第115話 南方から。
暫く高速道路を走って下道に降りると、3分程で10階建てのビルに到着。
横にある立体駐車場に入ると2階へ上がり、建物へ入る扉のすぐ近くに停めて降りる。
駐車場の中にはそれなりに車が停まっており、車の見た目も現代と殆ど変わらない。
周囲にも似たような高層ビルが建ち並び、ビルの前には三車線道路が通っている。
人も多く車も多いこの雰囲気、日本の都会と似てるな。
「シズキさん、刀は?」
「収納した」
「収納空間が使えるのか、流石覚醒者……こっちだ」
レバックが先導し、俺の後ろにトズが付く。
鉄扉の横にある機械に手を当てるとガチャッと音がし、レバックが重々しく扉を開ける。
扉を潜る時、機械を見たら指紋認証ではないようだ。
たぶん魔力で開けてるっぽい。
中に入ると廊下が続いており、10メートル程行くとソファとテーブルが幾つか設置されたロビーのように広い場所に出た。
そのまま真っ直ぐ進みまた廊下に入るとエレベータ乗り場に到着。
ボタンを押して数秒後、1台のエレベーターが止まって扉が開くと中から紺色のスーツを着たおっさんが出て来る。
「課長、お疲れ様です」
レバックがそう言って軽く頭を下げるとトズも後ろで頭を下げ、ちょっと移動して俺の背後に隠れた。
「お前らか、塔は無事だったか?」
「はい、調べましたが入った形跡はありませんでした」
「そうか、ん? その
「外で迷子になっていたので連れて来ました。今から部長に報告です」
ジッと足先から頭の先まで全身を見てくるおっさん。
ただ、いやらしい感じは無く、単純に確認してるだけのようだ。
「……分かった。私は今からちょっと出てくる」
「了解です」
課長が駐車場の方へ歩いて行くのを見送るとエレベーターに乗り込み、レバックが6階のボタンを押す。
「ここはどういう会社なんだ?」
するとレバックが答える。
「会社というか政府機関なんだが特殊警備部は、重要文化財や要人、政府施設の警備等を受け持つ部署だ」
「つまりあの塔は、文化財?」
「ああ、あの塔は遥か昔、この国を救ってくれた恩人、英雄とも謂われてる人が住んでいた場所で通称『月の塔』と呼ばれてる」
月の塔。
元プレイヤーが住んでいた塔だろうけど、こっちでも英雄が居るのか。
まあ、プレイヤーの力ならそう思われても仕方ないかな?
なんて考えてるとエレベーターが止まり、扉が開くと皆で降りる。
「その人は既に死んだのか?」
「死んでるだろうな。なんせ500年以上前の話しだ」
「まだ生きてるって言う人も居るっすよ?」
「確かに、覚醒者の中には歳を取らない人も居るからな。寿命で死ななくても、魔物や誰かに殺される可能性もあるだろ?」
「英雄が殺されるっすかぁ?」
「さあな。ここだ」
丁度扉の前に到着し、レバックがノックする。
「レバックです」
『入れ』
扉を開けると中は、床が一面絨毯になっており、壁は白く左右の壁沿いに棚が並び、手前の右手には革のソファとガラステーブルが置かれ、奥には大きな執務机があり、そこに白髪の男が座っていた。
その背後の壁には、何かロゴが入った大きな布が天井から吊るされ、左右に小さな窓。
棚の中には、賞状やトロフィーが並び、その他は本やファイルのような物がびっしり詰まってる。
机の前へ歩いて行くとビシッと真っ直ぐ立って口を開くレバック。
「報告です。月の塔に何者かが侵入した形跡は一切ありませんでした。その代わり、迷子になっていた人を保護し、お連れしました」
「そうか、まあいつもどおり、魔物が結界に触れたんだろう。で? 態々迷子を連れて来たのか?」
そこでレバックが振り向き、俺を見るのでレバックの横へ行く。
「この人は侍のシズキさんで出身国は……カリムス王国だそうです」
「カリムス王国? そんな国あったか?」
レバックは笑みを浮かべ答える。
「部長、彼女は南方から来たんです『魔境を超えて』」
すると部長は目を見開き、一瞬驚くがすぐ元の表情に戻す。
「それが本当なら貴重な情報原だが……証明出来る物はあるか?」
レバックと部長が俺を見るので考える。
証明ね。
勿論そう言われると思って移動中、いろいろ考えていたがリングのIDはキジ丸用で、それ以外となるとこれしか無かった。
俺は外套の下で手の中にインベントリから金を取り出し、机の上に置く。
それを見た部長が怪訝な表情をして覗き込み。
「これは……金か?」
「ああ、それはカリムス王国の1万E札。こっちが5000、これは1000だ。そしてこれがアバッテ王国の1万L札、証明になるか分からんが、これくらいしか持って無いな」
部長は領国の札を手に取り、じっくり見た後置いて少し考えると口を開いた。
「……そうだな。まだ弱いが南方の情報を聞いてから判断しても遅くは無いだろう」
「政府には?」
「いや、うちで情報を精査してからだな。それに……いや、それよりこの後上と話すが君も同席してくれるか? いろいろ話を聞かせてもらいたい」
「別に構わないが、拙者の友達の方が良く分かってると思う。そちらに聞いてもらった方が良い」
「友達? この国に居るのか? って、初めて来た国に友達は居ないか」
「ああ、友達も今魔境を北上して来てる。今晩辺りにでもこの街に辿り着くはずだ」
「もしや、その友達も覚醒者なのか?」
頷く俺。
「その者の名は?」
「キジ丸。拙者よりも強い侍だ」
「キジ丸……分かった。その者が現れたら連れてくるように言っておこう」
「そうだ。1つ忠告をしておく」
「何かな?」
「キジ丸殿に変な事はしない事だ」
「勿論しないとも」
「力で従わせようとすれば、全員殺されると思った方が良い」
「覚醒者相手にそんな馬鹿は居ないだろう。だがまあ、忠告感謝する。君の身分証は、そのキジ丸という者と一緒に渡すから今日は、こちらでホテルを取るからそこで休んでくれ、この後すぐ上の者を集めるので話を聞こう。レバック、8階の会議室に案内を」
そう言って机の上にある受話器のような物を手に取る。
「では、案内します。シズキさん、行きましょう」
「うむ、分かった」
レバックとトズと一緒に部屋を出るとエレベーターへ向かい、既に着いていたエレベーターが開くと乗り込み、8階のボタンを押す。
するとトズが。
「シズキさん、そのキジ丸って人は、シズキさんの?」
「ああ、大事な人だ」
そう言うとトズは、肩を落としてそれ以降、口を開く事は無かった。
どっちも俺だけどね!
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