第119話 チャルドム人。

盗まれたドラゴンの鱗だと疑いを掛けられた俺、いやシズキ。

殺してやろうかと思ったがとりあえず、盗んだ物ではないと証明しよう。


「盗まれたとは、どこから?」

「政府が管理してる博物館だ」

「何枚盗まれた?」

「はっ?」

「鱗は何枚盗まれたのか聞いてる」

「いや、一枚だ。ドラゴンの鱗は貴重だからな」

「うむ……」


俺は床に10枚、同じ赤竜の鱗を取り出した。


「どうだ? 拙者が自分で狩ったんでな。当然全身の鱗を持ってる。これで分かったか?」


ポカーンとして固まったゴットンとアキ。

レバックも驚いて目を見開いてる。


「売るのは1枚だ。いくらになる?」

「……あ、ああ、え~、1枚1500万Z《ゼム》だが……な、なあ、もう一枚売ってくれないか? そしてたら5000万Z出す!」

「ゴットンさん!?」

「良いんだ。1枚は政府が買い取るはず」


2枚で5000万Zか、仁皇国の通貨はゼムでデパートでいろんな店を見ながらレバックに聞いたが、Zの価値は円と同じくらいだな。

なので5000万円って事だ。

まあ、それだけあれば十分か。


「分かった。2枚買い取ってくれるか?」

「よし、アキちゃん、手続きしてくれ」

「……分かりました。ゴットンさんが言うならそうします。ギルドマスターには、ゴットンさんが報告して下さいね?」

「任せろ」

「ではカウンターへ戻りましょう。そちらで料金の受け渡しをさせて頂きます」

「分かった」


そう言ってアキと買い取りカウンターへ戻る。


「では、ギルドカードの提示をお願いします」

「ぬっ」

「あの、何か?」

「あぁ~、すまんな。彼女はまだ冒険者登録をしてないんだ」


レバックが答えるとアキは、一瞬驚いた表情をするがすぐ元に戻り、登録しますかと聞いて来たのでレバックを見る。

身分証が無いけど作れるのかな?

するとレバックは頷くと、顔を寄せ小声で言う。


「身分証が無くとも作れる。ただし、ギルドカードは身分証にはならないから気を付けるように」

「うむ、了解した。すまない、作ってくれ」

「では……」


名前:シズキ

年齢:20歳

出身:カリムス王国

ランク:G


先程魔境を超えて来たと言ってあるので、カリムス王国は南方の国だと説明したら納得した。

年齢は適当である。

まあ、シズキの設定をした時の年齢だが。


ギルドカードを作る際、カメラのようなもので写真を撮られ、その写真をカードに載せたようでちゃんと顔写真付きだ。


「では、口座に全額振込でよろしいですか?」

「いや、10万程現金で頂きたい」

「畏まりました。少々お待ち下さい」


少ししてアキが札束を乗せたトレーをカウンターに置いたので受け取り、インベントリに収納。

こっちも紙幣が使われてる。



買い取りが済んで現金を手に入れたのでホテルに戻ろうとアキにお礼を言って、出入り口へ向かって歩いてると、正面の受付から怒鳴り声が聞こえて来た。


『このクソ仁皇国が!! 俺はチャルドム共和国から来た冒険者だぞ!? ちゃんと報酬を払え!! はぁ!? ふざけんじゃねぇぞコラァ!!』


そう言ってカウンターを蹴る男。

確かにマナーも礼儀も知らないゴミのようだな。

なんて思いながら近づこうとするとレバックが前に立つ。


「やめとけ、あれに関わっても碌な事が無いぞ?」

「受付嬢が困ってるようなのでな」


怒鳴られてる受付嬢以外の受付嬢も『またか』といった感じの表情をし、男に白い目を向けているのが分かる。


「受付嬢もプロだ。あしらい方は心得てるだろ」

『このクズ共が! いちゃもん付けて俺の報酬を減らそうとしやがって!! ちゃんと依頼は完了してるだろうが!! サインも貰ってるだろ!!』

『チャグさんが物を壊したと連絡がありました。なのでその分を報酬から引いた額になります』

『あれはあんな所に置いてるのが悪いんだよ!! それを何で俺が弁償しないといけないんだ!? 勝手に取りやがって!! ふざけんじゃねぇぞコラ!!』

『ギルド規定にもちゃんと書かれています。冒険者の器物破損は、報酬から支払われる事になっています』


チャグという男は、顔を真っ赤にして怒りの形相を浮かべながら何も言わず、身体をプルプルさせる。


「はは、あそこまで行くと逆に面白いな」

「お、おい」

「どう見ても子供が癇癪を起してるようにしか見えない。あれが冒険者なのか?」

「あの国の人間だけだな」


そこで男は、怒りが頂点に達したのか腰の剣を抜き、剣を振り上げたところで動きが止まる。


「っ!? なっ、何だっ!?」


俺が縮地で奴の背後に移動し、腕を掴んで振り下ろせなくしただけだ。

腕を掴んだまま、驚いた表情をして固まってる受付嬢に声を掛ける。


「ギルド内で武器を抜いた場合、どうなるのだ?」

「離せコラァ!!」

「あっ、はい、ギルド内で武器を抜いた場合、罰金、もしくは資格はく奪になります」

「逮捕はされないのか?」

「はい、ギルド内の事なので、もし誰かを傷付けた場合は、逮捕されます」

「なるほど……」


俺はそこで掴んでいた手を離す。

すると男は振り向きざまに回し蹴りを俺の腹に打ち込んで来たのでそのまま受け、数メートル吹っ飛んで着地。


「ぐっ」

「邪魔しやがって、お前も……」


男は俺を見てそこまで言うとニヤッと笑みを浮かべ、剣を鞘に戻した。


「お前、名前は?」

「チャグさん。ギルド内での武器を抜いて暴行をした事により、資格はく奪と共に、逮捕します」

「うるせぇ!! 黙ってろ!! 国に帰れば資格ははく奪されないからな。それよりお前、名前は?」


うむ、苦しむフリをする必要は無いか。

資格はく奪に暴行した事で逮捕されるようだしな。

苦しむフリを止めてスッと立ち上がり、答える。


「お前のような奴に教える名は無い」


すると男は、歩いて俺の横を通り過ぎる時、小声で言う。


「お前を玩具にしてやるからな。待ってろよ」


そう言って通り過ぎようとした男の首を掴み、少し持ち上げて後頭部から床に叩き付けた。


「かはっ!?」

「どこへ行こうとしてる? お前はこのまま逮捕されるんだぞ?」

「すみません。すぐ警察が来ますので」


その後、数分で警察がやって来て男を連行して行き、騒ぎが終わるとレバックが横に立ち、連行される男を見ながら言う。


「あいつらは逮捕されても、強制送還されるだけで、自国に戻ると自由の身だ」

「ほう、そこまで馬鹿なのかどっちの政府も」

「外人を逮捕しても、国同士の取り決めで強制送還するしかないんだ」

「そういう決まりがあるのか……」


なら殺すか。

ゴミは焼却処分しないとね。

夜になったらやろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る