第156話 ケルスの矯正。
感情に流されるまま、ロウタを斬り殺そうとしたケルス。
放置すればケルスは、人斬りになる可能性がある。
なので俺は、こいつの心を折る事に決めた。
そこでロウタが身体を起こす。
「き、キジ丸さん」
「ロウタ、大丈夫か?」
「……はい」
蹴られる時も、自分から跳んで少しだけ威力を殺してたもんな。
「ケルスと何があった?」
「……いつもの修練が終わって帰ろうとしたら先輩が、話しがあると言ってここまで来たら」
「おい、ロウタ!」
「黙れ」
「っ!?」
威圧を放ちケルスを黙らせると、ロウタに続きを促す。
「最近調子に乗ってるようだからと、勝負を挑まれました」
「ほう、それで?」
「最初は断りましたがその……」
『断ればシナに手を出すなんて言うから……』
「好きな子に何かするって言ったのか?」
「えっ!? あ、はい、それで……」
「勝負を受けたと、なるほど……」
ロウタは、シナが好きなのか。
いや、既に付き合ってる可能性もあるな。
青春だねぇ~。
「事情は分かった。ロウタは先に帰って良いぞ。後は任せろ」
「えっ……はい、ありがとうございました」
そう言って走っていくロウタを見送ると、俺の威圧で動けないケルスを見て告げる。
「さて、そんなに殺し合いをしたいなら俺が相手をしてやろう」
そう告げて2人で、訓練空間へ転移した。
とことん心を折ってやろう。
土の地面と白い空が続くだだっ広い空間。
威圧を解くと片膝を突き、呼吸をゆっくり整えるケルス。
「はあ、はあ……こ、ここはどこだ? さっきまで路地裏に居たのに……」
「ここは、最高の場所だぞ」
「最高の場所?」
俺はニヤっと笑って答える。
「言ったろ? 殺し合いをしたいなら俺が相手をしてやるって、この空間では、死ぬ事は無いからな」
するとケルスは、少しキョトンとした後気付いたのかゴクッと生唾を飲み込み、口を開く。
「死ぬ事が無い? つまり……」
「そのとおり、好きなだけ殺せるって事だ」
次の瞬間、ケルスは吹っ飛び、地面に何度か叩き付けられ手に持っていた刀は途中で放り出され、地面に転がる。
数十メートル吹っ飛んだ所で止まり、光の粒子になって消えるとその場で復活。
ガバッと上体を起こし、自分の身体を確かめてから俺を見ると固まる。
そうです。
ただ縮地で懐に入り、思いっきり顔面を殴っただけだ。
俺はゆっくり歩いてケルスに近付いて行く。
「ほらほらさっさと立て、じゃないと……また死ぬぞ?」
「ま、まっ……」
今度は顔面を蹴り飛ばし絶命。
そして復活して上体を起こすと、また同じ事を告げて立ち上がる前に言葉を発しようとした瞬間、また吹っ飛ばして殺す。
それを3回繰り返すとケルスは、身体を震わせながら何も言わず立ち上がったので落とした刀をケルスの前に放り投げて地面に突き刺した。
「ほれ、さっさと刀を持て、じゃないと……」
死ぬぞ? と言う前に刀を手に持つ。
「そうそう、それで良い。よし、掛かって来い。道場でやった時みたいにな」
ケルスは震えていたが、プライドからなのか怒りを燃やし、叫びながら向かって来る。
「うおおおおおおおおお!!!!」
だが、道場でやった時とは違いこれは、摸擬戦でも試合でもなく殺し合いだ。
先程までは、ケルス本人に痛みが殆ど無いように殺していたが、ここからはじっくり痛みを味わってもらう。
踏み込みと同時に振り下ろす刀を避けながら素早く懐に入り、深撃を使いながら顔面、胸、腹、腕、上半身全体に2秒間に約100発の拳を打ち込む。
当然、かなり手加減をしてるぞ。
最後に、顔面を普通に殴り、10メートル程ブッ飛ばす。
これならギリギリ生きてるだろう。
地面に倒れて動かないケルスの所へ歩いて行き、頭の方に立って顔を覗き込むと、別人のように腫れた顔になり、鼻血を流して歯も無い状態になっていた。
「終わりか? 牙天流最強になるんだろ? さっさと立たないと死ぬぞ?」
ケルスは、涙を流しながら腫れた唇で、呟くように言う。
「……ず、ずびば、せん……でじだ」
見ると股から湯気が出ている。
漏らしちゃったかぁ。
「数回死んだ程度でもう終わりか? 情けない。ロウタは自分より強い者に向かっていったのに、お前はもう終わりなのかな?」
「もう……しばぜん」
「弱い者を相手にしていきがってんじゃねぇぞ!!」
ビクッと身体を震わすケルス。
「最強を目指すなら自分より強い奴に向かって行け、下をいじめてる暇は無い。己と向き合い、ひたすら訓練と実戦をして強者を超えて行く。それが最強への道だ」
そこで俺は、刀を一瞬で抜きケルスの首を斬り落とし、復活させる。
「はっ!?」
復活するとすぐ身体を起こし自分の首を確かめるケルスに、納刀してしゃがみ込み、目線を合わせて言う。
「良いか? 自分の感情に飲まれる奴は、最強にはなれない。まずは、怒りをコントロールしろ」
「怒りを……コントロール……」
「お前はこのまま行けば、いずれ人斬りになる可能性が高いからな」
「人斬り!? 俺はそんなものにはならない!!」
「感情に流されてロウタを殺そうとした奴の言葉に、説得力も信用もある訳無いだろ」
ケルスは、苦虫を噛み潰したような表情をして俯く。
「だから今後は、感情に任せて刀を振るな。それが出来ないなら自分で刀を置け。自分で置けない時は……俺が殺してやる」
俺の言葉を聞くとじっくり考え込み、自分の中に落とし込んで納得したのか次に顔を上げた時には、決心した表情になっており、俺の目を見て答えた。
「俺は絶対人斬りになんてなりません。でももしそうなった時、あなたにお願いします」
そう言って頭を下げるケルス。
まあ、この様子なら大丈夫かな?
もし本当に人斬りになったらその時は、俺が仕留めてやるさ。
どうなるか楽しみだねぇ。
普通に成長しても人斬りになっても、戦い甲斐がある。
「ああ、任せろ」
そう言って立ち上がり、元の場所へ戻ろうとしたところで突然、式紙から映像が送られて来る。
それは、シナが1人、ビルの屋上に立つ姿で、丁度飛び降りた瞬間だった。
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