第95話 魔の領域の調査。

固まってしまったおっちゃんが復活するのを待ち、数秒後。


「お前さん……英雄だったのか」

「さあ? ちなみにこいつって食えるんですかね?」

「……あ、ああ、食えるって聞いた事はあるが、まさかこいつを仕留めるとはな」

「ゼギア部隊なら倒せると思うけど」

「お隣さんは、この辺りまで来ないからな。かといってうちの軍じゃ倒せるだろうが被害が大きいだろうぜ。こいつは、普段地中に潜ってるからこちらの攻撃が当たらないんだよ。そのくせ、物凄い速さで地中から出て来てこちらは食われる一方だ……よく倒したな」

「俺も食われそうになりましたよ」

「街に持って行けば、良い値で買い取ってもらえるはずだ」

「何か使える素材ってあるんですか?」

「そいつの血と肉、それと魔石に皮だったかな?」


おお、結構使えるな。

時間がある時に解体しよう。


「ありがとうございます。じゃあそろそろ行きます」

「マジで引き連れて来るなよ? 英雄だから大丈夫だと思うがな」

「了解です。では」


そう言って俺は、地面を蹴って走り出した。



小屋から見えなくなった所で一旦止まり、魔の領域である目印の岩山を確認し、ここからはカゲを連れて行こうと思い口寄せすると俺の影からニュッと出て来て目の前でお座りをする。


『主、お久しぶりです!』


尻尾を振りながら念話で話しかけてくるカゲ。

本当に可愛い奴だなぁ。

と思いながら首元をモフモフする。


「カゲ、今からこの世界の魔の領域に向かう。一緒に行けるか?」

『はっ! 勿論でございます! 久しぶりに狩りですか?』

「いや、今回は調査だ。魔物に遭遇したら狩るが基本、見つからないように移動して魔の領域を調べる」

『了解です!』


今回夜叉は呼ばない。

調査が目的だからな。

あいつは戦闘専門だ。

その点カゲは、探知範囲が広いのでこういう場所では助かる。


「さっそくだがあの岩山の先から魔の領域らしいんだが、何か居るか?」


するとカゲは、魔の領域の方を見るとスッと四足で立ち、少し間を空けて答えた。


『……この先に物凄い数の魔物が居ます』


やっぱり多いんだな。


「どれくらい?」

『正確な数は多すぎて分かりませんが、帝国の人間とほぼ同じくらいの数です』

「帝国ってオズオード帝国の事か?」

『はい』


オズオード帝国とは、GFWにある帝国だ。

その帝国に居る人間とほぼ同じくらいの数って……どれくらいだ?

帝国の人口ってどれくらいか知らないんですけど。


「ゼルメアだと何個分だ?」

『……100倍程だと思います』


ゼルメアの100倍って事は……約1000万!?。

話じゃ100万程って言ってたよな?

全然桁が違うんだが?


「間違い無いか?」

『はい、地上に居るのは約3分の1程で、残りは地下に居ます』

「地下……」


半分以上が地下って遺跡でもあるのか?


「まさか、ダンジョン?」

『いえ、ダンジョンの気配はありません』


違うのか……もしかしてディルタナ?

あれが地中に大量に居るとか?

だとしたらかなりヤバいな。


しかしカゲは、その地下に居る魔物がまったく動いていないと言う。

それを聞いてある答えに行き着く。

地中に居て動かない魔物。

ディルタナの卵ではないかと。


あれが大量に地中で生まれるのを想像してしまい、少しゾッとしてしまう。

それこそ国、いや、この大陸に居る人間は、全員食われてしまうな。

だが、これまでそういう事は起きていない。

かと言ってこの先も起きないとは言い切れないか。



とにかく通れるのか調べないとな。

魔物の数が既に異常だが、地中深くを通るディーラインなら大丈夫だろう。

穴を掘り進められるのかは別としてね。


『主、どうしますか?』

「カゲに乗って空から確かめようかな」

『どうぞ!』


スッと四足歩行で立ち横を向くカゲ。

嬉しそうに尻尾を振りやがってこいつ。


「ありがとうな。よし、上空からどうなってるのか確かめるか……と、その前に、久しぶりにほれ」


そう言ってインベントリから特製干し肉を取り出し、放り投げるとカゲは、素早く頭を上げてパクッと口に入れると夢中で咀嚼する。

俺が作った特製干し肉が大好物だもんなぁ。


すぐ食い終わり、口回りをペロッと舐めるカゲの首元を撫でると、さっそく跳んでカゲに乗った。


「よろしくな」

『はっ!』


するとカゲが走り出し、すぐさま上空へ向かって掛け上げって行くと、地上がグングン離れて行き、遠くの景色が見えてくる。


東側は、地平線まで続く荒野、アバッテ王国側には、高低差が激しい荒野が続いており、西側には、平坦な荒野が続き、途中から森が広がっていた。


北側には、平坦な荒野が続いて途中から岩山が密集してる場所に変わり、北東には雪の積もった高い山が見える。


上空から見る景色は、ゲームの時から変わらず良いものだ。

風が気持ち良い~。

なんて景色を楽しみながら地上を観察していると、おかしなものを目にする。


あれは何だ?

ってかおかしくね?


上空に居て風が強いので念話でカゲに問い掛ける。


『2時の方角、地上の一部が凍っていってるんだが、何が起こってるか分かる?』

『……主、あれは魔物の仕業のようです』

『魔物が凍らせてるってのか?』

『はい、歩いてるだけで周囲を凍らせる魔物のようです』


マジか。

そんな魔物が居るのかよ。

環境を変える魔物ね……ヤバそう。


観察しながら移動をして魔の領域である証の岩山に数分で到着し、地上を観察してると周囲を凍らせる魔物や、火の海にする魔物、環境を変える魔物が多数見られた。

岩山を超えると草木がまったく無い荒野が続き、数十キロ先から森になってる。


『主、真下、地中に大量の魔物が居ます』


カゲの言葉に地上を覗き込むがそこは、土と岩だけの荒野で地中に居ると言われなければ、ただの荒野にしか見えない。

おそらく卵か子供が居るんだろうなぁ、と思いながら先へ進むとカゲが突然。


『主! 前方約60キロに今まで感じた事の無い程強い魔力を感知しました!』

『魔力? 魔物か?』

『分かりません』


カゲが分からないって珍しいな。


『大き過ぎて分からないって事か?』

『いえ、魔力の質が初めてのものでよく分かりません』


ほう、また新たな魔物が現れた?


『そこへ向かってくれ』

『はっ!』


グンッとスピードを上げて空中を駆ける事数分後。


『止まれ!!』

『はっ!』


空中で急ブレーキを掛け止まったカゲに何も言わず俺は、ただただ遠方に立つ存在を目にして驚いていた。


『主?』


あれがここにあるって事はまさか……。


俺が目にしたのは、GFWにある魔の領域で目にしたのと同じ、大きく真っ白な巨大な木である。


ここに魔物が集まる理由、それは……『血穴』があるから?

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