第148話 ケンゾウ。
ロウタ達の戦闘を見守り、30分程して残りはレグスが1体となった。
ギンジは10分程でレグスとウルフを計10体倒して、俺と一緒にロウタ達の戦闘を眺めている。
「そこ、もっと踏み込め!」
「クソッ!」
「他の奴より速い!」
「刃が通らないぞ!?」
「もっと魔力制御に集中! 気合入れないと死ぬぞ!!」
「手が空いてるなら、手伝って……くれても、いいでしょ!? うわっ!?」
ロウタがレグスの鞭のようにしなる長い腕の振り払いを刀で防ぐが、力負けして吹っ飛ばされてしまう。
「ちゃんと全身を均等に強化しろ。強化にばらつきがあるからそうなるんだ」
俺は、神忍になったお陰で魔眼が使えるようになったのだ。
魔眼は、魔力の流れが見えるのだが、これが面白い。
ロウタが全身に魔力を流して強化してるのが見えるのだが攻撃の際、腕に流れる魔力が多く、足腰の魔力が少なくなっているのが視える。
ついでに言えばこれは、身体ではなく力で刀を振ってる証拠。
まあ、まだ若いから仕方ないんだけどね。
無意識に魔力を多くしてるんだろう。
「カンジロウとセイタもだぞ」
カンジロウは青い髪をした男の子で、セイタは暗めの赤髪の男の子だ。
それぞれ流派は違うが、やはり術理は似てるところが多い。
「均等に強化……」
ロウタは、呼吸を整えると集中し始める。
すると流れる魔力が均等になっていく。
根がまじめで素直なのか、俺の言った事をすぐ実行しやがるな。
良い侍になりそう。
カンジロウがレグスと交戦してる間、セイタも落ち着いて集中し、魔力の流れが変わる。
良いね。
「刀に流す魔力も均等にな」
「はい!」
「分かりました!」
既に周囲に転がっていた死体は、ギンジが全て収納してある。
後は、3人が戦う1体のレグスのみ。
魔物の個体によっても強さは変わるが、ここまで差があるとはね。
他のレグスは、ロウタ達3人がかりで1体を倒してたけど、最後の1体はかなり強い。
……いや、違うな。
レグスも戦闘中に成長してるんだ。
人間なら次々と死んでいく仲間を見てビビるところが、レグスの戦意は衰えていない、むしろ上がってる。
逃げ出す魔物も多いのに、面白いなレグス。
そんな事を思いながら戦闘を眺めていると、レグスに近付く気配を感じたので縮地で間に入り、振り下ろされる刀を脇差しで受け止め、留気で弾くと攻撃を仕掛けた者が後方へ跳んで距離を空けると刀を構える。
「お前何者だ? なぜレグスを護る? 人間に化けた魔物か?」
レグスにいきなり攻撃を仕掛けた男。
黒髪でちょんまげのように縛った少しシワが目立つおっさん。
黒い着物と灰色の袴姿でいかにも侍って感じだ。
まだ居るんだな。
「俺は侍のキジ丸、今はあいつらの訓練中だ。獲物を横取りするなよ。で? あんたはだれ?」
「ケンゾウ様!?」
ロウタが男を見て驚く。
「シナとマナミに聞いて俺が先に来たんだ。ロウタ、今の話は本当か?」
「うわっ!? え、えーっと……この!!」
レグスが攻撃を仕掛けてくるので、ロウタは話せない状態だ。
まだまだだな。
「カンジロウ! どうなんだ!?」
距離を空けて休憩していたカンジロウに問いかけるおっさん、ケンゾウ。
「えっ、あっ、はい、そのとおりです!」
「な? 言っただろ?」
「30体程居ると言ってたが……1体しか居ないぞ?」
「そりゃ俺達で他は仕留めたからな」
「ほう、たった5人で30体近いレグスを?」
「いや、半分はウルフだ」
「ウルフ? 俺はレグスが30体って聞いたが?」
「そりゃ聞き間違いか説明が下手だったんだろ。慌ててたんじゃないか?」
するとケンゾウは、少し考えてから答える。
「確かに、シナとマナミが珍しく慌てた様子だったな……まあ良い。それでキジ丸だったか? 訓練にレグスを使うのはやりすぎだと思うが? 下手したらあいつらは死んでるぞ?」
「今目の前で生きてるだろ? 危険な時は俺が手を出してるからな。それに……実戦経験を積むためにやってる仕事だろ? 若者の成長のチャンスを奪うような事はするなよ」
そう言うとケンゾウは、刀を鞘に納刀しながら言う。
「ふん、若造が知った風な事を」
「いや、こう見えて中身は40だから」
「はっ? …………エルフか?」
「ただの人族だ。まあ、不老だけどね」
「不老!? ……まさか『四皇帝』の者か!?」
「始皇帝? なにそれ?」
ケンゾウが言うには、かなり大きな犯罪組織が4つあってそのトップの事を『四皇帝』と呼ぶらしい。
それを聞いて『始』ではなく『四』だと気付いた。
「って言うか、その犯罪組織の者達って全員不老なのか?」
「噂じゃ全員って聞くが、詳しくは知らん。それより、お前は本当に四皇帝の者じゃないんだな?」
俺はケンゾウに近付き、冒険者カードを見せる。
「……冒険者か、しかもCだと?」
「魔力が使えるからな」
依頼は何もやってないけど。
ケンゾウは納得したようで俺の横に立ち、不貞腐れたような表情をしながらロウタ達の戦いを見守る。
ギンジも俺の横に来て3人並んで眺めながら、ふと気になったのでケンゾウに聞く。
「ケンゾウだっけ? オウレンに理源流って残ってる?」
「ん? 理源流を知ってるのか?」
「ああ、一応上級まで習得してる」
「はっ!? お前、本当に何者だ? 道場に来た事ねぇだろ? 見た事ねぇし」
「ん? まさかケンゾウって理源流の人?」
「ああ」
「マジか……ソウライさんは居る?」
「ソウライ? いや知らねぇな、うちの人か?」
「知らないなら良い」
まさか理源流の人と出会えるとはな。
しかし、ソウライさんはやっぱり居ないか。
「理源流ってどれくらいの歴史があるか聞いても?」
「うちは確か、300年くらいだったな」
300年前にソウライさんが居たのか。
じゃあ、寿命で死んでるね。
残念。
「キテツって人は?」
「お前、師匠の知り合いか?」
「師匠? ケンゾウの師匠がキテツ?」
頷くケンゾウ。
「へ~、あのキテツがねぇ」
「何だ? 若い頃の師匠を知ってる風な言い方だな?」
「今はもう爺さんか?」
「いや? 俺と同じくらいの見た目だな」
ん?
ケンゾウは40代後半に見えるが、キテツが同じくらい?
ゲームで会った時は、30代くらいだったけど今は40代後半。
10年くらい前にこの世界に来たのかな?
「以前師匠が言ってたが、自分は本当は『100歳を超えてる』とか言ってたが……師匠も不老か?」
「俺はオウレンに向かう途中でさ。理源流の道場があったら顔を出そうと思ってたんだ。案内頼めるか?」
「師匠の知り合いなら案内してやるよ」
「じゃあ、あいつらの訓練が終わったら頼む」
「おう」
「もしかしてあの2人のどっちかが理源流?」
「いや、ここには居ねぇが、シナって子が理源流だ」
あっ、女の子の方ね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます