第94話 忠告。

翌朝目を覚まし、土の中から這い出て日光を浴びながら伸びをする。


「ん~~ぁああああ!!! 気持ち良い~!!」


日光はいつ浴びても気持ち良いな。

しかし昨日は、結構遅くまで実験を繰り返していたが結局、エーテルを魔力とマナに戻す事が出来なかった。


瘴気を混ぜたり、慎重に分離させようとしたりといろいろ試したがどれも上手くいく感じがしない。

まだ出来る事はあるから実験は続けるが、もっと別の視点が必要そうだ。


インベントリからサンドイッチを取り出し、食べながら向かう先を見つめる。

まだもうちょっと掛かるか。


食い終わると身体を解して準備すると高台から飛び出し、魔の領域を目指して突き進む。


魔力とマナへ戻す方法を考えながら走っていると、空間感知で建物を発見。

2時の方角約2キロ。

遺跡かな?

にしては形がシンプルだ。


空間感知で確認しながらその建物へ向かう事数分後、高低差が激しい荒野が終わり、目の前には平坦な荒野が続いていた。

点々と約数十メートルの岩山があったり、草や木も所々に生えている。


そんな荒野の入り口の手前に建物を目視。

走って近づきながら空間感知と魔力感知で中を探ると、二畳分の広さで縦長の四角い建物で窓が1つあるだけ。

入り口がどこにも無い。

所謂豆腐建築というやつだな。


スピードを落とし近づくと窓がガラッと開いて、金髪のおっちゃんが顔を出す。

窓際にある椅子に座ってるようだ。

おっちゃんは驚いた表情をしながら口を開く。


「こんな所に人が来るなんて珍しいな。しかも地上って……お前さん、何者だ?」

「いや、おっちゃんが何者だよ。こんな所にこんなちょこんとある建物に居るって違和感しか無いんだけど?」

「はっ? お前、ここがどこか知らないで来たのか?」

「ん? 魔の領域を目指して来たけど、ここが魔の領域? にしては魔物が見当たらないが?」

「違う違う、魔の領域はまだ先だ。ほれ、あそこの一番大きな岩山の塔みたいなのがあるだろ?」


おっちゃんが指す方を見ると、確かに一際高く細い岩山があるので頷く。


「あそこから先が魔の領域だ」


岩山までここからだとまだかなり距離があるな。

なるほどね。


「で? ここはなに? おっちゃんは何してんの?」

「本当に何も知らずに来たんだな……ここはディーラインの最終地点だ。現在ここまでディーラインが伸びてるって証拠だ。そしてここは、地上の監視用の小屋だよ」


そう言って部屋の中を見るので覗き込むと、下へ続く梯子が部屋の隅に付いてた。


「そこからディーラインに繋がってると?」

「ああ……普段人が来る時は、全員下から来るのに地上を来る奴を見たのは、初めてだぜ」


そう言って笑うおっちゃん。

それで驚いてたのか。

ここの常識を知らないからね。


「ん? アバッテ王国からここまでディーラインが伸びてるんですか?」

「そうだぞ?」

「じゃあ、列車も通ってる?」


頷くおっちゃん。

……うむ、訓練と思えば地上を来て正解だな。

実際、良い訓練になったし。


「お前さんは、魔の領域の調査かい?」

「そうですね」

「って事は教授が後から来るのか?」


スズカ教授の事か。


「いえ、俺だけです」

「ほう、教授以外にも調査する奴が居るとはなぁ……だが今日はもう止めといた方が良い」


魔の領域の方を見てそう言うおっちゃんに、なぜ止めた方が良いのか聞くと。


「ほれ、あっちの方に雲が広がってるだろ?」


北西の方を指すので見ると、確かに分厚い雲が広がっていた。

雨雲っぽい。


「雨が降るって事ですか?」

「ああ、だから止めとけ、数日待ってから行った方が良い」

「なぜ?」

「信じられないかもしれないが、ここで監視の仕事を続けて20年」


結構なベテランだな。


「雨が降った時と後は、魔の領域の魔物の数が爆発的に増えるんだ」

「教授はそんな事言ってませんでしたよ?」

「雨の日に調査はしないからな。視界が悪く危険が多い。だがな……ここで監視をしてる時、雨が降った日と後は、地響きやら魔物の声がスゲーんだよ。地響きは大量の魔物が移動してる影響だろう」

「なぜ教授は知らないんだろ?」

「ちゃんと調査した事が無いからだろ? 俺達も実際見た事は無いが、経験で判断してる」


なるほど、実際確かめた事は無いって事か。

なら……。


「分かりました。では俺が雨の日の魔の領域を調査します」

「死にに行くつもりか?」

「いや、死ぬつもりは無いですよ」

「雨が降らなくても大量の魔物が居る魔の領域に、更に増えてるかもしれないのに行くってのか?」

「勿論」

「……まあ、お前さんの自由だが俺は止めたぞ? 何があっても恨むなよ?」

「はは、そんな事はしませんよ。俺が自分で行くって決めたんですから」

「……なら1つ忠告しといてやる」

「はい」


真剣な表情になるおっちゃん。

どんな忠告かな?


「魔物に追われてもこっちに逃げてくるな」

「……それだけ?」

「ああ、魔物を引き連れてこっちに来たらディーラインの中に居る人達、そしてその先にいるアバッテ王国の人達が食われる事になるからな。絶対引き連れて来るなよ? もしそうなったら北に逃げるか、その場で食われろ」

「食われろって……まあ、そんな事にはなりませんからご安心を」

「過去に一度、馬鹿が引き連れて来て大勢の人が犠牲になってるんだ」


あぁ、過去にあったのか。

そりゃ過敏にもなるよね。


「了解、絶対引き連れて来ないと誓います……ところで、アバッテ王国の軍ってどんなのですか? カリムス王国のゼギアみたいな兵器を持ってるとか?」

「お前さん、本当に何も知らないんだなぁ……アバッテ王国の軍には『ナイトスーツ』があるんだ」

「ナイトスーツ?」


話しく聞くとどうやら、小型のロボットのような物で、全長約5メートル程の機体に人が乗り込み、全身を使って機体を操るらしい。

腕を動かせば腕が動くみたいな感じだな。

ちょっと大きいスーツだ。

だからナイト『スーツ』と呼ぶんだとさ。


ナイトスーツね。

いつか見てみたい。


「ありがとう。いろいろ聞けて助かります」

「おう、くれぐれも引き連れて来るなよ?」

「分かってますよ」


そう言って小屋を離れようとしてふと気になった事を聞く。


「そう言えば、ここに来る途中、地中にコンクリートのような人工物があったんですけど、あれってもしかして……」

「ああ、ディーラインの天井部分だろうな。地中にあるのによく分かったな?」

「モグラのような魔物が出て来た穴の底に見えたもので」

「モグラのような魔物? ……っ!? まさかディルタナか!?」

「ディルタナ?」


おっちゃんがディルタナの特徴を言うと、まさに俺が遭遇した魔物だったので肯定すると。


「どの辺りで出た?」

「えーっと、ここからあっちに約60キロ程行った所の渓谷? ですね」

「ディルタナはどうした? どっちに向かった?」

「いや、倒しました」

「……はっ?」

「だから襲われたので始末しましたよ……ほら」


そう言ってインベントリから頭を取り出すと、それを見ておっちゃんは、白目になって固まったまま気絶した。


器用な事をするおっちゃんだな。

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