第101話 異世界の海。
カゲに乗ってアバッテ王国の東を目指し、どしゃ降りのなか空を駆ける事約3時間。
ようやく遠方に海が見えてきた。
教授が言ったとおり、途中壁に囲まれた街があり、王都よりは小さいが立派な街だったよ。
ちゃんと近未来的な街並みだ。
そして海に面した最後の街。
海に面して高い壁に囲まれた街で上空から見下ろすと、スカイツリーより高い建物が多く、港町という雰囲気は無い。
GFWの港町も高い建物が多かったが、おそらく津波に備えてだろう。
ここも津波が多いのかな?
まあ、デカい魔物が多い海ならそいつらが動くだけで津波になりそうだね。
今回は上空から街を眺めるだけで寄る事はしない。
海を調べる事が目的だからな。
街の西から南にかけて広い森が広がっており、北には岩と土の荒野で魔の領域の雪山と分断するように大きな岩山が連なっている。
南の海沿いは浜辺があるようだが、北は高さがあって断崖絶壁だが続いているようだ。
サスペンスに出て来そうな見事な崖だな。
『カゲ、街から陸沿いに北へ向かってくれ』
『はっ!』
『海の中に魔物は居るか?』
『はい、かなりの数が居ます。中にはクチナより大きな個体も居るようです』
クチナよりデカいってヤバくね?
流石広い海だ。
カゲと念話で話しながら海沿いを北へゆっくり進みながら、上空から広い海を眺めていると遥か遠くの海中から大きな水柱を上げて雲より高く飛び出す生物が見えた。
『何だあれ?』
『魔物のようですが、クチナより大きな個体ですね』
数十キロ離れたここから見てもその大きさが分かる程、かなりデカい魔物。
それが大きな水柱を上げて雲より高く海中から飛び上ったのだ。
形は爬虫類のような四足で長い尻尾があり、飛び上って雲の中に居たこれまた大きな魔物を咥えて海中へ戻っていく。
これは海も魔の領域だな。
いや、陸よりヤバいかも。
『主、この先、陸、海、空にかなりの数の魔物が居ます』
そう言って空中で止まるカゲ。
視力を強化して周囲を確認すると陸にある荒野には、四足歩行の魔物や人型の魔物がうろついており、ディルタナの小さい奴もウヨウヨ居るのが見える。
海には、蛇のようなウナギのようなクネクネした大きな魔物が、陸に近い海面で蠢いており、空には雲の中から大きな羽を持った鳥型の魔物が複数飛んでいるのが見えた。
『カゲ、この中を突っ切る事は出来そうか?』
『魔物の襲撃はあると思いますが、出来ると思います』
そりゃそうだよなぁ。
飛んでる魔物も居れば、蛇のような飛んで来る魔物も居るし、確実に襲撃はあるだろう。
カゲに乗り考えながらふと海の方を見ると、頭の中にゲーム時代の映像が浮かぶ。
あぁ、広い海を見ると精霊魔王が消した大陸の事を思い出す。
いや、消したというか別次元に転移……あっ。
「そうか!」
『どうしました?』
『あっ、いや、人を北と南を行き来させる方法を思いついたんだ』
『流石主です!』
精霊魔王が大陸を別次元に転移させたので俺は、次元門を作ってその次元に入ったんだ。
あの次元門を使えば、北と南を行き来させられるじゃん。
教授やシュート達を連れて危険な道を行かずとも、俺だけ行って次元門を繋げば、簡単に行き来が出来る。
今はまだ人だけだが、いずれ列車も次元門を通して北側へ行けるようになれば、ディーラインを通す必要は無い。
だが、次元門を常に開いたままだと、変な奴が通る危険もあるしなぁ。
ってか、次元門を維持する事が出来るのか?
あの時は、空間に穴を空けて通ったけど、人の行き来に使うなら固定型にしないとね。
次元門……作れるかな?
時空属性の印を刻んでそれを固定……いや、それだと通る時に魔力が必要になる。
魔力が使えない人や少ない人が通れないんじゃダメだ。
魔石を使うにしても、次元門を維持出来る魔石があるのか?
いろいろ実験してみるしかないか。
『主? このまま北へ向かいますか?』
『あっ、悪い、一旦帰る』
すると耳をペタンとさせ、尻尾を垂らすカゲ。
可愛い奴だな。
『了解です!』
『いや、少し狩りをしていこう』
そう言うとピンと耳を立てピコピコ動かし、尻尾を嬉しそうに振るカゲ。
分かりやすいねぇ。
『はっ!!』
『よし、地上に降りて暴れようか』
『了解です!!』
そう言って空中を駆けて急下降を始めるカゲと、自然と笑みが浮かぶ俺。
その後、どしゃ降りだった雨が止むまで約3時間程、地上で狩りをしてからアバッテ王国の王都へ戻った。
実験で魔石が結構必要になりそうだったし、丁度良い。
ついでに海で轟雷雨漁で魚もゲット。
狩りが終わる頃には、すっかり夜になってしまったが荒野でカゲと肉を焼いて食ってからカゲを帰し、俺は転移で王都へ戻る。
転移した先は、教授の部屋だ。
夜になって外は暗いのに部屋の中は明るく、俺に気付かず執務机の椅子に座って本を読み続けている教授に声を掛けると、身体をビクッとさせてゆっくりこちらを見た。
「……キジ丸氏」
「どうも」
目をパチパチさせる教授。
「あれ? 海に行ったはずでは? それに、いつ入って来た?」
「転移で」
「あぁ~、なるほど」
納得したように頷きながら本を閉じ、机に置くと席を立ってソファへ移る。
「驚かさないでくれ、さあ、お茶でも飲みながら話を聞かせてくれ」
教授はインベントリから自分の分と俺の分のお茶を出し、一口飲んで一息吐く。
それを見ながら俺もソファに座り、お茶を飲んでカップを持ちながら伝える。
「海は、魔の領域以上の魔の領域だな」
「だろ? だからディーラインは通せないって言っただろ?」
「だが海を見たお陰で1つ思いついたぞ」
「なんだい?」
「次元門を繋げば、人の行き来は出来る」
そう言ってニヤっと笑いながらもう一口お茶を飲み、カップをテーブルに置く。
すると教授は、腕を組んで考え込み始めた。
「次元門か……確かにそれなら人の行き来は可能かもしれないが、あっち側にも門が無ければってそうか、ハンゾウ氏とキジ丸氏が行けば良いのか」
「そういう事、だから教授を態々連れて危険な道を行く必要は無い。俺とハンゾウが行って設置してくれば、教授も北側へ行けるだろ?」
「ふむ……試す価値はあるな」
「ただ、次元門を固定出来るのかどうかなんだよなぁ。魔石だと維持出来るのか微妙だし」
「それなら次元コアを使えば良いんじゃないか?」
次元コア?
「魔力に変換出来るのか?」
「いや、魔力に変換は出来ないが、次元エネルギーは時空属性に近い。なら……」
「効率は良いと?」
頷く教授。
確かに次元エネルギーは、時空属性っぽいけど。
試す価値はあるか。
明日からさっそく実験開始だな。
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