第131話 師範代。
ジンクの案内で奥の道場へ向かい、閉じられた両開きの扉を少し開いて中に入るとそこには、先程の道場とは違って前面板張りで、大勢の門下生が摸擬戦をしたり、素振りをしたりしていた。
数はあっちより少ないかな?
あっちこっちで戦ってるのをざっと確認するが、師範代は戦っていないようだ。
残念。
「こちらでは、覚醒者になれた者だけが師範代に教わっているんですよ」
「なるほど、あっちはその前段階って事ですね」
「はい、覚醒者になれないと師範代の教えは受けられません」
そこでシュートが稽古風景を眺めながら口を開く。
「師範代はどこに?」
「あちらの奥で、全体を監視してる方達です」
そう言われてよく見ると、奥に腕を組んで立っている人達が4人居る。
左から、男、女、男、男。
左端の男は、白髪の混じった黒髪を後ろで縛ったおっさんだが、かなり風格があるイケオジだ。
女は、白髪に見えるが微かにピンク色で長い髪をしており、見た感じ40代にも見えるが綺麗な顔をしてる。
3番目の男は、完全な白髪をオールバックにし、左目に眼帯を付けた歴戦の侍と言った感じの初老の男で、最後の男は、黒髪の短髪で他の者より若く見えるがおっさんだな。
全員、白い着物に黒い袴を着ている。
師範代専用の服かな?
門下生たちは、ジンクと同じ格好だ。
「師範代は戦わないんですか?」
「もう少ししたら師範代との乱取り稽古が行われます」
「それは楽しみですね」
ワクワクしながら稽古を眺めていると20分程したところで、門下生達が互いに礼をして左右の壁際へ移動し、並んで正座する。
「始まります」
おお、ようやく師範代の戦いが見れるぞ!
どれ程の腕か楽しみだ。
左端の師範代が木刀を持って真ん中に立つと、左右の門下生の中から5名ずつ立ち上がり、木刀を構えて師範代へゆっくり近づいて行く。
合図無しで既に始まってるのか。
1人の門下生が踏み込み、木刀を振り下ろすが師範代は僅かに動いて躱し、続いての斬り上げも躱すと右手に持つ木刀を軽く振り抜き、門下生の胴に打ち込み、微かに衝撃音を鳴らして数メートル吹っ飛ばす。
「マジかよ。あんな軽く振ってるように見えるのに、なんだあの威力?」
師範代の攻撃にシュートが驚く中俺は、師範代がやった攻撃を解析していた。
あれはおそらく俺の溜気と同じような事をやってる。
軽く打ち込んだように見えて魔力を爆発させ、相手を吹っ飛ばしたんだ。
その後も次から次へと襲い掛かる門下生達の攻撃を僅かな動きで躱しながら、カウンターで門下生達を吹っ飛ばしていく。
それにしても動きにまったく無駄が無い。
あの師範代、かなり出来るな。
足の運び、重心移動、木刀の振り方全てに術理がしっかりある。
最小限の力で相手を制す。
相当鍛えてるねぇ。
是非とも戦ってみたい。
そして2分も経たない内に10名の門下生が吹っ飛ばされると、次の門下生達が襲い掛かる。
こうして門下生全員が倒されると師範代が口を開く。
「今後も精進するように」
『ありがとうございました!!』
そう言って頭を下げる門下生達。
すると戦っていた師範代がこちらを見て目を見開き、一瞬動きが固まるがすぐ笑顔になり、こちらへ向かって歩いて来る。
「ん? こっちに来るぞ?」
「もしかして邪魔だったか?」
「あぁいえ、あれは私の父です」
ほう、ジンクの父親か。
って事は。
「あの女性師範代が?」
「母です」
そんな話をしてると師範代が近づいて来て笑顔で口を開く。
「久しぶりです。キジ丸さん」
「えっ、父上、キジ丸殿をご存じなんですか?」
「えーっと、だれ?」
「ハッハッハッ! 分かりませんか?」
こんなオッサン知らんぞ?
俺を知ってるって事は元プレイヤーだろうけど……シュートみたいに老けた元プレイヤーなら分からん。
「ホムラです」
そう言って頭を下げるホムラ。
ホムラ?
誰だっけ?
「ハクアの弟です」
「あっ! マジか!? あのホムラ!?」
笑顔で頷くホムラ。
シズキとして神前試合に出た時戦ったハクアの弟。
確かにホムラもハクアと一緒に、仁皇流を習ってたけどまさかまだ居たとは。
「それにしても老けたなぁ」
「はは、不老ではないのでこればかりは」
「ハクアは?」
すると少し暗い顔をして首を横に振る。
「まさか、既に死んだ?」
「その辺りの事も含めて、別室で話をしませんか?」
「分かった。行こう。シュートも良いよな?」
「シュートさんの事は知ってます。是非一緒に」
「レバックはどうする?」
「君は確か、特殊警備部の?」
「レバックです」
「悪いがキジ丸さんとシュートさんの3人で話をさせてもらう」
「はい、自分はここでお待ちしてます」
「ジンクはレバック殿の世話を頼むぞ」
「畏まりました。母は?」
「オウカは、門下生達を見る役目がある。ではキジ丸さん、シュートさん、行きましょう」
「おう」
そう言って道場の奥へ向かって歩き出すホムラ。
それに付いて行くシュート。
俺もその後を付いて行く。
ホムラが師範代達に「少し話をしてくる」と言って奥の扉へ入って行き、俺達も入ると廊下になっており、左右に扉が幾つかある中、一番手前の左にある扉を開けて中に入るとそこは、応接間のようにソファとテーブルが置かれていた。
俺とシュートは手前のソファに座り、対面にホムラが座るとインベントリからカップを取り出し、お茶を入れると俺達の前に差し出す。
「どうぞ」
「ありがとう」
「……おっ、緑茶か」
「久しぶりに飲む気がする……美味い」
「名産の茶葉です」
お茶を飲んで落ち着くと問いかける。
「で? ハクアは?」
「はい、姉がどうなったのか、実は僕にも分かりません。この世界に来た時僕は、1人でした……」
そうしてホムラが、この世界に来た時からの話をざっくり聞かせてくれた。
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