第133話 成長した弟君。

道場の真ん中でホムラと数メートル離れ対峙する。

ルールは、互いに魔力を使わない事、剣技のみの摸擬戦という事に決まった。

俺達が魔力を使って戦えば、道場が壊れる可能性があるからな。

そして武器は、道場で使っている木刀で行う。


ブンブンと軽く振って具合を確かめる。

うん、悪くない。

しっかり作られた木刀だ。

バランスも良いね。


「では、私オウカが審判を務めさせて頂く。両者準備は良いか?」


頷く俺とホムラ。

するとオウカが右手を上げ、少し間を空けると腕を振り下ろすと同時に告げる。


「はじめ!!」


開始の合図はあったが両者とも動かない。

ホムラは右手で木刀を持ち、中段の構えを取る。

俺は構えず右手に持ったまま、突っ立った状態だ。


「ホムラ、シズキと戦った事があるんだろ?」

「……一度、神前試合で」

「先手は譲る。仁皇流師範代の腕、見せてくれ」

「シズキさんと同じくらい強いらしいですからね……全力で行かせてもらいますよ?」

「ああ、来い」


ホムラは床を蹴り、物凄い速さで迫り、俺まで4メートル程の距離まで来ると一気に踏み込み、左手も添えて木刀を振り下ろす。

かなり速い。

身体の動きは最小限に留め、全身で木刀を振ってるのが分かる。

相当鍛錬したようだ。


迫る木刀に木刀を這わせ軌道を逸らし受け流すと、すぐにピタッと木刀を止めて俺の横っ腹目掛けて斬り返して来たので、刀でいう柄の部分で木刀を受け止め、手首を捻って木刀を弾きながら、ホムラの首へ木刀を振り抜く。


しかしホムラは上体を屈めて躱しながら俺の懐に入ると、低い体勢から俺の胴体目掛けて横に振り抜いて来たので木刀を下に向けて防ぎながら、左足でホムラの横っ腹を蹴って数メートル吹っ飛ばす。


ホムラは、左手で木刀を持ったまま右腕を曲げ、俺の蹴りを受け止めた状態で床を滑って行き止まる。


「最強の蹴りは、重いですね」

「ホムラの攻撃も重いぞ。しっかり体重が乗ってる」

「はは、片手で受け止められましたけどね」

「あれが全力じゃないだろ?」

「まあそうですね」


そう言ってニヤっと笑みを浮かべるホムラ。

やっぱりな。

ホムラも様子見って事か。


「じゃあここからは、徐々にギアを上げて行こうか?」

「そうですね。もっと楽しみたいですが、まだ次がありますからね」


互いにニヤっと笑みを浮かべると少し間を空け、2人同時に動き出した瞬間、ホムラの剣戟が俺を襲う。

正面から斬り掛かって来るホムラ。

上、下、右、左とあらゆる角度から迫る剣戟。

その全てを木刀で弾き、受け流し、防ぎながら観察してるとホムラの攻撃は、全て急所を狙っている事に気付く。


急所と言っても正中線だけではない。

腕、首、足、胴体、全身の急所だ。

今は木刀での試合だがこれが真剣なら、相手の頸動脈を少し斬るだけで勝負は決まる。

態々身体を切り裂く必要は無く、頸動脈を斬れば血を失いすぐ動けなくなって死ぬだろう。


まあ、魔力が使えるなら止血は出来るんだけどね。

なのでこれは、魔力が使えない相手を想定した戦い方だ。

魔力が使える者は一部だけだからな。

この戦い方は理にかなってる。



そんな事を思ってるとホムラの攻撃が変わった。

急所を狙っていた攻撃が関係無い箇所にまで広がる。

こうなると攻撃を予測するのは難しい。

今は見て判断してるが、もっと速くなれば間に合わないだろう。

これが実戦なら心眼を使って攻撃を視るんだけど、今は摸擬戦。

心眼は使えない。


お互い徐々に速さが増して行き、外から見れば俺達の動きが見えるのは師範代とシュートだけだろうな。


『凄い』

『流石ホムラ様』

『攻撃が見えない』

『あの攻撃を全て捌けるのか、何者だあの男?』

『師範代と互角なんて何者だよ』

『師範代ってここまで強かったのか……』


と、壁沿いに正座してる門下生達の声が聞こえてくる。

すると攻撃が数秒続いた時、ホムラの木刀を弾いた瞬間それまで見せなかった突きが顔面目掛けて迫ったので頭を傾げてギリギリ避けると避けた先に木刀の切先が迫って来た。


速い。

ギリギリ何とか避けると更に突きが続き、避けていると右足に蹴りを受け体勢を崩す。

その隙に木刀が首に迫って来たので避ける事も出来ず、左腕でバキッと防ぐ。


「はあ、はあ……参りました」

「良い攻撃だったぞ」


ホムラは木刀を振り抜いた状態で止まり、降参した。

その理由は、俺が左腕でホムラの木刀を受け止めながら、自分の木刀をホムラの首に添えたからだ。


互いに木刀を引き、頭を下げて摸擬戦終了。


『スゲー!』

『こんな戦い初めて見た!』

『最後の方なんて何してるか殆ど見えなかった』

『ホムラ様の突きを躱せる人が居たんだ』


ザワザワと門下生達が騒ぐ中、オウカが告げる。


「終了! 勝者、キジ丸!!」

「流石最強ですね。全然攻撃が当たらない」

「最後は不意を突かれたな」

「あれは『影打ち』という仁皇流の技です」


影打ち。

聞くと意識を逸らして相手を斬る技らしい。

それを今回は、蹴りでやっただけの事。

何度か影打ちを使ってたらしいが、全部俺が躱して防いでたという。

なので最後は、木刀ではなく蹴りでやったんだとさ。

あそこまで木刀に気を持っていかれたら、蹴りから意識を外されるよね。

だがまあ、今回の事で俺もまだまだって事が知れて良かった。


「腕、大丈夫ですか? 思いっきり受け止めてましたけど」

「問題無い、腕の1本や2本犠牲にして勝てるなら捨てるさ。魔法がある世界ならではの戦い方だけど」

「まさに肉を斬らせて骨を断つですね」


俺は体内に印を書いて腕を治す。

幸い鍛えてるお陰で、折れてはいなかったようだ。


「次は、魔力ありで戦ってみたいな。ホムラの全力が見たい」

「死にますよ? 俺が」

「いや、今回だって真剣なら俺の腕ごと首を斬り落としてたかもしれないだろ?」


実戦だと例えどんなに強くても、ちょっとした判断で殺される。

それが戦いだ。

その判断を間違えないように、経験を積む事が大事なんだよね。


「キジ丸殿、私と試合は出来るかな?」

「ああ、問題無い」

「では、私とやろうか」

「審判は、ヘイタ殿、頼む」


ヘイタが頷いてこちらへやって来たので、ホムラは頭を下げて移動し、オウカと俺は木刀を持って対峙する。

さて、元住人のオウカがどれくらい強くなってるのか確かめさせてもらおう。

いろいろ聞きたい事もあるし、試合が終わったらじっくり話したいな。

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