第146話 ギンジの試練。

翌日、土の中で目を覚まして這い出ると、伸びをしながら朝日を浴びる。


「ん~、気持ち良い~」


すると横の地面からボコっとギンジが出て来た。


「あっ、おはようございます」

「おう、よく眠れたか?」

「はい、案外ぐっすり眠れるんですね」

「だろ? さて、朝飯食ったら練習しようか」

「はい!」


さっそく土の椅子とテーブルを作って朝食を食うと一服して、影を召喚する特殊空間を創り、ギンジを連れて転移。


「……ダンジョンみたいな空間ですね」


周囲をキョロキョロしながら呟くギンジ。

サスケさん家の地下にあった、試練用の空間を真似て創ったのだ。


「じゃあさっそく始めよう。中心に行けば影が召喚されるから頑張れ、影を倒す鍵は、ユニークスキルだぞ?」

「はい!」


そうして試練の練習を始めたギンジだが、1回目の練習では殺されてしまい、2回目でなんとか勝てた。

ボロボロだったが訓練モードなので、戦闘が終われば全て元通り、とはいかない。

肉体的には回復してるが精神的には、相当ダメージを負ってる様子。


立ったまま少し俯き、自分の手を見つめるギンジに、少し休憩しようと声を掛け、その場で椅子とテーブルを出してお茶を飲みながら休憩。


「はぁ~、まさか分身に囲まれて殺されるとは思いませんでした」


ギンジがユニークスキルで自分を増やして突撃したのは良いが、影も分身と影分身を大量に出して逆にやられるという結果になった。

確かギンジのユニークスキルは、数を増やせるというスキルだったよな?

それで自分を増やした訳だが……。


「数はもっと増やせるか?」

「増やせます」

「なるほど……例えば、増やした自分が更に自分を増やす事は?」

「えーっと、出来ますね」


ほうほう、なら滅茶苦茶増やせるな。

まあ、魔力の限界はあるだろうけど。

それからユニークスキルについていろいろ聞き、対策を練る事に。



1時間程して作戦が固まり、次は試練本番に挑戦。

しっかり休憩したので体調は大丈夫。

あとは、作戦どおりに行くかどうかだ。


「頑張れよ」

「はい!」


そして中心へ行くと白い忍び装束を着た忍者が現れ、試練の本番開始。


ギンジも既に忍換装して忍者になってる。

俺のお下がりなのでハンゾウが戦ってるみたいだ。

一応所々変えてあるけどな。


先に動いたのは影で、無属性の矢を大量に放つがギンジは、横へ走り出し避けながら、両手で印を結んで発動。

その瞬間、ギンジの周囲に火球が5つ出現。

矢が止まると火球を1つ影に向かって放つと、火球が途中で10個の火球に分裂し、影が居る場所に着弾。


大きな爆発と火柱を上げ、土煙で何も見えなくなる。

ただの火球だがあれは、ギンジのユニークスキルで増やしたものだ。

なので全部が本物の火球で威力も同じ。


作戦を練る時に聞いたら、増やせるけど殆どそういう使い方はしてなかったらしい。

理由を聞くと「それなら最初から遁術でやれば良い」という答えだった。

だが、途中で同じ威力のものが増えるなら、かなり違う。

そして、数が増えると避けるのもの難しくなる。

忍者なら空蝉術で避けられるけどね。

だが空蝉術で避けると動きが読みやすい。

あんな風に。



土煙が上がって何も見えなくなったところで、ギンジの背後に影が姿を現し、直刀を振り下ろすが、未だ残る火球の1つがその場で10個に分裂し、その内の1つが影に当たる。


その瞬間、爆発が起きてその衝撃で影は弾かれ、更に別の火球に当たっては爆発を繰り返し、途中で空蝉術を使って避けるとギンジの背後に瞬間移動する。

しかし先程よりも多い火球が待ち構えていた。


影は、後方へ移動し距離を空け逃れると、片手で印を結びながら走り出し、自分の周囲に岩の槍を6つ形成すると時間差で放つ。

ギンジは残った火球の1つを増やし、放って槍を相殺していく。

全ての槍を放ち終わると火球の爆発に紛れて影が接近し、正面から直刀を振り下ろしてギンジを切り裂く。


深く斬られたギンジは、大量の血飛沫を上げながら後方へ倒れ、動かなくなる。

影は、直刀を振って血を掃った瞬間、胸から刃が生え、霧のように四散して消滅するとその背後には、忍者姿のギンジが立っていた。


「おめでとう」


ギンジは武術家の姿に戻り、その場に座り込む。


「はあ、はあ……動きが早過ぎますね」

「最後は、タイミングばっちりだったな」

「師匠のお陰です。ありがとうございます」


最後に斬られたギンジは、ユニークスキルで増やした自分だ。

そして1体を影に沈め、奴の影から出て心臓を一突き。

影からしたら本体を斬ったという認識だろうな。

自我は無いだろうけど。


「クラスアップしただろ?」


するとギンジは、目の前を見つめ微笑むと俺を見て頷く。

ステータス画面は他の人には見えない。


「ありがとうございます。これで一歩、あいつに近付けた気がします」

「まだまだこれからだぞ? 次は魔忍者か生産忍者に転職だな」

「次があるんですか!?」

「ああ、どうせなら忍者・極まで行かないと」

「極……師匠はもう極になってるんですか?」


ん~、ギンジなら言っても大丈夫かな?


「俺は忍者・神だ。クラスは神忍だね」

「神……」

「よし、試練は終わったんだし、休憩したらオウレンに向かうぞ」

「あ、はい!」


ギンジを連れて野営地に転移し、少し休憩してから林の中へ続く街道へ入った。



林の中をのんびり歩きながらギンジが呟く。


「影分身……無属性……影属性……」


影忍になって進化したスキルを確認してるようだ。


「無属性は便利だぞ。いろいろ使える」

「例えば?」

「空中に足場を作ったりも出来るし、俺は糸にして使ってるな」

「糸?」

「魔力で作った糸、魔力を込めれば岩も切断出来るし、魔物や人なら全身に巻き付けて細切れにも出来る」

「なるほど、そういう使い方も出来るんですね。糸か……例えば、ガントレットのようなものは作れると思います?」

「ガントレット? それなら普通に装備を買うか作った方が良いんじゃね?」

「いえ、魔力で作れば、手入れも必要無いし、魔力を込めれば硬くなる。もしかしたら他にも何か効果を乗せられるかも?」


あぁ、実物のガントレットよりは、戦闘の幅は広がるか。

何も着けてなかったのに、いつの間にかガントレットを着けてたら相手は驚くだろうし、魔力ならガントレットの形も変えられる。

……案外良いかもな。


「良いんじゃないか? 磨き甲斐がありそうだ」

「はい、試してみます」


そんな話をしながらのんびり歩いてると、200メートル程先に魔力を感知。

空間感知で確かめると人と魔物が戦っている様子。


「人と魔物だ」

「どこですか? 周囲に気配はありませんが……」

「200メートル程先だな」

「では、先に行きます」

「おう、任せる」


するとギンジは、縮地で移動して姿を消す。

冒険者かな?

この世界に来て初めて人が、外で魔物と戦ってるのに遭遇した気がする。

どんな人かなぁ。

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