第121話 南方の使者。
次元門設置をお願いすると黙り込む3人。
そんな中、少しして所長が静かに口を開く。
「キジ丸さん」
「はい?」
「転移装置、次元門を設置すればそちらの国が攻めて来る……という事はないかね?」
「ありません」
「その保証はどこにある?」
「俺がここに居る事ですかね?」
「「「??」」」
3人が首を傾げる。
カリムス王国の特別顧問という立場の俺が既に、その役職を伝えて他国に居る事、もし攻めるなら肩書を教えず、黙って次元門を設置すれば良い。
しかし、そうしない事が何よりの証拠。
「という訳です。それに……いや、これは良いか。とにかく、国のトップから直接話を聞いた方が早いと思いまして、どうですか?」
「ふむ……」
だが3人は、難しい顔をして黙り込む。
この人達が決められないのは分かってるから、さっさと政府の人と繋いでほしいんだけどな。
「政府の人じゃないと決められないなら是非紹介して頂きたいのですが?」
「我々もそうしたいのだが……」
「何か問題が?」
頷く所長。
「この国の現状は?」
「移民が増えて治安も悪くなっていると、シズキに聞きました」
「それをやってるのが国のトップ、大統領なんだが……今の大統領は国の事を考え、移民を次から次へと受け入れている」
「国の事を考えて? 俺にはまったく考えてないように思えますが?」
「現状を見ればそう思うだろう。しかし、人手が足りなくなれば会社も国もいずれ破綻する、そうならないように外から補充するのは当然の事」
「それは逆効果でしょう。と、それが次元門の設置に何か関係が?」
「殆どの国民、我々も含め移民を受け入れるのは反対だ。しかし、大統領や上の連中は、今後も続けていくだろう。そうなれば……」
「カリムス王国と争いになる可能性が高い?」
「ああ、かといって我々が決められる事ではない。もし大統領や上の連中に伝えれば、間違いなく次元門の設置はさせてもらえないだろう」
移民は受け入れるがカリムス王国は受け入れられない理由を聞くと、現在の移民は全てチャルドム人らしい。
そこへ別の国の人間を受け入れるのは、争いを生む可能性がある。
「つまり、政府はチャルドム共和国と何か条約を交わしてるから、移民を受け入れてると?」
頷き黙り込む所長。
うむ……こうなったら俺が使者として条約を結ぶか?
いや、それは面倒だ。
特別顧問だけどカリムス王国の人間じゃないし。
次元門は設置せず、転移でレインだけ連れてこようかな?
「では、女王だけを連れてくるので、政府との繋をお願いしても?」
「次元門を設置せずにか?」
「はい、俺の従者が転移を使えるので」
「個人が転移を!? ……覚醒者か」
「ちなみに女王も覚醒者です」
「「「っ!?」」」
驚く3人。
「で? 大統領と話は出来そうですか?」
暫く考え込み、所長が難しい顔をして話す。
「上手く行くかは分からんが、繋がりのある大臣に声を掛けてみよう。そこから先は話し合って彼から大統領に繋いでもらってくれるか? 私達から直接大統領とはいかんのだ。すまない」
「いえ、それだけでも十分です。大臣と合う際、女王を連れて行った方が良いですかね?」
「ふむ……次元門を設置しないなら問題無いと思うが」
ここまで設置を問題視するってもしかして……。
「あの、別に街の中に設置しなくても良いんですけど? 街の外でも大丈夫なんで良いですか?」
「そうなのか? てっきり街の中に設置するものだと思っていたが」
やっぱりそう思ってたか。
これは俺の言い方が悪かったな。
「すみません。紛らわしい言い方をしてしまって……こちら側ならどこでも良いんです」
「街の外なら好きな所に設置しても構わない」
「本当に良いんですか?」
「ああ、街の外も仁皇国だがそこまで厳しく管理してる訳ではないので問題無い」
魔物が居る世界ならではか。
「では、女王に予定を聞いて後日、訪問する日をお伝えします」
「分かった。こちらも大臣のスケジュールが決まれば連絡しよう。それまでホテルに滞在して頂く事になるが、勿論それなりのおもてなしはさせてもらうつもりだ」
「問題ありません。身分証が無いので誰か付けて頂けると有難いのですが」
「それならレバックに引き続き対応させよう」
「了解です」
「それとすまないが、キジ丸殿とギンジ殿の身分証を作るため、いろいろ聞きたいのだが」
「あっ、はい」
「身分証は、昼までにシズキ殿の分も合わせてホテルへ届けさせよう。では……」
そこから俺とギンジの事について幾つか聞かれ、全て答えるとレバックの先導でビルを出た。
皆でレバックの車に乗り、このままホテルに送るかそれとも、別に行きたい所はあるか聞かれたので「ホテルで」と答える。
ホテルに向かう車中でレバックが。
「キジ丸さん、シズキさんに聞いたんですけど、シズキさんより強いんですよね?」
「あの、敬語じゃなくて良いよ。俺も普通に話すから、付いてくれるなら今後、その方が楽だろ? と、シズキより強いかだったな。どうだろう? 勝つ時もあれば負ける時もあるし、同じくらいだと思うけど?」
「じゃあ普段どおりの口調で行かせもらうよ。仁皇国にも最強の侍が居るんだよ」
「ほう、それは気になるな」
「仁皇様を代々護ってる流派の侍でこの国、いや、この辺りで最強と呼ばれる人達だ」
仁の国で最強の流派と言えば確か、仁皇流だったよな?
と思い聞くと。
「よく知ってるな」
「その中にハクアって居る? もしくは居た?」
「ハクア? いや、知らないな。聞いた事も無い」
ハクアはまだこの世界に来てない?
もしハクアが居たら確実に有名になってるはず。
「身分証が出来たらその仁皇流の人に会えないかな?」
「あぁ、道場の見学なら出来るから明日案内しようか?」
「マジ? じゃあお願いします」
「はは、やっぱり気になるか?」
「そりゃあ、強い人が居るなら自分もそれだけ強くなれると思うからね」
「覚醒者は言う事が違うねぇ。一般人からしたら手の届かない存在だ」
核を破れば、誰でも魔力は使えるんだけどな。
そんな話をしてるとホテルに到着し、昼頃に身分証を届けに来ると言ってレバックとはホテルの前で別れ、俺、シズキ、ギンジで部屋に戻る。
部屋の前に到着するとシズキを先に部屋に入れ、ギンジが自分の部屋に行こうとしたところで伝えておく。
「これからちょっと出かけてくる」
「どちらに?」
「人と会う約束をしてね」
「人? こちらに知り合いが?」
「ちょっとな。何かあれば念話で知らせてくれ」
「……分かりました」
そう言って部屋に戻るギンジを確認し、俺も自分の部屋に入るとさっそく転移した。
俺が会う人とは、神の民の長である。
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