第109話 抜けた先。

迫る魔物の猛攻を感覚共有した分身で避けながら、本体で魔物を倒した同じ方法でやろうと思い、チャンスを伺う。

分身だと範囲が狭くなるからな。


しかし、魔物の動きは速く、タイミングを合わせないと外してしまう可能性がある。

なので俺は……。


奴の拳を空蝉術で避け背後に瞬間移動すると、全身に魔力を纏って奴の背中に張り付く。

ついでに不動金剛術を発動させると集中し、5秒程で技を発動。


影明流奥義・滅殺


すると次の瞬間、半径5メートル範囲にキラキラと光が現れると真っ白になり、徐々に色が戻ると森の中に、直径10メートルの地面が平らで草木が無くなった空間が出来上がる。


ついでに分身も四散した。

分身が保有する魔力とマナを全て消費しての奥義だ。


「はぁ~」


あんな強いというか、チートな魔物が居るとはな。

魔の領域から出て来たら人はすぐ滅ぶぞ。

攻撃すれば段々強くなり、攻撃が効かなくなる。


まだ攻撃が単調だったから良いが、あれでフェイントや術理を身に付けたら手が付けられないね。

さて、俺も北に……っ!?


倒して北へ向かおうと思った瞬間、俺の周囲を囲むように強い殺気と魔力を感知。


「マジか」


空間感知で周囲を調べると100メートル程離れて先程と同じ魔物が20体以上、俺を囲んでいた。

2秒後には、周囲に姿を現し、ビシビシ殺気を飛ばしてくる。


どんだけいるんだよ末裔。

これはマズい。

今の俺じゃ、この数を相手に出来ない。

始末するのに奥義を使わないといけないのに、後3回程しか使えないからな。

上手く範囲に入れて一気に消滅させれば倒せるかもしれないが、もし外せば動けなくなった俺は、殺されるだろう。


「……ククク…アハハハハハハハハ!!!」


良いねぇ。

良いよお前ら。

まだまだ居るって知れて良かった。


「どうした? 来いよ。全部殺してやる」


そう言って腰を落とし、居合切りの構えを取ると囲っていた末裔達が動き出す。



な~んてな。

あんな数の相手をしてたら命がいくつあっても足らねぇよ。


俺は奴らから1キロ以上離れた影の中を移動していた。

はい、分身を残して影渡りで退散しました。

あのままやればギリギリ勝てたかもしれないが、今は北へ行くのが先決だ。


同族を殺されてかなり怒ってたみたいだし、キジ丸の分身で気を引いてる間に北へ向かう。

いつか必ず、余裕で倒せるようになってやる。

それまで待ってろよ。


ギンジと合流しようと影の中を移動しながらギンジに、リングで念話を送ろうとしたが繋がらない。

まさか死んだなんて事は無いよな?


あっ、次元エネルギーの影響で繋がらないのか。

スキルの念話……も繋がらないとは。

使い魔を付けとけば良かったな。


まあ、北へ抜けてるだろうし、あっちで合流すれば良い。

子供じゃないんだし、その内会えるだろう。

それに、北に抜ければ繋がるかもしれないしね。


ちなみにキジ丸の分身は、10分程戦って最後に奥義を使い、数体の末裔と共に消滅。

あって良かった奥義。

あれがなければ、倒せなかったよ。


森の中をひたすら影渡りで進み、1時間程して森を抜けると広大な草原が広がっており、近くには高い山々が聳え立っていた。

森の終わりの影から出て周囲を眺める。


……ギンジは居ないか。

魔物の姿は……遠くの空を飛んでる大きな鳥と、獣型の魔物が数体ちらほら見えるな。


俺は北側へ来れたのか?

周囲に人の痕跡は無さそうだ。

ゲームのマップだとこの辺りは……死の国カラトナの近く?

でも街らしきものは無いしなぁ。

カラトナは、この世界に来てない?

来てる国と来てない国の違いが分からん。


とりあえず北を目指すか。

リングのマップは……使えない。

やはり南側でしか使えないようだ。

IDは表示出来るけど。


リングでギンジに連絡してみるが、やはり繋がらない。

スキルの念話を送ると。


『師匠! 無事でしたか!?』

『おう、今どこに居る?』

『森を抜けて北へ移動を続けてます』

『街や人が居る痕跡はあったか?』

『いえ、何もありません。とりあえず北を目指してますが、どうします?』

『そのまま北上しろ。俺も向かう』

『了解です。何か見つけたら知らせます』

『ああ、何が居るか分からんから気を付けろよ?』

『はい!』


そうして念話を終了。

やっぱり北を目指してたか。

ここからは人が居る可能性があるし、忍者姿で移動しよう。


忍換装して近未来忍者になると自分の影に潜り、影渡りで移動を開始。

草原の中にある影の中を転々と移動しながら北を目指し数分後、高い山の頂上に到着すると山の反対側を見下ろす。


「あれは……」


点々と森が広がる草原と丘が続く中、北西のかなり離れた場所に、塔のような建物を発見。

この距離であの高さだと……全長50メートル程かな?

もしかしたらもうちょいあるかも?


しかし、塔の周囲に他の建物は見えない。

他に人が居るような場所は見当たらないし、あそこに向かうか。


『ギンジ、塔のような物を発見したのでそっちへ向かう』

『了解です。僕はこのまま北上します』

『ああ、また連絡する』

『はい』


念話を終了し、周囲を確認してから影に潜り塔を目指す。



そして約20分後。

塔が見える小さな森の影に到着し、木のてっぺんに立って塔を確認すると塔のてっぺんが破壊され、かなりボロボロな事に気付く。

先程は気付かなかったが、塔の横には小屋があり、それも天井に穴が空いている。


「人は居ないか」


建物は、中世風で石ブロックで造られた塔と小屋だ。

かなり古そう。

ここから魔力感知と空間感知で確かめても、周囲に人は居ない事が確認出来る。


放置された場所?

一応中を調べてみるか。

何か手がかりがあるかもしれない。


そう思い木から飛び下り、影渡りで塔の傍へ移動すると、何か違和感を感じた。

影から出る前に塔の周辺を確認するが特に何も無い。

何だ今の感覚は?


…………ん?

何か結界を張ってる?


俺は影から出て歩いて塔に近付き、数段ある階段を上って木製の扉にふれようとした瞬間、見えない壁によって止まった。

保存してるのか?

まあ、影渡りで入れるんだけど。


と、影に潜って中へ移動した。

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