするけど、ロウタと撮った事なんてありませんよ?」

『髪の色を変えてるからバレるはずない』


「ククク、どうやって髪の色を変えたんだ?」

「変えた事はありませんよ?」

『そういう薬が売ってるのを知らないのかな?』


「あぁ、薬で変えたのか」

「いい加減にして下さい、さっきから何を……」


そこでマナミは、喋る事が出来なくなる。

俺が威圧を放ってるからだ。


「とりあえず、キテツ殿の所へ行こうか、シナ達は、すぐ街に戻れ、では……」

「あの!」


シナを無視してマナミと一緒に影に沈み、影渡りでキテツの道場にある母屋の玄関前に移動するとキジ丸に戻り、俺だけ影から出て母屋に入るとキテツの居る部屋まで真っ直ぐ向かい、障子を開けると居間でお茶を飲んでるキテツを発見。

こいつ、仕事してるのか?


「おうキジ丸、お帰り」

「犯人が分かったぞ」

「っ!? 誰だ?」

「捕えてきた」


キテツは少し考えて「道場に行こう」と言い、場所を移す事になった。

道場には、既に稽古が終わって門下生も師範代達も帰った後らしく誰も居ない。


中に入って道場の真ん中へ行くとキテツが、犯人を出すように言うのでハンゾウに声を掛け、影からマナミを出す。


「っ!? えっ、ここは……キテツ様?」


マナミが混乱してる中キテツは、腕を組んで威圧感Maxでマナミを見下ろしながら口を開く。


「蛇九流門下生のマナミだな?」

「あっ、はい!」


ビシッとすぐ正座するマナミ。

あざとさが皆無。

キテツってそんなに恐れられてるのか?


「お前が他の門下生達をいじめて自殺に追いやった『犯人』だな?」

「えっ、あの、犯人って何の事ですか?」


若干冷や汗を流しながら首を傾げる。

ある意味胆が据わってるな。

しかし、さらにキテツの威圧が増す。


「罪の意識は無いと言う事だな?」

「私は、何もしてません」


急に真剣な表情で答えるマナミに対しキテツは、ニヤっと笑みを浮かべる。


「なるほど……」


キテツが俺を見るので頷き、ハンゾウの分身をキテツの背後に出すと。


「あなたは……」

「ハンゾウよ。この者で間違い無いか?」

「うむ、シナに嫌がらせをしたのは間違い無い」

「そうか……他の者は?」


ハンゾウでマナミを見て聞く。


「これまでいじめて殺した者は、何人だ?」

「はい? そんな事してません!」

『フフフ、いじめたら勝手に死んでくれるんだから、私は何もしてない。だから私は悪くない』

「いじめると勝手に死んでくれるから、自分は悪くないと思ってるようだが、お前は歴とした殺人犯だ。何人やったのか言わないなら、全部お前の罪になるが良いんだな?」

「そんなの横暴です! 私は、何も悪く無いのに……」

『たかが十数人いじめただけで、なんでそんな事……こいつもいじめてやる』


10人程って事は、人数を覚えてないのか。

つまり11人全員こいつがやった可能性もある。

まあ、中には、こいつ以外の理由で死んだ者も居るだろうけど。

それにしてもハンゾウをいじめるってどうやるんだろう?

それはそれで面白そうだけど、もうこの件は終わらせる。


「11人全員、お前の仕業で良いんだな?」


するとマナミの雰囲気が変わり。


「……はぁ~、11人? もうそれで良いよ」

「正体を現したか」

「何言っても全部私のせいにするんでしょ? もういいよそれで」

『あ~あ、もっといじめておけば良かったなぁ』


そこでキテツがハンゾウを見るので頷くと、キテツが口を開く。


「ではマナミ、お前には被害者と同じ苦しみを味わってもらう」

「……自殺しろって事ですか?」

『絶対しない。フフフ、いじめて自殺する奴らを見ると、最高に幸せなんだよね!』


おう、完全に壊れてやがるな。


「いや、お前が自殺したくなるまで、被害者遺族にいじめてもらおう」

「何も悪くないのに私をいじめるんですか? それが『領主様』の考えなんですか?」

『このジジイ……いじめて自殺まで追い込んでやる』


ん?

いまこいつ、キテツの事領主って言った?

俺と分身でキテツを見る。


「うむ、俺は確かにジジイだな。なんせ200年以上生きてるし……あぁ、お前のような小娘にいじめられて自殺する程、軟じゃないからな?」

「……なんの事ですか?」

「もう気付いてるだろう? お前の心の声が視えてる事に」

「何言ってるんですか? そんな事……」

『ありえない、絶対罠だ』

「罠じゃねぇぞ」

「っ!?」


驚きで固まるマナミ。

それよりキテツが領主ってのが気になる。

じゃなくて、なぜキテツがマナミの心が視えてるのか?

そりゃ分身でキテツにも、心眼で視えるものを見せてるからだ。

触れた状態だと他者にも見せる事が出来るからね。


キテツはマナミをどうするのか?

俺が甚振って始末したかったんだけどな。

って言うかマナミこいつ、どうすればこんなゴミに育つんだ?


まあ、いじめた相手が勝手に死ねば、優越感に浸れるんだろうけど、ただそれだけだ。

……つまらん人生だな。

そうする事でしか幸せを感じられないとは。


それにしてもこいつが全てをやったのか?

背後に誰か居そうな感じだが……。


「キテツ殿、もう良いか?」

「助かったハンゾウ殿、キジ丸もありがとうな」

「最後に、お前の仲間か背後に黒幕が居るのではないか?」

「黒幕? 何の事を言ってるのかさっぱりなんですけど?」


心眼でも視えないって事は本当の事を言ってるな。

マジでこいつ1人でやってた事?

ある意味スゲー。


「ハンゾウはもう良いぞ」

「では」


分身を影に沈め解除。


「なあ、キテツが領主って何だ?」

「いや、この街で一番長く生きてるのが俺ってだけで、街の代表にされたんだよ」

「へ~、それで領主か」

「領主というより街の代表みたいなもんだけどな」


もうすぐしたら君主制になるので、貴族になるかもよ?


「じゃあ後はキテツに任せるぞ?」

「おう、こいつにはしっかり罪を償ってもらう。それにしてもあの心の声が視えるのってズルいよな?」

「それが忍者だ」

「はは、だな」


その後、キテツが警察を呼んでマナミは連行され、後に終身刑となる。

牢獄に入れられたマナミは、被害者遺族や他の囚人にいじめられる事になるが、あれが自殺するとは思えないな。



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追記:すみません。コメントの返信を編集しようとして削除してしまいました。

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