第96話 雨の日の領域。

魔の領域の調査に来た俺は、ゲームで見たものと同じ大きな白い木が存在してる事に驚いて暫く固まってしまっていた。


『主?』

『……あぁ、すまん。カゲはあの木に見覚えがあるだろ?』

『はい、影の里の近くにありましたね。って事は、近くに影の里があるのでしょうか? 人間の反応はありませんが……』


流石にここに里は無いだろう。

と心で思いながら俺は、ゲームの時に影の里から見上げた真っ白で大きな木を思い出していた。


あれと同じ物がなぜこの世界に?

この世界は何だ?

やっぱりGFWが現実になった世界なのか?

いや、魔物が強過ぎるな。


プレイヤーがGFWで作った国があったり、ゲームにあった白い木があったり、GFWに似てる部分はあるが、完全に同じって訳でもない。

……血穴は魔力が星の内部を巡ってる魔力が噴き出し、周囲に広がる穴だったな。


って事は、別に血穴があるのは不思議じゃない。

この世界にも魔力は存在してる訳だしな。

だがあの白い木は……ゲームと同じように濃い魔力の影響で生まれた木?


……うむ、考えても答えは出ないか。

とりあえず血穴を確認しないと。


『カゲ、巨大な魔力がある場所に向かってくれ』

『はっ』


空中を駆けて少し進むと白い大きな木の上空へとやって来た俺達は、その周囲に広がる森にぽっかり空いた大きな穴を発見。


マジかぁ……ゲームの時よりデカいんですけど。

そして群がってる魔物の数が半端ない。

ゲームじゃ血穴に群がる魔物の間引きをしたけど、これはそれどころじゃないぞ。


『数十万、いや、血穴の周囲だけで数百万の魔物が居そうだな』

『はい、強力な個体も複数居るようです』


血穴はすり鉢状になっており、直径約20キロ、その中心に数キロ程ある穴が空いてる。

群がる魔物は、獣型や人型に加え虫型も多く、中にはクチナより少し小さいが滅茶苦茶デカい魔物まで居るんだよね。


こりゃダメだ。

ここにディーラインを通すのは不可能。

そもそも血穴がある時点で無理だな。



なんて思ってると空が徐々に暗くなり、顔にポツッと雫が当たるとポツポツと雨が降り始めた。


雨が降ったら魔物が増えるとか言ってたけど、本当かな?

ってか既に血穴の周囲は魔物だらけで、これ以上集まれないと思うけど。


『主、魔物が1匹上がって来ます』


カゲが向いてる方を見ると、血穴から少し離れた森の中からトンボのような透明の羽が等間隔に付いてる長く太い蛇のような魔物が、空中をクネクネしながら上がって来る。


『雨が降ってるから水浴びでもしてるのかも?』

『いえ、明らかにこちらを意識してるようです』


マジかよ。

まだ2キロ以上離れてるぞ?

そう思ったが次の瞬間、明らかな殺気を察知した。

俺達を獲物と思ってるらしい。


『どうしますか?』

『そうだな……ここは一旦退くか』

『狩らないのですか?』

『ああ、今日は調査が目的だ。それに、奴と戦って他の魔物を刺激したらマズい』

『……確かにそうですね』

『荒野の所まで戻ろう』

『はっ!』


徐々に雨が強くなってきた中カゲが、クルっと向きを変えて空中を走り出すと蛇のような魔物は、俺達の後を追ってスルスル空中を泳ぎ、物凄い速さで近づいて来るがカゲの方が速いので追い付かれる事は無い。


しかし、少し進んである程度離れた瞬間、頭上から物凄い速さで殺気が迫り、咄嗟にカゲの身体を蹴って左右に散開すると俺達が居た場所を静かな雷が地上に向かって通り過ぎる。


『大丈夫かカゲ?』

『はい、ありがとうございます』

『いきなり落雷とは……どこのどいつだ?』

『あの蛇です』


俺は落下しながら後方から飛んで来る蛇の魔物を確認すると、まだ数キロ先にいる蛇の全身がバチバチと微かに放電してる事を確認出来た。


あそこから放ったのか?

範囲が広すぎるだろ。


『主!』


カゲが落下してる俺を拾うため、こちらに向かおうとしていたので止めて蛇の気を引いてもらう事に。


『ついでにその高さを維持しといてくれ、魔糸を張り付ける』

『はいっ!』


カゲに魔糸を張り付けるとどしゃ降りの中、地上に向かって落ちて行く。

数秒後、地上がはっきり見えてくると違和感を覚える。


荒野の大地が雨で泥になってるからなのかそれとも、雨が降ってるからなのか地面が何か、蠢いてるように見えるのは、錯覚かな?

なんて思ってると数秒後には、その姿がはっきりと確認出来た。


「げっ!?」


荒野の大地は、ツルっとした頭に目が無く、鋭い牙が生えた口。

腕は細く人型に近いが、足が毛の生えていない獣のような形をしており、手にも足にも鋭く長い爪を持っている。

全身泥に塗れながら水浴びをしてるようだ。


おそらくディルタナの子供。

卵と思っていたら地中で眠ってたのか。


俺はすぐさま魔糸を止め空中でピタッと止まり、カゲを見ると蛇の魔物が来るのを空中で待機している状態。

上は蛇、下は大量の魔物。


うん、下より上だな。

あの数の中に飛び込むのは、流石にマズい。

轟雷雨を打ち込めば足場を作る事は出来るだろうけど、すべての魔物を倒すには時間が掛かり過ぎる。


それなら蛇1匹仕留めて戻る方が良い。

訓練で下に行ってみたい気もするがもし逃げる事になれば、引き連れて移動する事になるもしれないしね。

……いや、影渡りで移動すれば追いかけて来れないのでは?


『主、そろそろ来ます』


蛇の魔物を見るとカゲまで後、数百メートルの地点まで来てる事を確認し、地上に居る大量の魔物を見て笑みを浮かべる。


『カゲ、蛇は任せる』

『まさか主、地上に居る大量の魔物を相手にする気ですか?』

『ああ、久しぶりに全力で戦う事になるかもな』

『こちらを片付けたら私も行きます!』

『無理はするなよ?』

『はっ!』


俺はカゲに張り付けた魔糸を解除し、地上200メートル程から重力に任せて地上へ向かって落下を始める。


さて、いろいろ術理を加えた技の訓練に使わせてもらおうか。

その前にまず、足場を作らないとな。


俺は落下しながら両手で印を結び、術を発動。


影明流・雷遁・五式轟雷衝ごうらいしょう


次の瞬間俺の周囲に、バチバチと激しく白い放電が起こり始める。

スッと刀を抜き放ち、丁度魔物の頭に刀を突き刺す形で地上に着地。

魔物は俺の刀が刺さった時点で絶命するがそこから、周囲半径約500メートルに、雷の衝撃波が一瞬で地面と魔物の身体を通って走り抜けた。


ドンッ!! と大きな雷鳴と共に。

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