6章 職証流布
第143話 理由。
流れる雲と気持ちの良い青空。
遠くには、森とてっぺんに雪が積もった高い山々が見える。
俺は今、ギンジとなだらかな丘が幾つも続く街道を、のんびりと歩いていた。
レバックに職業の証を与えて訓練をした翌日、シュートは一旦カリムス王国へ帰り、俺とギンジは、道場都市オウレンがあった場所へ向かっている最中だ。
訓練は順調で、レバックも昨日の内に魔力を扱えるようになったし、シュートとギンジも俺と、10回程死ぬまで戦闘訓練をした。
そのお陰かギンジの動きは、かなり良くなったと思う。
まあ、生き返ると言っても死ぬのは精神的に来るし、痛みもあるからな。
死なないように必死になれば、嫌でも成長するもんだ。
シュートも全力を出して戦えた事が楽しかったのか、俺も危ない場面もありながら何度か殺した後、俺の全力を見たいと言うので縛りを解いて戦ったが、一瞬で死んだので実感出来なかったそうな。
俺も戦いながら成長したスキルを試したけど、かなり強くなってると実感出来たね。
ちなみにレバックは、4回目の死を経験するまで心が折れてたよ。
まあ、俺が覚醒者になるには、必要な経験だと言って何とか復活したが。
今後もスキルを鍛えるように言って別れた。
それと首都トウリンは今後、暫くバタバタするだろうと思い、ギンジを連れて道場都市オウレンへ向かう事にしたという事だ。
レインがこちらへ来る頃には、一度トウリンへ戻る事になるかもしれないがまだまだ先である。
それにしても懐かしのオウレン。
ソウライさんはもう居ないかもしれないが、理源流がどうなってるのか気になる。
のんびり向かってるのは何となくだな。
ちなみに服装は、ゲームの時と同じように白のシャツに黒のズボンと黒いブーツを履き、フード付きの黒い外套を纏っている。
左腰には刀、右腰には脇差し、これが俺の冒険スタイルだ。
ギンジは、袖無しの深い緑色をした上着に、同じ色をしたズボンで茶色い靴を履き、焦げ茶色の外套を纏っている。
「この辺りにスキラスは居ないようですね」
俺の横を歩くギンジが周囲を見回しながら言う。
スキラスは、魔境があるのでこちらには来てないようだ。
その代わり、魔物が南方より多い。
と言っても、高ランクの魔物は殆ど居ないけど。
「スキラスが居たらこんなのんびり歩けないだろうな」
「ですね……あっ」
「気付いたか?」
頷くギンジ。
「任せる」
「了解です」
そう言うとギンジは、街道を外れて右方向へ走り出す。
街道の右手には、70メートル程離れた場所に森があり、森の中から魔物がこちらに近付いてるのを魔力感知で察知していた。
ギンジは、森から出て来たのを見て気付いたようだな。
俺はのんびり歩きながら観戦する。
森から出て来たのは、ゲームでは見た事が無い茶色い狼が5匹。
大きさは、大型犬より少し大きいくらいだ。
ギンジが素早く走って近づき、狼の手前10メートル程まで行くと狼達が周囲に広がりギンジを囲むように動くがギンジは、縮地で一気に距離を詰めると魔力を纏った足で狼の顔面を蹴り上げ、横に居た狼が飛び掛かって来たところ、地を蹴り体勢を低くしながら素早く距離を詰めると狼の下へ入り、喉に突きを打ち込む。
散開していた狼達は、それを見て一気に距離を詰め、順番にギンジへ跳びかかるが噛み付きを避けながら、蹴り、突き、手刀で仕留める。
ギンジは、仕留めた狼の死体を収納し、こちらへ戻って来ると何事も無かったかのように横を歩く。
「どうだった?」
「獣の動きは読みやすいので攻撃は問題ありませんね。ただ、ゲームの時に戦った狼よりサイズが大きく、少し硬い印象があります」
「魔力は流したんだろ?」
「はい、じゃないと再生しますからね」
そう、この世界の魔物は基本、再生能力を持っているので魔力を流して再生を止めるか再生出来ない程のダメージを与えるしか倒す方法が無い。
狼程度の魔物の再生なら少し魔力を流せば余裕で倒せるが、高ランクになればなる程、再生能力が高いのが厄介なのだ。
ギンジとレバックには、魔力を流して倒す事を教えてある。
ちなみにシュートは知ってたようだ。
そしてギンジには昨日『溜気』と『流気』を教えた。
リュウゲンと戦うための技だね。
「溜気はなんとか出来るようになりましたが、流気は難しいですね。流した時、少し反発があるんです」
「それは、溜があるからだろうな」
「溜?」
「ギンジは、溜気が得意だから自然と溜を作ってしまうんだろう」
「なるほど……流気は流れが大事ですもんね」
「そのとおり、俺も何度半蔵にボコボコにされたか……」
「ハンゾウって分身にボコボコにされたんですか?」
「ん? 違う違う、使徒の半蔵だよ」
「使徒? って神の使いの?」
「そう、滅茶苦茶強いんだよこれが、総合的な力は俺と同じくらいだろうけど、技がスゲーんだよ。俺ももっと技を磨かないとなぁ」
「神の使徒なんて居たんですね。強いのも納得です」
「この世界に来てるぞ」
「えっ……」
急に立ち止まるギンジ。
俺も立ち止まって振り返るとギンジが口を開く。
「この世界にGFWの神が来てるんですか?」
「ああ、神と言っても元管理AIだけどな。しかも統合された管理AI、人と会う約束があるって言ってたろ? その元管理AIと会ってたんだ」
ギンジは、少し考えると歩き出し、横へ来たので俺も歩き出す。
「……僕達がこの世界に来たのってこの世界の神によるものなんですかね?」
「いや、アマネは、管理AIの事な? アマネが言うには……」
この世界とは別次元の影響によるもので、この世界に居る限り原因は分からないだろうと言っていた事を伝える。
「別次元の影響……師匠、この世界に神は居ると思いますか?」
「どうだろうなぁ。居たとしても俺達には関係無いと思うぞ?」
「どうしてですか? 他の世界から来た僕達、この世界にとっては『異物』を気にしないですかね?」
「あぁ、ギンジはそういう考え方なのか」
「そういうとは?」
「俺達が異物って考え」
「まあ、本来居ないはずの存在ですから」
俺達がこの世界に居るのが神や別次元の影響だとしてもそれは、ただ原因に過ぎない。
どんな意図があってこうしたのかは分からないが、分かる必要も無いと俺は思う。
って言うか何か意図があるなら伝えて来るはず。
それが無いって事は、ただ『現象』として起こった事だろう。
なので俺達は『本来居ないはずの存在』ではなく『居る時点でそれが自然』って事だ。
「だから気にするだけ無駄って事だな」
「なるほど……本来居ないはずの存在ではなく、居る時点でそれが自然……深いですね」
そうか?
そのままの気がするが?
目の前に居るのに認めない方がおかしい。
そこに存在してるんだから。
「まあ、この世界の神が居たら話は聞いてみたいけど、どうやってこの世界に俺達を転移させたのか」
「そこですか? 何のために僕達を呼んだのかじゃなくて?」
「そんな事はどうでも良い。それより方法が気になる。だってゲームのキャラで俺達はこの世界に来てるんだぞ? データだけの存在を現実にした方法は気になるだろ」
「あぁ……まあ、確かに?」
それに、なんのために連れて来たのかなんて聞いたら、それをしなくちゃいけないじゃん。
報酬を貰えて内容が出来る事ならやるけど、世界を救ってくれとか言われたら絶対拒否する。
そんなもんは、やりたい奴がやれば良い。
魔王を倒してくれとかなら喜んで戦うが。
まあ、レインやシュートのように長年この世界に居る者でも、神に言われたなんて話は聞かないから無いんだろうけどね。
俺達はただ、この世界に存在してる。
何をするかは自由だ。
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