第152話 ギンジVSケルス。
母屋から道場へ行くとシナとケルスが摸擬戦をしてるようで、ケンゾウが審判をしていた。
靴を脱いで上がる。
「よし、それまで」
俺達が入って来たのを見てケンゾウが摸擬戦を止め、2人は礼をして俺達を見る。
「師匠まで来たんですか?」
「ああ、面白そうだから俺も見る」
「分かりました。シナは下がれ、じゃあギンジさんとケルスの摸擬戦を行うが、ケルスは続けて出来るか?」
シナとやってたからな。
「大丈夫です」
おっ?
キテツが居るから態度が違うのかな?
なんて思いながら俺とキテツは、ケンゾウが立つ道場の奥へ行き、ケンゾウの後方に座り込み、観戦する事に。
シナは少し離れて見るようだ。
道場の中央でギンジとケルスが向かい合い、互いに礼をするとケルスは、すぐ木刀を両手で持ち下段の構えを取る。
ギンジは外套を外して収納すると、突っ立ったままで構えない。
「両者、準備は良いか?」
頷くギンジとケルスを確認するとケンゾウは、手を上げて告げる。
「では、摸擬戦を始める。相手を殺す事は禁止だ。それ以外は有効……始め!」
合図と共にケルスが動く。
「はああああああ!! うらぁ!!」
走り込み、間合いに入ると下から斬り上げるがギンジは、僅かに下がってギリギリ避けると木刀が通り過ぎたところですぐさま踏み込む。
通り過ぎた木刀は刃を返し、振り下ろされるが間合いを詰めたギンジは、ケルスの手に拳を軽く打ち込み木刀を弾くとそのまま懐に入り、腹に肘を突き刺す。
「っ!?」
ケルスはその場で膝を突いて蹲ってしまう。
「勝者ギンジさん!」
「うぐっ……はあはあ……まだ、まだやれる! 今のはミスをしただけだ」
「あまり無理はしない方が良いですよ?」
「無理じゃねぇ!! はあ、はあ……次は本気でいく」
「じゃあ、最後の1回ですからね?」
「ああ、素手の奴に負ける訳ねぇ」
「では……始め!」
ケルスは、全身に魔力を流し強化すると先程よりも素早くギンジに近付き、踏み込みと同時に振り下ろすがギリギリ避けられる。
だが先程はここでギンジが踏み込んだが、今回は強化しているので斬り返しが速く、下から迫る木刀を身体を後ろに反らしギリギリ避けるとギンジは、斬り上げて伸びたケルスの手を蹴り、木刀を弾くと軽く踏み込んで腹を殴ろうとした瞬間、逆にギンジが吹っ飛ばされて床に倒れた。
今のは、風魔法か?
ケルスは木刀を弾かれて殴られそうになったところ、空気の塊をギンジの腹に叩き込んだ。
「ほう、やるな」
「ギンジは、もっと鍛えてやる必要があるな」
油断し過ぎだ。
「へっ、どうだ? 今のは効いただろ? これが俺の本気だ!」
吹っ飛ばされたギンジは、身体を起こし立ち上がると俺を見るので、念話で伝える。
『明日からみっちり鍛えてやるから覚悟しろよ』
『えっ……いや、まさか侍が風魔法を使うとは思いませんよ?』
『言い訳か? リュウゲンにやられた時も言い訳するのか?』
『……すみません。侮ってました』
『戦いに絶対は無いんだ。弱い相手だからと油断したら殺される事もある。しっかり覚えとけ』
『はい……本気でやります』
『馬鹿か、子供相手に本気でやってどうするよ。油断せずどこが隙になっているか、どう攻めれば良いのかいろいろ導いてやれ』
『手加減するの、物凄く難しいんですが?』
『それが訓練だからな! 手加減が出来れば力のコントロールも上手くなる。稽古をつけるんじゃなく、自分の訓練だと思ってやってみれば良い』
『了解です!』
ったく、あの程度の奴にやられるとは、情けないぞ。
まあ、ダメージは殆ど無いようだけど。
ギンジが元の位置へ戻り、口を開く。
「すみません。少し侮っていたようですね」
「はっ、俺は同期の中じゃ一番強いんだ。お前のような素手の奴に負ける訳がねぇんだよ」
「そうですか、では少し本気でやらせてもらいます」
ギンジがケンゾウを見ると頷き、開始の合図を出す。
すると今度は、ギンジが素早くケルスに近付くとケルスは、タイミングを合わせて木刀を振り下ろすがギンジの姿は、消えるようにケルスの背後に移動し、頭を軽く殴る。
「イテッ!? このっ!?」
振り向きざまに木刀を振り抜くが既にギンジは、後方へ移動し距離を空けていたので空振りだが、ケルスはそこからすぐさま踏み込んで距離を縮めると、空いた左手を前に突き出した瞬間、空気を圧縮した塊を放つ。
ギンジは、迫る風球を手で弾くと近くまで迫っていたケルスの突きが、喉を目掛けて迫っていたので身体を少し逸らして躱しながら伸びきったケルスの腕に左手を下から添え右手で手首を掴み、右足でケルスの足を払って身体を浮かせると、背中からケルスを床に叩きつけた。
「かはっ!?」
「綺麗な体捌きだな」
「まあ、武術家だからね」
「キジ丸ならどうしてた? ケルスの突き」
「……俺なら避けながら踏み込んで、腹に一発打ち込むかな?」
「あの突きに合わせられるのか」
「キテツも出来るだろ」
「どうだろうなぁ。俺なら自分の木刀で受け流し、相手の体勢を崩してから斬る。かな?」
あぁ、キテツは根っからの侍だもんな。
俺は素手でイメージしてたよ。
「それまで! 勝者、ギンジ!!」
「ありがとうございました」
「ゴホゴホッ……待て……待て!! 今のは足が滑っただけだ! 次は全力でやる! 俺の技を見せてやろうじゃねぇか!!」
「いやケルス。先程お前は本気でやると言っただろ? で負けたら次は全力? それで負けたら次はなんだ? 命を燃やして戦うか? いいかげん諦めろ、ギンジさんとお前の実力の差は、天と地程の差があるんだぞ?」
「いいや、そんなはずはねぇ! 俺は牙天流最強になる男だ! 素手の奴になんて負けてられるか!!」
ケンゾウの言葉も聞かないとは、キテツが言ったとおりただの馬鹿だな。
だが、最強を目指すならそれくらいの気概が無いと無理だろうね。
しかし、実力者の言葉を聞かないのは、自分で可能性を閉じてるようなもんだ。
実に勿体ない。
こいつがロウタのように素直なら、もっと強くなってるだろう。
……よし、俺が根性から叩き直してやろうか。
「キテツ、俺がやっても良いか?」
「それは面白そうだが、殺すなよ?」
「俺を何だと思ってんの?」
「決闘で瞬殺してただろ」
「いや、あれは決闘でこれは稽古のようなもんだから殺さないよ? 殺人狂じゃないからな?」
「まあ、キジ丸の戦うところも見たいし、良いんじゃねぇか? あのガキが良いならな」
「よし」
俺は立ち上がり、ケンゾウの下へ向かう。
フッフッフッフッ、その根性、叩き直してやる。
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