第132話 弟君のこれまで。

ホムラは、約30年程前にこの世界へ来た時、トウリンの近くだったのですぐ街へ入り、知り合いが居ないか街中を探し回ったらしい。


しかし、数日探し回ってもパーティーを組んでいたフレンドは見つからず、途方に暮れていた時、道場に顔を出して免許皆伝の証を見せると、すぐさま受け入れてもらい、道場で暮らす事約2年程経った頃、オウカが道場に姿を現してやっと知っている顔と出会えて安心したそうだ。


「もしかして道場に居た、薄いピンク色の髪をした師範代と結婚したのか?」


ってか、あの師範代がオウカだったのか。

雰囲気が違うから分からなかった。


「はい、この道場で知ってる者がお互いだけだったので、よく一緒に居たら自然と」


それでホムラも一緒に師範代をしてるのか。

子供も2人授かり、幸せな家庭を築いたようだな。

その後、ハクアは居ないのか近隣の街や他国を探し回ったが結局見つからず、現在に至る。


「ハクアは、ゲームではどこに居た? 大会が終わった後、仁の国に戻ったんだろ?」

「いえ、姉はゼルメアに残ってました」

「あぁ、だとしたらあっちに居るかもな」

「やっぱり、ゲームで居た場所で決まるんですか?」

「俺も南方に居る時、この世界に来てさ。気付いたら知らない林の中で目覚めたからビックリしたよ」

「まさか、魔境を超えて来たんですか!?」

「ああ、ゼルメアがあった場所に戻ろうと思ってね」

「あの魔境を、流石最強」

「今のホムラなら余裕で行けるだろ?」

「いえ、体力が持ちませんね」


歳を取った影響か。


「ホムラは不老にならなかったのか」

「ええ、不老になる方法は知ってますが、子供や妻が居るので」

「奥さんも不老にすれば良いじゃん。何なら俺がというかハンゾウにやってもらうか? もしかしたら若返る事も出来るぞ?」

「ハンゾウさんも来てるんですか?」


俺の背後に分身を出す。


「おお、近未来忍者だ」

「こっちに来て装備を変えさせた。当然俺が作った装備だ。でどうする?」


ホムラは暫く考えた後、にっこり笑って答える。


「やめときます」

「本当に良いのか?」

「はい、このまま妻といっしょに歳を取って寿命で死ぬ。それが今の望みです。まあ、まだまだ死にませんが」

「地球に帰る気は無いと?」

「ええ、家族が居ますから」


そう言って笑うホムラは、本当に幸せそうな顔をしてる。

家族か……幸せは人それぞれだな。


「あっ、もしかしてハクアも不老じゃない?」

「いえ、姉は確か不老の力を持ってたはずです」

「そうか……見つけたらホムラの事は伝えるよ」


そう言いながら手を上げて分身を影に潜らせると解除。


「ありがとうございます」

「ゼルメアがあった所へ探しには、行かなかったんだな」

「はい、ここからだと海を渡るか北からグルっと回らないと行けませんからね。1人なら行ってたかもしれませんが家族を置いて行こうとは思いません」


まあ、姉弟なんてそんなもんだろう。

お互い子供じゃないんだし、自分の面倒は自分で見れるしな。

ハクアみたいにしっかりした姉なら心配するより、自分の心配するだろうね。

ってかそれよりも。


「ゼルメアがあった場所に行くために海を渡るって言ってたが、渡れるのか?」

「ここからじゃ無理ですが、北の方なら渡れるらしいですよ?」

「確か海にも大型の魔物が居て船じゃ渡れないって聞いたんだが?」

「あぁ、それは仁皇国とチャルドム共和国の間の海域ですね。その辺りは海を分けるように大型や強い魔物が居て渡れませんが、更に北側の海域は、魔物が少ないらしいです」


なるほど、東側の仁皇国と西側のヴァルハラは船で行き来が出来るが、そこから少し北は魔海で、更に北へ行くと普通の海になってると。

やっぱり強い魔物が集まる海には、血穴がありそう。

それか魔力が溜まってるだけなのかも?



その後もいろいろ聞いて話しが終わり、ホムラが道場へ戻ろうと言うので提案する。


「一戦、やらないか?」

「キジ丸さんとですか?」


頷く俺。

互いにジッと見つめ合うとホムラは、口端を上げて笑いながら答えた。


「良いですよ。最強プレイヤーのキジ丸さんと今の僕、どっちが強いのか確かめたい」

「おい、俺もやりたいんだが?」

「シュートはオウカさんとやれば?」

「良いのか?」

「はは、オウカも強い相手と戦うのは好きですからね。言えばやると思いますよ」

「よし、じゃあさっそく行こう」


そう言って席を立ち、部屋を出て道場へ向かう。

道場に戻ると白髪の師範代が門下生の相手をしており、残った2人の師範代は立ったまま観戦していた。

ホムラが師範代達の所へ歩いて行くので俺とシュートも付いて行く。


「オウカ」

「ん? 話は終わったのか?」

「ああ、こちらキジ丸さんとシュートさんだ」


軽く頭を下げる。


「初めまして、仁皇流師範代が1人、オウカだ。よろしく」


シズキでは会ってるんだけどね。


「あなたがオウカさんか」

「私の事を知ってるのか?」

「シズキに聞いた」

「シズキ殿の知り合いか!?」

「シズキさんを知ってるんですか!?」


驚く2人。

ホムラよ、奥さんの前で昔惚れた女に興味を示すのはどうかと思うぞ?


「俺の大事な人だよ」

「おお、そうか!」

「大事な人とはつまり?」

「仲間であり友達であり、恋人でもあり……まあ、大事な人だな」

「おいキジ丸、女は居ないって言ってなかったか?」

「女というより、一心同体のような存在だな。互いに技を教え合ったりしてた仲だ」

「なるほど、そういう意味か」

「む? つまりキジ丸殿もシズキ殿と同じくらい強いと?」

「まあ、同じくらい強いかな? そう言えば、今朝までシズキもこの街に居たんだよね」

「本当か!? 是非会いたかったが」

「もう居ないと?」

「武者修行の旅に出たよ」


そう言うと2人は、残念そうな表情をする。

そこへ門下生の相手をしていた師範代が近づいて来た。


「ホムラ、オウカ、その者達は?」

「ヘイタ殿、この2人はホムラの連れらしい。私と共通の知り合いも居る人だ」

「ほう……ワシはここで師範代をしてるヘイタだ」

「キジ丸です」

「シュートです」

「ふむ……中々出来る御仁のようだな」

「ああ、今から摸擬戦をするんですよ」

「ホムラが?」

「私も是非やりたい」


やっぱりオウカもやるつもりだ。

もう一人の師範代は?

と、黒髪短髪の師範代に視線を向けると、オウカが気付いて紹介してくれる。


「ああ、彼も師範代の1人だ」

「初めまして『ケイジ』と申す」


俺とシュートも自己紹介し、さっそく摸擬戦の順番を決める事に。

その結果、まず俺とホムラが戦い、連戦出来るならオウカも戦ってみたいというので、とりあえずホムラと摸擬戦をする事になった。


さて、どれだけ強くなってるのか、ワクワクが止まらない!

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