第118話 北の国。

レバックが言うチャルドム共和国は、人権の無い国で政府が国民を物として扱っているらしく、国の都合で簡単に国民を見捨てる政府らしい。

国民が買った土地を簡単に国が没収したり、出生証明が無い者を奴隷として扱い、そのくせ国民には、チャルドム共和国が一番だという教育をしている。


仁皇国にやってくるチャルドム人は、礼儀も知らずマナーも知らない傲慢な者ばかりで周囲の国で一番嫌われてる国なんだそうな。

地球にも似た国があるなぁ。


更にチャルドム共和国は、貧富の差が激しく、底辺の者が自国を捨てて周辺国へ逃げるという。


「そのせいで周辺国は、チャルドム人難民のせいで地域によっては治安がかなり悪くなってる」

「移民か……国はどんな対策を取ってる?」

「何も、積極的に移民を受け入れてる始末だ」

「この国の政府は馬鹿なのか?」

「はっきり言って馬鹿だ。国民の事を何も考えてない」

「仁皇は、何がしたいんだ?」

「いや、仁皇様は皇族だが政には関わってない。国を動かしてるのは選挙で決めた大統領だ」


民主制か。

って事は、日本と同じだな。


「うむ、大統領は何か対策をすると言ってるのか?」

「まったく何も……一部じゃ国を他国に売ってるんじゃないかって言ってる奴も居るな。実際売ってるようなもんだが」

「なるほど……その大統領、外人ではないのか?」

「外人? 他国の人間って事か? いや、出身もちゃんと仁皇国って言ってたはずだが……それが本当かどうかは分からん」

「チャルドム人が仁皇国出身と偽って当選し、中から仁皇国を潰すつもりかもな」

「あぁ……それはあり得るかも? 税金を移民のために使いまくってるらしいからな。たまに暴動が起きてる」

「ほう、それでも税金を払ってるんだな国民は」

「ん? そりゃ払うだろ?」


俺は首を横に振って答える。


「政府が国民のために動かないなら政府は、外人の集まりって事だ。みんな勘違いしてないか? 『政府が国ではなく、国民が国』だという事を」

「国民が国?」

「とにかく、国民の血税を外人に使うなら税金を払う必要は無いって事だ」

「いやいや、それだと国……政府と争う事になるだろ? 最悪反逆罪になりかねない」

「国民全員が税金を払わないとなれば、国民全員を捕まえる事も処刑する事も出来ない。国民が居なければ国ではなくなるからな」

「軍に制圧されて終わりだろ」

「そもそも政府が反逆罪を犯してるんだぞ? 国民を舐めすぎだ。拙者なら全員斬り捨てる」


まあ、そうして内戦が起こるんだろうけど。


「一般人じゃ軍と警察の相手にならないだろうな」

「それは分からんぞ?」

「おいおい、俺も一応警察なんだぞ? 一般人と争うなんて勘弁してくれ」

「とまあ、国民の誰かが言い出せば、実際そうなるって事だ。拙者は国民ではないから好きに言えるだけでそうなるとは決まってない」

「はぁ~……もしそうなったらシズキさんはどっちに付く?」

「当然、国民だな。仁皇国はそこに住む国民の人達だ。外人の政府に付くのは、同じ外人だけだろ」


俺も外人だが仁皇国は好きな国だからな。

暗殺依頼なら受けてやるぞ?


「シズキさんと戦う事になるのか……俺も国民に付こう」

「仁皇は、何も言わないのか?」

「さあ? 下々の俺達に分かる訳ないだろ?」

「そうか……」


なんて話をしてるとギルドに到着。

冒険者ギルドは、4階建てのビルでかなり大きい。

となりの屋外駐車場に車を停め、レバックと一緒に表へ回って正面から入る。


ガラスの自動ドアを潜り、中に入るとそこは、ゲームの時とは違い役所のような雰囲気で、柱がいくつかあってその周囲にソファが置かれ、正面奥に右から左へ全面受付でその奥には、事務作業をするオフィスが広がっていた。


「酒場は無いのか」


中を見回しても、ギルド定番の酒場らしきものが見当たらない。


「あぁ、昔はあったらしいが治安の問題でギルドとは別にしたらしい。左隣りの建物に居酒屋とかバーがあるから冒険者は、そっちで飲んでるな」


これも時代なのか。

ギルドと言えば併設された酒場なんだけどなぁ。

と思いながら受付へ向かい、受付嬢に魔物素材の買い取りをお願いする。


「買い取りならあちらのカウンターへお願いします」


そう言って右奥を指すので目を向けると、天井から買い取り受付と書かれた看板が垂れていた。

受付嬢に礼を言ってカウンターへ行くとスチュワーデスのような制服を着た女性が手ッており、笑顔で出迎えてくれる。


「いらっしゃいませ、どのような物の買い取りを希望ですか?」

「これなんだが」


俺はインベントリから赤竜の鱗を1枚取り出し、カウンターに置く。


「……すみません。これはいったい?」

「赤竜の鱗だが?」


ゲームの時に狩って大量に余ってるドラゴン素材だ。


「赤竜……えーっと、赤竜とは?」

「俗にいうレッドドラゴンだな」

「……あの、これをどこで?」

「以前、ダンジョンで倒したレッドドラゴンの素材だが、買い取りが無理なら他の物を出すぞ?」

「いえいえ、少々裏で調べさせて頂いてもよろしいですか?」

「ああ、問題無い」


受付嬢は「では」と言って1メートル程ある鱗を抱えてカウンター奥へ消えていく。


「シズキさん、あれは本物か?」

「当然本物だが?」

「南方にはレッドドラゴンが居るのか……よく人が生きてるな」


あっ、こっちには居ないのか。

そりゃ悪い事をした。

南方に居るのかな?



少しして受付嬢が何も持たず戻って来て言う。


「すみせん、奥へ一緒に来て頂いてよろしいですか?」

「何か問題があったか? 無理なら別の物にするが?」

「いえ、解体師の方がお話を聞きたいと」

「分かった。行こう」

「すみません」


受付嬢の後に付いてレバックと俺は、カウンター奥へ行き、廊下を煤で左へ曲がると両開きの鉄扉が開いており潜るとそこは、体育館程ある広い倉庫のような空間になっていた。

ビルの裏にこんな広い場所があるとはね。


入ってすぐ右手に工場内の事務所っぽい箱があり、そこへ向かうと中からスキンヘッドで白いタンクトップを着たおっさんが出て来る。


「アキちゃん、その嬢ちゃんか?」

「はい、こちらが……すみません、お名前を伺ってませんでしたね。私は買い取り受付担当の『アキ・タクセイル』と申します」

「拙者は侍のシズキだ。で? 話とは?」

「悪いな。俺はここを任されてる『ゴットン』だ。で嬢ちゃん、このレッドドラゴンの鱗だが、どうやって手に入れた?」

「ダンジョンで狩ったと伝えたはずだが?」

「そのダンジョンはどこにある?」

「南方だ。魔境よりも南」

「っ!? あんた、魔境を超えて来たのか!?」

「ああ、それで、その鱗はどうだ? 買い取り出来るか?」

「本当にダンジョンで狩ったのか?」

「だからそう言ってるだろう? さっきから何が言いたい? 無理ならさっさと言えばいい、時間が勿体ない」


すると受付嬢のアキとゴットンは、難しい顔をして先にゴットンが口を開く。


「盗まれた鱗じゃねぇかって思ってな」

「盗まれた?」


こいつ俺が、いや、シズキが盗んだと思ってる?

……殺してやろうか。

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