第151話 師匠の行方。

キテツは、ソウライさんが死んでるのか生きてるのか分からないと言う。

なので何があったのか聞くとキテツは、今から約250年程前にこの世界に来たとの事。


「最初意味が解らなかったが、今まで居た世界とは別の世界だとすぐ理解出来た」


そこは皆同じか。

キテツはこの世界に来た時、近くの山中で目を覚まし、別の世界だと理解してから周囲を警戒しながら山の中を彷徨っていると、遠くからこの街が目に入り、何とか辿り着いた時、すぐにこの街がオウレンだと気付き、混乱したそうだ。


別世界に居ると理解してるのになぜオウレンがあるのか、街中を見てさらに混乱、見た事が無い建物が建っているが明らかに自分が知ってるオウレンの街と同じ構造をしてる。


「よくすんなり街に入れたな?」

「今みたいにゲートじゃなく門だったからな。それに、理源流の師範代である証を見せたらすんなり通してくれた。そしてすぐ道場へ向かえと言われて俺は、この道場へ向かったんだ」


そこで、長い金髪を後ろで縛り、青い着物を着た綺麗な女性が部屋に入って来て、お茶を出してくれると何も言わず、軽く会釈をして部屋を出て行った。

お手伝いさんかな?

そしてキテツは女性の事には触れず、続きを話す。


道場に到着したキテツは、言葉が出なかった。

長い年月放置されたかのような、ボロボロになった母屋の前で膝を突き、同じようにボロボロになっている道場。


すぐ母屋に入ってソウライさんを探し、次に道場へ行って門下生や弟子たちを探したが、誰一人として見つからなかったそうな。

訳が分からないと道場のど真ん中に座り込み、ボロボロに朽ちた床や壁、天井などを眺めて気付いたらしい。


「俺がここに来るまで、誰も道場に来ていなかったんだ」

「誰も? 放置されてたって事か?」


頷くキテツ。

普通誰も居ないなら荒らされそうだけど。

と思ったがどうやら、当時の領主が誰も居ない道場の立ち入りを禁止したという。

その理由は、時間が経てば姿を現す事を知っていたからだ。


街に時間差で姿を現す住人。

誰も居ない道場でもいずれ、この世界に来るだろうと手を付けないようにしていたらしい。

それでキテツがこの世界に来るまで、誰も道場に入って居ない状況になったと。

まあ、家主がいずれ来るかもしれないのに、勝手に手を付ければ問題になるわな。

道場都市オウレンならではだと思うが。


「ん? つまりこの世界で理源流開祖は、キテツって事になるのか?」

「ああ、今まで誰もうちの者が姿を現す事は無かったが、まさかキジ丸が来るとは思わなかったぞ」

「俺も思わなかったよ」

「キジ丸が居るって事は、ハンゾウも居るのか?」

「居るぞ」


そう言って俺の後ろに分身を出す。


「おお、以前と全然違うな」

「この世界に合わせて俺が作った装備だ。カッコいいだろ?」

「ああ……キジ丸」


急に真剣な表情になるキテツ。


「ん?」

「師匠を探してくれないか?」


ソウライさんを?

探すと言ってもなぁ。

どこに居るのかあても無いし。


「この世界に来る前、ソウライさんはどこに居た?」

「母屋に居たな」


だとしたらこの辺りに居ると思うけど……いや、まだこっちに来てない可能性もある。

もしくは、大昔に来てる……って事は無いな。

大昔に来てるなら何か証を残すはずだ。

道場もなんとかして残すだろう。

でもキテツは、ボロボロに朽ちていたと言ってた。

なら本当に、キテツが来るまで誰も入ってないんだろうな。

そうなるとやっぱり。


「もしかしたらソウライさんは、まだこの世界に来てない可能性が高い」

「師匠が? もう250年程経つが誰も来ないのは、おかしいだろ?」

「俺がこの世界に来たのは最近だぞ」

「マジか」

「まあ一応、行く先で探してみるが、たぶんこの世界にまだ来てないんだと思う。たぶんだからな?」

「ん~確かに、他の道場でも知ってる奴が時間を空けて姿を現したってのは聞いた事があるから分かるが……早く来てくれよ師匠」

「今はお前が当主だろ? しっかりしろよ。門下生も居るんだし、弟子も居るんだろ? ケンゾウだっけ?」

「ああ、理源流を残さないといけないと思ってな。今までも門下生は居たが、ケンゾウには才能があったから俺の直弟子にしたんだ」


それから少しずつ門下生が増え、今では街一番の道場になってるそうな。


「そう言えば、キテツも不老なんだな」

「あぁ、これは俺の力じゃないんだ」

「ん? まさか呪いとか?」

「いやいや、キジ丸は覚えてるか? スズキさんの事」

「おお、当然だろ。同じ異界人だしな」

「はは、今じゃ俺達も異界人だが……と、そのスズキさんによって俺は、不老になったんだよ」

「なるほど、今もこの街にスズキさんが?」

「いや、200年程前に出て行った」


キテツの話しによるとスズキさんは、キテツがこの世界に来て10年程経った頃、オウレンに姿を現したそうだ。

以前から俺の知り合いだという事で、よく酒を一緒に飲んでいたとの事。

それでスズキさんがキテツの話を聞いて、ソウライさんや門下生、弟子たちが姿を現すまで生きられるように、不老にしてくれたと。

凄いなスズキさん。


この世界に来たスズキさんは、最初は道場を開いていたが数十年後、突然道場を閉じて街を出たという。


「理由は、武者修行だと言ってたよ」

「はは、なるほど、武者修行か」


スズキさんも不老になって強くなるため、世界を回ってるんだな。

ならいずれどっかで会えるかもね。



そこでキテツが黙っていたギンジを見る。


「あっ、初めまして、師匠の弟子でギンジと申します」

「キジ丸の弟子か、しかし……格闘家に見えるが?」

「ああ、ギンジは武術家だが俺が戦い方を教えてる」

「違う職業なのに、よくやるなぁ」

「それなりに強いぞ? あっ、この後道場を使わせてもらっても良いか?」

「道場?」


俺は、ケルスとギンジが摸擬戦をする経緯を話した。


「あぁ、あのガキか、馬鹿だねぇ。牙天の師範代は、まだあいつを躾てないのか……まあ良い、そういう話なら貸してやるよ。身の程を分からせてやれ」

「ケルスって奴は、いつもこんな感じなのか?」

「あいつはただの馬鹿なんだよ。牙天流に入って同期の中で一番強いからと言って勘違いしてるだけだ」


そういう奴居るよねぇ。

いつも周りと比べて優越感に浸る。

同期の中で一番強いってのも、勘違いする要因になってるんだろう。

そういうところは、上の者がちゃんと教えてやれよ。


「ギンジ、しっかり分からせてやれ」

「良いんですか?」

「実力の差を見せれば分かるだろ。それでも分からなかったら……俺がやってやろう」


そう言ってニヤっと笑う。


「全力でやらせて頂きます」

「ははは! 相変わらずだなキジ丸は」

「何がだよ?」

「戦うのが好きなところがな」

「違う、俺は訓練が好きなんだ」

「あんま変わんねぇだろ」


その後、少し雑談をしてからキテツも一緒に、道場へ向かう事に。

キテツは、面白そうだからと観戦するらしい。

こいつもあまり変わってないな。

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