第135話 住人とプレイヤーの違い。
オウカとの魔想演武が終わると、ヘイタさんとシュートの摸擬戦が行われる事に。
俺とオウカがホムラの所へ戻るとホムラが、笑顔で迎えてくれる。
「まさか魔想演武でオウカと引き分けになるとは、流石ですね」
「あんな戦い方があるとは、知らなかったよ」
「次は、真剣で勝負だからな」
「ああ……おっ、シュートとヘイタさんの戦いが始まるぞ」
審判は黒髪短髪のケイジがするらしい。
ヘイタとシュートが対峙して軽く礼をするとケイジが、手を上げて開始の合図を出し、2人の摸擬戦が始まる。
ヘイタさんは木刀でシュートは、自分で持っていた木剣を使うようだ。
剣術を使うシュートには、木剣の方が良いだろうな。
試合開始と同時にシュートが突撃し、木剣を振り下ろすが木刀で受け流され、ヘイタさんが手首を返して斬り上げる。
シュートは上体を反らしギリギリ避け、ヘイタさんの腹に蹴りを放つが躱され、踏み込みと同時に木刀を振り下ろすとカンッ!! と木と木のぶつかり合う音が鳴り響き、シュートが数メートル後ろへ滑って後退した。
木刀をギリギリ木剣で防いだようだ。
「シュートの身体ごと後退させるとは、かなり重い攻撃だな」
すると右に立つホムラが答える。
「ヘイタ殿の攻撃は、大型の魔物を真っ二つにする程ですから」
続いてホムラの右に立つオウカが言う。
「ヘイタ殿は、どんな魔物でも片手で斬る鍛錬をしてるからな」
なるほど、それであの威力か。
俺はオウカに尋ねる。
「オウカさん、以前と今の違いってある?」
そこで試合を見ていたホムラとオウカが俺に視線を向けるので、俺もオウカを見て聞く。
「ゲーム時代……仁の国に居た頃と今の違いはあるかな?」
「ふむ……」
「キジ丸さん、オウカも以前の記憶はありますよ」
まあ、シズキの事を覚えてたからな。
そらは分かる。
ただ、現実になった今とゲームの時の違いがあるのか聞きたい。
「もう何年前になるかな? 私は道場でいつものように鍛錬をしていたら気付けば、見知らぬ森の中で目を覚ました」
オウカの話によると、森の中で目を覚ました時、今まで居た場所というより世界が違う事をすぐ理解出来たとの事。
そこは俺達も同じだ。
しかし、それだけで他はまったく以前と同じらしい。
プレイヤーと住人の違いか。
プレイヤーは、ゲームという認識があるが住人にとってはGFW内が現実だ。
その違いだろう。
「トウリンを見つけた時は更に驚いたな。以前とまったく違う街並みだし、広さも違う。道場に行ってみるとまったく知らない者達だらけだったが、ホムラを見つけた時は、安心したよ」
「僕もだよ」
そう言って見つめ合い微笑み、2人の世界を作る。
「コホン……それで、この世界に関して何か分かる事は?」
「いや、何も分からん。ただいろんな者に話を聞いたり調べて分かったのは、ここは首都トウリンだが私の知ってる頃より、かなり時が経ってる事くらいだ」
「どれくらい?」
「はっきりとは分からないが『3000年以上』は経ってる」
仁の国がこの世界に来て周辺国と戦争をし、今の仁皇国になったのは聞いた。
「以前の世界に帰りたいと思った事は?」
「無いな。私にとっては、突然未来に飛ばされた感覚だがこうしてホムラも居るし……あっ、そう言えば、何年前か忘れたが知ってる門下生と1人会ったな」
「仁皇流に居た門下生?」
「ああ、以前私が教えていた者だ。かなり歳を取っていたがすぐ分かったよ。向こうは私に気付かず去って行ったが」
それで飛ばされた時代に差がある事を理解し、他にも知り合いが居ないのか暫くの間探していたらしい。
話を聞いて思ったのは、住人達は現実から別の現実に転移した感覚だが俺達プレイヤーは、ゲームから現実世界に転移したという違いだ。
その差はかなりあるけど、今では全員同じ世界に住む住人だな。
なんて考えてると、ふと気になる事を聞く。
「職業の証は? オウカさんの侍としての証は持ってる?」
「ふむ、当然持ってるが? ほら、このとおり」
そう言って右手に短刀が現れる。
「僕も持ってますよ」
ホムラも出す。
「インベントリから出したのか?」
「ええ、そうですけど?」
「それに血を一滴垂らしてみな」
「血を?」
首を傾げるホムラに、とにかくやってみろと言い、やらせると納得したようで、短刀で指を少し斬り、血を付けると理解したようだ。
手に持つ短刀が一瞬で消える。
「これは……メニューは無いんですね」
「ステータスは見れるだろ?」
頷いて目の前を見つめるホムラ。
おそらくステータス画面を見てるんだろう。
「何をしてるのか教えてくれ」
「あぁ、オウカも見れるだろ? 自分のステータス」
「ん? 今まで見れなかったのか?」
頷くホムラ。
「この世界に来てずっと見れなかったんだよ。でもいま見れるようになった」
「そうか……レンカが成人になったら私の証を譲ろうと考えてるんだが、ジンクにはホムラのを譲ろう」
「えっ? これって他の人に譲れるのかな?」
「分からんが、そうすれば職業を得られていない子供達に、職業を譲る事が出来ると思ってな」
「……なるほど、分かった。ジンクを試して合格すれば、僕の証を譲ろう」
「私はレンカに」
うむ、こうして親の職業を継いでいくようになるんだな。
ゲームの時は、管理AIが成人した者に合った職業を授けていたが、それが無くなった今、こうして職業に就かせるしかないか。
……俺もいずれ、誰かに巻物を託すのかな?
今居る弟子たちは、職業の証は持ってるからねぇ。
託すなら俺と同じくらい強くなれる者に託したい。
なんて話をしてるとシュートの摸擬戦が終了する。
勝敗は、ギリギリシュートの勝ちだ。
互いに礼をして戻って来るとシュートが、苦笑いを浮かべながら言う。
「魔力無しだとキツイ」
「シュート殿はかなりの強さだ。次は真剣で勝負がしたい」
「あぁ、ってか技の多さにビックリしたんだが? あれ全部魔力を使ってないんだろ?」
「ふむ、仁皇流の基本的な技を使わせてもらった」
「俺も何か技を考えようかな」
「お疲れ、ギリギリ勝てたじゃん」
「ああ、危ない場面が何回かあった。魔力を使った戦いなら俺が負けてたかもな」
それが実戦の面白さだ。
摸擬戦とは全然違う。
「もう終わりで良いの?」
「俺は十分だ」
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「キジ丸さん、今後の予定は?」
とりあえずアマネの依頼を終わらせてからだな。
その後は、ゼルメアがあった場所へ行く方法を探す。
船か北へグルっと回らないといけないらしいからね。
情報収集しながら仁皇国を回っても良い。
「頼まれた仕事を終わらせる」
「依頼を受けてるんですか?」
「ああ、ちょっとした依頼だけどな」
「では、また時間がある時に酒でも、これが連絡先です」
そう言って名刺を渡されたので見ると、スマホの番号が書かれていた。
まさか異世界で名刺を見る事になるとは。
俺もレバックに用意してもらったスマホの番号を渡し、シュートも番号を交換すると道場を後にする。
まさかホムラと再会出来るとはねぇ。
仁の国に居たプレイヤーも多いだろうな。
……あっ、仁の国なら東に行けば魔の領域があるはず。
影の里はこっちに来てるかな?
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