第100話 魔力の精錬。

環境創造を発動させ魔獄を展開すると教授は、興味深そうに周囲を見回していた。


「魔法薬と魔法陣はだいたい分かってるから最後に、原初魔法の魔力制御について教えてくれ」


そう言って環境創造を解除して元の特殊空間の景色に戻す。


「原初魔法の魔力制御は……精錬だよ。魔力の精錬」

「魔力の精錬? つまり不純物を取り除くって事か?」


初めて聞いたな。


「実は原初魔法というのは、普通の【魔法】スキルよりも手間が掛かってコストも悪いんだ」

「なら普通の魔法を使った方が良いんじゃ?」

「ああ、私も普段は普通の魔法を使う」

「じゃあ……」

「ただし原初魔法は、その分威力が桁違いなのだよ」

「どれくらい?」

「火球を例にすれば、威力はざっと約『100倍』だ」

「100倍!?」


岩を破壊する火球が、山を破壊する程の威力になると?

スゲーな。


「だからいざという時に使うのが、原初魔法となる」

「なるほどね。それで、精錬とは? そっちが気になる」

「くく、キジ丸氏も研究者肌かな? ……魔力制御で魔力を精錬するというのは、そのまま不純物を取り除いた魔力を練るという事だ」


詳しく聞くと精錬は、ゲームの時で言えば『100MP』を消費して精錬すると『50MP』分の精錬された魔力が出来上がる。

その魔力を魔法に使う事で、原初魔法になるとの事。


で、実際に魔力の精錬を見せてもらうと不思議な事に、魔力感知では反応が弱くなったのだ。


「キジ丸氏が他人の魔力を感知出来る事の方が驚きなんだがね?」

「それは後で教えるよ。それよりなぜ薄くなるんだ? 精錬したなら逆に濃くなると思ったんだが?」

「それは単純な理由さ。魔力を精錬すれば、空気中にある魔素に近付くからだよ」


あっ、なるほど。

魔素を感じる事は、僅かに出来るがそれは本当に僅かだ。

確かに言われて集中すると、教授から魔素に近いものを感知出来た。


「私のゲーム時代の師匠の精錬は、未だに真似出来ない程凄かったよ」

「住人の師匠?」


頷く教授。

やっぱり住人には、まだまだ強い奴が居たんだな。

いや、強いかは別か。

たが俺の知らない技術を持ってる人は、まだまだ居そう。


「精錬する方法は?」

「師匠に教わった方法は、魔力を重ねて増やしてそこから『感じられる』魔力を排除していくという方法だ」


自分の魔力を感じられるなら、その方法が一番分かりやすいよね。

感じられる魔力を削って残った『感じられない』魔力が、魔素に近い魔力って事だな。

しかし俺は、魔素も僅かに感じられる。

それと自分の魔力を分離すれば、精錬が出来るのでは?

いや、先ずは教授のやり方でやってみよう。


という訳で、さっそく右手に魔力を集め、徐々に感じられる魔力を四散させていく。

徐々に徐々に、そして何度目かに魔力を四散させると右手に集めた魔力が感知出来なくなる代わりに、僅かな魔素を感じた。


「……なるほど、確かにこれはコストが掛かるな」

「もう出来るとは、最強ってのは器用なんだね。私なんて1月掛かったのに」

「魔力制御の訓練は続けてるからね」


右手に残る精錬魔力を、壁に向かって放った瞬間、空間に溶けるように四散する。


「飛ばないのか」

「魔素に近いからね。何もイメージを持たせないまま放てば、すぐ空間の魔素に戻る」


あぁ、言われてみれば納得出来る現象だ。

精製した水を水道水が入った桶に戻して混ざり、水道水に戻るのと同じだな。


しかしこれは、他にも使えるかもしれない。

例えば遁術の威力を上げたり、強化……待てよ? これってマナでも出来んじゃね?

そしてエーテルにも、更には……次元エネルギーと別次元のエネルギーの分離さえも……これは訓練に取り入れよう。


「教授、良い事を教えてくれて助かる」

「はは、魔女の職業に就いてる人は、全員教わる事だ」

「精錬魔力を他に応用した事は?」

「基本魔法に使って原初魔法を放つだけだが実は、魔法薬にも使える」


教授の話だと魔法薬に使うと、効果がかなり上がるそうだ。


「マナは?」

「それは試した事が無い。僅かに感知する事は出来るが、マナをちゃんと感知するのは難しいからね」


まあそうか。

俺は訓練して感知出来るようになったけど。

とにかく良い事を聞いた。

いろいろ試そう。



魔女スキルは教わったので教授の部屋に戻り、ソファに座ると俺は、すぐ海を見に行く事を告げ、ディーラインは伸びてるのか聞くと。


「海まで行くならディーラインでも行ける。この街から東に行けば、壁に囲まれた街が2つあって最後の街が海に面してる」

「列車でどれくらい掛かる?」

「最後の街までだと6時間程だな」


……カゲで行こう。

のんびり観光したいが今は、海を確認するのが先だ。

1週間後には、ギンジの試練もあるし、それまでに海は調べておきたい。


「助かる。北へ行く時には、連絡する」

「ああ、のんびり待ってるさ」

「おう」


そう言って部屋を後にし、さっそく影に潜って街の外へ向かった。

なんだかんだとやる事が増えてきたな。

まあ、好きでやってる事だから良いけど。


エーテルを魔力とマナに戻す訓練、術理の訓練、魔力、マナ、エーテルの精錬。

魔導書を読み進める事、そしてギンジの試練。


試練はどうするか、ある程度は決まってる。

後は、教授を護りながら北側へ行く方法だ。

影渡りで行くのが一番安全だがゲームの時は、影の中に居ても気付く魔物も居た。

ならこの世界にも居る可能性は高い。


……危なくなったら一旦街に避難するための印も付けておかないとな。



そんな事を考えてる間に街の外に出たのでカゲを口寄せし、東にある海を目指して進む事に。


カゲに乗って空を駆けているとリングに連絡が入ったので確かめると、教授からだった。

さっき別れたばかりなのに、何の用だろうと思いながら出る。


『どうした?』

『すまない、海に行く理由を聞いてないと思ってな』

『あぁ、ディーラインを通せるか、または他の方法で渡れるかを調べに行くんだ』

『あぁ~なるほど、キジ丸氏、海にディーラインを通すのは無理だよ』

『そうなのか?』

『大量の魔物に大型魔物、空にも魔物が居るからね。もし海を渡るなら空を飛んでかなり大きく迂回しないと無理だ。だが海の上を飛んでると海中から大型魔物が飛び出して一口で食われてしまう』


教授が既に調べたのか……それでも俺なら何か方法が思い浮かぶかもしれない。


『ありがとう、とりあえず自分の目で海を見たい気持ちもあるから行ってくる』

『そうかい? なら海の幸のお土産を期待してるよ』

『はは、了解』


そう言って念話を切る。

教授が調べて無理だと判断したなら俺が確かめる事は……俺だけでも海を渡れるのかだな。

魔の領域もカゲに乗って行けば、更に安全かも?


いろんな人が行き来出来るようになれば良いんだけど。

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