第134話 魔想演武。

オウカと対峙し、ヘイタが開始の合図をしようとオウカが、手を出して止めて口を開く。


「提案があるのだが」

「何の?」

「ホムラと戦ってるのを見たからさ。このまま私も普通に摸擬戦しても面白くないだろ?」


俺は楽しいけど?


「で?」

「ここは『魔想演武まそうえんぶ』をやらないか?」

「まそうえんぶ?」


なにそれ?

と思ってるとヘイタが口を開く。


「オウカ、それは仁皇流の者しか知らない事だぞ?」

「ああ、分かってるよ。でもキジ丸殿も魔力を使えるのだろ? なら出来るさ。キジ丸殿、魔想演武とは、魔力だけで戦う仁皇流に伝わる訓練方法の事だ」


詳しく聞くと、互いに刀でも木刀でも良いから切先を重ね対峙する。

その状態から武器に魔力を流し、身体を動かさず魔力だけを動かして戦う事を『魔想演武』と言うらしい。

話を聞いただけだとあまり理解が出来ないので、とりあえずやってみる事にする。


『オウカ様とあれをやるのか』

『すぐ終わるな』

『他の師範もオウカ様には、あれで勝てないからなぁ』

『魔想演武は、オウカ様が創ったと聞いた事がある。そんな人に勝てる訳ないじゃん』

『まあ、先程の戦いを魔想演武で発揮出来れば、良い勝負をするかもな』


なんて門下生達の声を、強化された聴覚が拾う。

オウカが創ったのかよ。

仁皇流に代々伝わる方法じゃないの?



まずは練習でやってみる事になり、道場の中央でオウカと対峙し、木刀を両手で持ちオウカの木刀と切先を重ねて中段に構える。


「この状態で木刀に魔力を流し、相手の武器に流す」


その瞬間、オウカがこちらに踏み込んで顔の横を木刀が通り過ぎた。

が、気付けばオウカは元の状態。

俺が驚いて固まってると。


「感じ取れたようだね?」


そう言ってニヤっと笑う。

何だ今のは?

幻覚か?

いや、顔の横を木刀が通った時、微かに風の動きを感じたぞ?

でもオウカは動いてない……どういう事?


「今のが魔想演武さ」

「幻覚じゃないよな?」


俺がそう言うと驚いたような表情をし、感心するように頷く。


「本当に強いようだね。そこまで感じられたなら問題無い。キジ丸殿も魔想演武が出来るはずさ。しかも相当強そうだ」


詳しく聞くと今のは、木刀に流れたオウカの魔力が見せた映像らしい。

実力が共わない者なら、何をされたのかも分からず、攻撃を受けて終了。

今のは練習なのでわざと外したとの事。


話を聞いて分かったのは、この魔想演武は刀気の魔力版って感じだな。

刀気は威圧を武器に流すがこれは、魔力に思いや念を乗せて流す事で、武器から相手の武器に流れた魔力が攻撃をする。

実際に動く訳じゃないが魔力だけの攻防を行い、相手を制す訓練。


「これは何の訓練になるのか聞いても?」

「主に魔力制御だ。ついでに言えばこれが出来るようになれば、魔力を重ねる事も容易に出来るようになる。更に、実際に戦う時にも役に立つよ」


つまり、ユニークスキルを得るための訓練でもあるのか。

良いね。

実戦では、魔力制御は必須。

しかもこれは、魔力を流す時に術理を組み込んでやれば実際に動く時、この訓練でやっていれば魔力を動きに合わせる訓練にもなる。



納得した俺はオウカに、何度か練習をさせてもらい。

攻撃と防御の感覚を掴んだので、本番を行う事に。


「じゃあ、手加減はしないよ?」

「ああ、思いっきり来い」


その方がやり甲斐がある。

切先を合わせ、ヘイタさんが手を上げて開始の合図を出す。


「では……はじめ!」


次の瞬間、オウカが踏み込んで木刀を振り下ろしてくるのを感じ取り、俺も木刀を斬り上げるイメージで魔力を流すとオウカの攻撃を弾く。

すると俺の左肩に微かなダメージが入る。

完全に防ぐ事は出来なかったようだ。


これは流すタイミングが遅く、流す魔力が少なかったからだな。

逆に魔力を流し過ぎると相手の魔力とぶつかった時の反動が帰って来る。

なので相手の攻撃を防ぐには、同じくらいの魔力を流して相殺させなければいけない。


そこからお互いの読み合いが始まり、徐々にスピードが上がっていく。

はたから見ればまったく動いてない2人だが、当人同士には激しい攻防が視えている。

立った場所から互いに動かず、ひたすら斬り合ってるようなものだ。

切先を合わせた場所からどう動いて斬るのか、防御をしてどう斬り返すのかといろいろ考える事が多い。


演武が始まって約30秒程経った頃。

俺の全身にはあっちこっち木刀の攻撃を受けたような傷が増え、オウカには一度も攻撃が入っていない。


『やっぱりな。オウカ様に勝てる訳ない』

『よく持った方だよ』

『オウカさんはまったく攻撃を受けてないもんな』


そんな声が聞こえてくるが無視をして更に集中。

そこでふと気付く。

俺は、オウカの魔力から感じる攻撃に合わせて防御をし、斬り返しをしてるがこのままだと永遠に勝てない。


オウカはなぜ俺の攻撃を喰らわないのか?

魔力制御が上手いから?

技術が高いから?

強いから?

いや、どれも違う。


オウカに攻撃を仕掛ける時、違和感がある。

そしてその違和感は、いま分かった。

オウカは、俺の攻撃を避けてないのだ。


じゃあ、ダメージが入るんじゃね?

と思うだろうが違う。

オウカは、俺の攻撃の魔力にも攻撃をぶつけてるのだ。

だから俺は自分の魔力の反動で攻撃を受ける。

俺はオウカの攻撃を躱したり防いだり弾いたりしてるが、魔力だけの攻防だと必ず隙が生まれ攻撃をくらう。


そうと分かれば簡単。

こちらも全て攻撃にすれば良い。

攻撃は最大の防御とは、まさにこの事だな。


俺がニヤっと笑みを浮かべるとオウカも笑みを浮かべるが、次の瞬間には驚いた表情をし、すぐ笑みに変わる。


「1分もしない内に気付くとは、流石だ」

「そりゃどうも、いくぞ?」

「来い」


そう告げると俺は、全てを攻撃にし、技を加える。

魔閃、瞬殺、瞬影、オウカは全方位からの攻撃を防ぐ事が出来ず、一気に全身にダメージが入る。


『オウカ様が攻撃を受けたぞ!?』

『マジかよ!?』

『まさか、オウカ様までやられるのか!?』

『いや、魔想演武でオウカ様に勝てる人は居ない!』

『しかし、このままじゃ』


門下生達が騒ぐが今は無視だ。

気を抜けばオウカの攻撃が押し寄せる。

そうなると負けるだろう。


ハハハハ!

いやぁ~、マジで面白い。

こんな戦い方があるなんてな。

テンション上がる!!

もっとだもっと、もっと強く、もっと速く、もっと鋭く……。


魔力をどんどん流していると次の瞬間、重ねた互いの木刀が切先の部分が弾け飛ぶ。


「うおっ!?」

「なっ!?」


俺とオウカは驚いた表情で見合う。

何だ?

何が起きた?

するとオウカは、笑いながら告げた。


「ハハハハ、まさかこれほど強いとはね。今回は引き分けだよ」

「引き分け?」

「ああ、木刀が耐えられなかったようだ」


あぁ、なるほど。

実際に戦ってても木刀が耐えられなかったって事か。


「久々に楽しませてもらったよ。次は是非真剣で勝負したい」

「そうだな。次は真剣勝負だな」


いや、マジで面白かった。

これは訓練に取り入れよう。


さてと、次はシュートの番か。

その間、オウカにいろいろ話を聞かせてもらおうかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る