第98話 赤の魔女。

どしゃ降りの中、アバッテ王国に到着するとカゲに干し肉をあげてから帰し、影渡りで教授の所へ向かった。

大学に居るのかとリングで連絡すると、殆ど大学にある自分の部屋で寝泊りをしてるそうだ。


という訳で数分後、教授の部屋にあるソファで、魔の領域について報告をすると。


「ディルタナはたまに出て来るからな。それよりその小さなディルタナが気になる」

「死体なら持ち帰ったけど見る?」

「おお、流石だ! 見せてくれ!」

「えっ、ここに出すの?」

「ああ、移動してる時間が勿体ない、さあ、テーブルの上に出してくれ」


教授がそう言うならと、小さいディルタナの死体を1体、テーブルの上に取り出す。


「おお……本当にディルタナそっくりだな……確かにこんな穴はディルタナには無い……爪の形も違う……ディルタナの子供だと言われても違和感は無い程似てる」

「だろ?」

「だがよく見ると違う魔物だと分かるな……雨が降るとこいつが出て来るのか。行かなくて正解だったようだ。こんな魔物が大量に出て来たら全滅してたかもしれん」


ざっくりだが俺が倒したのは、約5000体。

それでもまだまだ居たからな。

それにカゲが言うには、まだまだ地中に居たらしい。

こいつとはまた別の魔物かもしれないが。


「それで、一番肝心な事を……」

「まだ何かあったのかい?」

「ああ、魔の領域にディーラインを通すのは、不可能だと分かった」


すると真剣な表情になる教授。


「その根拠は?」

「教授はGFWの世界に、血穴という魔力が噴き出すスポットがあるのを知ってる?」

「いや、初めて聞いたな。そんなパワースポット的な場所があったのか」

「俺は実際ゲームで、血穴を見た事あるし近くへ行った事もある」

「それで? その血穴が……まさか、魔の領域にあったのかい?」


頷く俺。

すると教授は、目を見開き固まる。


「教授が奥地に巨大な魔力を感知したと言っていたが、それは血穴から噴き出す魔力だろう」

「……なるほど、血穴があるからディーラインは通せないという事か、それならば納得だ」

「血穴を避けて通しても良いが、あそこはまさしく魔の領域。血穴から噴き出す魔力に釣られて大量の魔物が寄って来る場所だ。そんな所にディーラインを通せば……」

「魔物の餌食になる事は明らか……ふむ、そうなると海しかなくなるが、海にも魔物が大量に居るからな。まあ、どうするかは国が考える事か」

「教授が魔の領域を研究してるのは、地球へ帰るためだったか?」

「一番の理由はそれだが他にもある。北側に妹が居るはずなんだ」


教授に詳しく聞くと、この世界へ来る前、教授は素材を採りに1人で南方へやって来たそうだ。

妹と友達は、帝国に残っていたとの事。


「帝国を拠点にしてた?」

「ああ、君がゾディラスを潰した後だね」


そんな事もあったなぁ。

ちなみにゾディラスというのは、帝国にある裏組織を牛耳っていた大きな裏組織の事である。


「妹さんも不老?」

「ああ、友達も不老だ。妹が小人族で友達が魔族、私は人族のこの3人でクランを作ったんだ」

「なるほど……」


不老なら既にこの世界に来てても生きてる可能性はあるな。

殺されてたり病気になってなければだが。



すると教授は、難しい顔をして黙り込む。


「どうした?」

「いや、その血穴から噴き出す魔力……それを使えば地球へ帰れるかと考えていたんだ」

「あぁ……その可能性はあるかもな」

「だが膨大な魔力を制御出来なければ、暴走してまた別の世界に行く可能性もある。下手したらその場で死ぬ可能性も……」


こればかりは、いろいろ試してみないと分からない事だ。


「考える事も大事だが、いろいろ実験した方が良いぞ」

「ああ、当然そうするさ。時間は掛かるだろうがな」

「それと……」


そこでギンジから連絡が入る。


『師匠、メッセージを読みました。1週間後試練を行うと』


アバッテ王国に帰って来る途中、カゲに乗ってる時にメッセージを送っておいたのだ。


『ああ、それでいろいろ確かめる事にする』

『分かりました。どこに向かえば?』

『俺の特殊空間で行うから大学の前で朝8時に、大学は大丈夫か?』

『問題ありません。では1週間後の朝8時に』

『おう』


そして念話を切る。


「キジ丸氏、それと……何かあるのかい?」

「あ、近々北側へ行く事にした。一旦海の方を調べてからだけど」

「渡れるのかな?」

「俺なら余裕だね。ハンゾウが居るし」

「なるほど……キジ丸氏、お願いがあるのだが」

「北側へ一緒に行きたい?」


頷く教授。

海か魔の領域を抜けるにしても教授を連れて行くとなると、確実に護る必要がある。

本来なら連れて行く事はしないが……依頼となれば別だ。


「それは俺とハンゾウに対しての依頼として受けて良いのかな?」

「っ!? ああ、勿論だとも! 報酬は何が良い!? 金なら全財産を渡しても良いぞ」

「落ち着け。そうだな……教授の職業ってなに? 魔法使い系なのは知ってるけど」

「私は『赤の魔女』だよ」


確か、アイドールも似たような職業だったな。


「魔女ってどんなスキルがある?」

「【原初魔法・赤】【赤魔法陣】【魔法薬】【環境創造】だね」


それぞれ詳しく聞くと【原初魔法・赤】は、火属性が強化された原初魔法で、普通の魔法より威力が高い職業スキル。


【赤魔法陣】はそのまま、火属性が強化された魔法陣を自分で作る事が可能【魔法薬】も同じだ。

ちなみに魔法薬を作る時、素材は自分の魔力のみで、効果はイメージと魔力制御がものを言うらしい。


そして【環境創造】は、好きな環境を周囲に展開する事が可能で、その環境に居るとバフが掛かるとの事。


「私はいつも、綺麗な花が咲いた草原をイメージしてる」

「他にも展開出来る? 例えば……真っ暗な空間とか」

「出来るよ」


うむ……それなら突然周囲を暗闇にして空間感知でこちらだけ攻撃が出来るようにするという事も可能だな。


「職業スキルを俺に教えてくれたら依頼を受けよう」

「覚えられるのかい?」

「ああ、俺は既にいろいろ習得してるからな。死霊術も使えるぞ」

「ほう……ゲームが現実になった影響か」

「ゲームの時でも特殊なスキルを使えば、他人に取得させる事は可能だけどな」

「そんなスキルがあったとは、知らなかった」


俺なら巻物作成スキルだ。

これで環境創造スキルを習得すれば、忍者としてもっと強くなれる。


……うむ、シュート達にも声を掛けるか。

連れて行ってほしいと言うなら、あいつらの職業スキルも教えてもらおう。

とりあえず先に海を見に行かないとね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る