5章 さらなる高みへ……
第110話 塔の中は。
魔の領域を超えて北側へ辿り着いた俺は、結界が張られたボロい中世風の塔を発見し、影渡りで中へ入った。
1階に入るとそこは、直径約12メートル程の円形の空間で天井までの高さは約10メートル程。
入り口から入って左手の壁沿いに、上へ続く階段がある。
ここには、木箱と樽が幾つかあるだけか。
他には、壁にロープや斧が掛けられているだけ。
階段を上がって2階へ行くと板張りの床で、縦長の窓の横にテーブルが1つ置かれており、木製の丸椅子が2つ。1つは足が折れて倒れている状態。
机の上には何も無く、埃が積もってる。
窓は板が嵌められており、隙間から外の光が差し込み、テーブルの上を照らす。
俺は暗視があるから普通に見えるが、無い人だとかなり暗いだろうな。
それにしもてこの塔、誰か住んでいた形跡がある。
部屋の隅に落ちてる木製の皿とスプーン。
まあ、かなり時間は経ってるけどね。
床の埃も俺の足跡だけで、他に誰かが入った形跡は無い。
どれくらい放置されてるんだろう?
とにかく上も見るか。
階段はまだ続いてるので上っていくと3階は、枠だけの簡素なベッドが1つと木製の机が1つあるだけで、他には何も無かった。
そして4階は、マットが残っているベッドと、窓の前に少し大きな机が1つと木製の丸椅子が1つ。
その右側には天井まである本棚が2つ。
数冊の本が残っているだけで殆ど空いた本棚。
机の上には、数冊積まれた本と数枚の紙。
近付いて本の表紙を見るとそこには『魔物の生態』と書かれていたが俺は、首を傾げる。
「なぜ読める?」
表紙に掛かれた文字は今まで、見た事も聞いた事も無い文字で書かれているのに、なぜか読めてしまった。
ふとキジ丸の記憶で思い出す。
「そうか」
この文字はゲーム内で使われていた文字だ。
プレイヤーが見る時は、日本語に翻訳されてたがキジ丸の記憶でこの文字を読めるらしい。
つまりこの塔には、GFWに居た誰かが住んでいたって事か。
プレイヤーか住人かは分からないが。
紙には……。
「なんだこれ?」
一番上の紙には、よく分からない計算式と図形が書かれており、最後に大きなゲーム文字で。
『現状元の世界へ戻る事は、不可能!!』
と、書かれてた。
誰かが元に戻るための方法を探していたのかな?
頭の良い人っぽい。
下の紙を見るとそこには。
『我々がこの世界へ来た原因は、未知のエネルギーの影響による可能性が高い。あの方もそう言っていた。元の世界へ帰りたいと願う人々のため、方法を探しているが未だ見つける事は出来ていない。あの方はこの世界に残る事を決めたので当然、俺も残る事にした。だが、プレイヤーの中には、帰りたいと思う者も居るだろう。何とかして帰る方法を探さなければ……』
「プレイヤー……」
他のプレイヤーのために、帰る方法を探してるとはね。
あの方ってのは、高貴な人?
貴族もこの世界に来たのか?
いや、それだとプレイヤーじゃなく俺達の事は、異界人と書くはず。
って事は、やはりプレイヤーが書いたっぽい。
主従関係のロープレかな?
一番可能性が高いのは、クランメンバーとマスターの関係。
騎士のクランとか多かったし。
ここは元プレイヤーが住んでいた塔か。
ん? じゃあこの結界は……!?
そこでこの塔に近付いてくる魔力を感知。
3つの魔力が結構な速さで近づいてくる。
俺は階段を上り壁の一部が崩壊して外が見える5階へ行くと、崩れた壁の陰に隠れて近づく者を観察。
そう、これは人の魔力だ。
塔と小屋から手入れはされていない道、草が生え捲っている土の道が北へ続いてるが、その先から1台の車が近づいて来るのが見えた。
形は現代の地球にもあるような、セダンっぽい形をした黒い車。
ガタガタの道を走って塔の前に到着すると停めてエンジンを切り、運転席と助手席から男が2人降りる。
ちなみにエンジンは、魔導エンジンっぽい。
1つの魔力は車から感じる。
警備員のような服装をした2人の男。
1人は金髪で40代程の男でもう1人は、黒髪で20代の若い男に見える。
2人は腰にぶら下げた拳銃を抜き、塔に近付くと金髪が木製の扉に手を伸ばす。
しかし、見えない壁によって扉に触れる事は出来ない。
『結界はちゃんと動いてるな』
『動物か魔物の仕業じゃないっすか?』
『一応調べないといけないだろ。お前は裏を見ろ。俺は小屋の方を見る』
『了解~』
『何かあればすぐ知らせろ』
そう言って金髪が小屋の方へ警戒しながら歩いて行くと茶髪は、拳銃を両手で持ち銃口を下に向けたまま少し屈んで塔の裏へ回った。
こいつら、見たまんま警備員か?
それとも警察?
もう少し様子を見るか。
小屋の方に行った金髪は、扉に触れようとして結界が張られている事を確認し、グルっと小屋を回って窓から中を確認し終わると、塔の前に戻る。
茶髪も塔の裏を回って調べた後、塔の前で金髪と合流。
『何か変わった所はあったか?』
『何も無いっす。小屋の方は?』
首を横に振る金髪。
そこで2人は、拳銃をホルスターに戻すと警戒を解き、周囲を見回して車へ向かう。
『やっぱり魔物が近づいたんじゃないっすかね?』
『まあ、そうだろうな。こんな辺鄙な所に来る奴なんて居ないだろうが、一応調べるのが俺達の仕事だ』
『事務所からここまで来るの、結構面倒なんすけど。もっと近くに置けないんすか?』
『事務所を近くに移しても、家に帰るのが面倒だろ? それなりの金は貰ってるんだから文句を言うな』
『そうっすけど。警備の仕事も楽じゃないっすねぇ』
やっぱり警備か。
2人は、車に到着しても乗り込まず、運転席と助手席側に立って話を続ける。
『楽な仕事なんて無い……ちょっと様子を見るため、ここで待機するぞ』
『真面目っすねぇ。先輩』
『普通の事だろうが。飯は持って来てるか?』
『あっ……頂きます!』
『誰がやるか! その辺で魔物でも狩れ!』
そう言って運転席に乗る金髪。
『マジっすか? イジメっすよ? ……仕事辞めようかな』
そう言いながら助手席に乗り込む茶髪。
しかし車は動かない。
どれくらい待機するんだ?
ってかもしかして、俺が塔に入ったからこいつらが来た?
あの結界って警報装置的な役割があったのか?
それよりこいつらについて行けば、街に辿り着けるな。
俺は自分の影に潜ると影渡りで車の影に移動。
街に到着するまで、暫く影の中でのんびりさせてもらおう。
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