第111話 女侍。

車の影に潜った俺は、車内へ移動して2人の会話を盗み聞きする。

金髪が煙草に火を点け、窓を少し開けると煙を吐き出す。


「先輩、どれくらい待機するんすか?」

「ここで昼飯を食ってから帰る」

「昼までまだ2時間程ありますよ?」

「帰ってもやる事ねぇんだし、煩い上司が居ないここの方が落ち着く」

「まあ、そうっすね。で、俺の昼飯は?」

「だから狩りでもしろって言っただろ? 自分の昼飯しか持って来てねぇんだから、やらねぇぞ」

「うわぁ、マジだよこの人」


そこで茶髪も煙草を取り出し火を点ける。


「あっ、先輩知ってます?」

「何にが?」

「北区で奴らが大量に逮捕されたって」

「あぁ、あいつらか……死ねば良いのにな」

「そうっすね。自分の国が嫌だからってこっちに来ないで、国を変えろって思います」

「こっちに来て犯罪を犯す馬鹿を入国させる政府も馬鹿なんだよ」

「ですねぇ~」


どうやら他国の移民とトラブルがあるようだな。

日本も2020年代にそんな問題があったような気がする。

それにしてもこいつら、マジで昼まで動かないつもりか。

うむ……ここは姿を出して街に連れて行ってもらった方が良いかも?

よし、今回はシズキで行こう。

可愛いシズキならこいつらも街まで送ってくれるはず。


シズキはGFWの中で俺が変装していた女侍のキャラだ。

好きなアニメキャラをAIで実写画像にしてそれを基に作ったので、かなり可愛い。

お気に入りである。


という訳で、影渡りで森の中へ移動するとシズキに変装。

変装術を発動させると全身が変わるのを感じ、一瞬でシズキになった。


服装もちゃんと袖なしの赤い着物っぽくなり、チャイナ服のように後ろと前に布が垂れている。

上半身の中は白いタンクトップで、下は白いブカっとしたズボンに膝下まで紐で縛った革靴。

そして灰色の外套だ。

腰には白い鞘の刀。

この刀は、神業の一本『咲時雨』である。


この世界に来て変装するのは初めてだがゲームの時と同じように、身体が女になってるな。

キジ丸の記憶では、変装術で身体を弄ってるらしいが凄い術だね。



森の中から出て小高い丘の上に立つ塔を目指して歩いて行き、丘を登り切ると車から2人の男が降りて来る。


「止まれ、ここで何をしてる?」

「こんな所に人が居るんすね」


銃口をこちらに向ける2人。

既に設定を考えていたのでそれを話す。


「拙者はシズキと申す。侍だ。武者修行のため南の森に入っていたのだが、一旦街へ戻ろうと思ってな。この塔が目に入ったので目印にここまで来たんだ。すまないがここがどこか教えてくれないか?」


そう言うと茶髪は困惑したように金髪を見るが金髪は、表情を変えず口を開く。


「腰の物を見れば侍だってのは分かるが、南の森で武者修行ってのはおかしいだろ。あそこに魔物やスキラスは居ない」

「そうっすね。そんなバレバレの嘘は通用しないっすよ?」


俺は首を傾げる。

こいつらは魔の領域を知らないのか?


「魔物は沢山居たが?」

「怪しいな。一旦一緒に来てもらおう。大人しく……」

「シズキさん? もしかして魔境の事を言ってるんですかね?」

「魔境? 拙者は魔の領域と聞いた事はあるが、この辺りでは魔境と言うのか?」

「っ!?」

「はは……マジっすか」


驚いた表情をする金髪と、苦笑いを浮かべる茶髪。

すると2人は、見合って少しすると頷き、銃を下ろしホルスターに戻す。


「あっ、南の森ってそこの森ではないぞ。草原を超えた先にある、広大な森の事だ」

「ああ、魔境の事だな」

「生身で魔境に入る人が居るんすね」

「で? ここへは今着いたところか?」

「うむ、そうだが何か?」

「いや……ここに来るまでに怪しい奴は見てないか?」

「見てないな。魔物しか居なかったよ」

「そうか……私は『仁皇国(じんのうこく)・特殊警備部』所属の『レバック』だ」

「同じく『トパルズ』っす。『トズ』と呼んで下さいっす」


レバックにトパルズね。

ってか仁皇国ってGFWにあった『仁の国』じゃね?

この世界に仁の国があるのかそれとも、プレイヤーが作ったのか、いろいろ聞いてみよう。


「ここは仁皇国という国なのか」

「魔境の前はどこに居た?」

「魔境の南にあるアバッテ王国という国から来た」

「「っ!?」」


2人は驚いた表情をし、レバックが慌てて口を開く。


「ちょ、ちょっと待て、魔境を超えて来たのか?」

「ああ、武者修行のためひたすら魔物を狩りながら北を目指していたらこの塔が目に入ってな。丁度街に行きたいと思っていたんだ。だが近くへ来たら他に建物は無く、おぬし達が居たってところだ」

「あの~、アバッテ王国ってどんな……」

「待て、シズキさん、俺達と一緒に来てくれないか? 街まで案内する」

「それは助かる。是非」


レバックは、トズを引き寄せ小声で話すが強化されている俺の耳には、全部丸聞こえだった。


『魔境の向こう側の情報だ。俺達だけで処理出来る事じゃない。本部に行って上に直接話してもらった方が良い』

『どんな所か気にならないんすか?』

『移動中に話は聞く』

『あっ、録音するんすね』

『そうだ。本当にあっち側の情報なら、これほど貴重なものは無い』

『了解っす』


車内に録音する機材があるのか。

別に録音されても問題は無い。


「では、後部に乗ってくれ」

「どうぞっす」


トズがドアを開けてくれたので感謝し乗り込むとドアを閉め、2人も車に乗り込んだ。

すると後部座席の下からウィーンと微かに音が鳴り、車が動き出す。

Uターンして来た道を走り出し、少しするとレバックが口を開く。


「女性に聞くのは失礼だと思うが、今何歳かな?」

「今は20歳だ」

「ほう……さっき言ってたアバッテ王国? が出身?」

「いや、出身はアバッテ王国の西にある、カリムス王国だ」

「南方にも侍は居るんすね」

「ん? こちらにも侍が?」

「はい、居るっすよ。仁皇様を代々護ってる方が侍っす。一般人にも侍は多いっすね。道場が幾つかあるんすよ」

「ほう、それは是非見てみたいな」


そこでレバックが咳をして話しを変える。


「ところでシズキさん、こちらに来たのは1人で?」


仲間が居るかの確認は、当然するだろうな。


「ああ、途中で魔物の襲撃があってその際、仲間とはぐれてしまってな。あいつもこちらに向かったはずなんだが、どこに居るのか分かない」

「なるほど……ちなみにその仲間も侍ですか?」

「いや、武闘家だな。ついでに言えば男だ。あっ、別に恋仲ではないからいらぬ気を使わないでくれ」

「はは、分かりました」

「シズキさん可愛いっすもんねぇ。モテるでしょ?」

「言い寄る男は、みな斬ったからな」

「「えっ」」

「あぁ、別に斬り殺してないから安心しろ。少し痛い思いをしてもらっただけだ。おぬし達も、拙者に触れる時は、気を付けた方が良いと忠告しておく」

「「ハハハハ……」」


シズキの身体に触れて良いのは、俺だけだ!

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