第93話 夜の実験。

奴が落ちた渓谷を上から覗き込むと、おそらく自分で空けた穴に胴体が落ち、頭は渓谷の底に転がっていた。

肉は食えるのか素材があるのか分からないので、一旦収納しておくかと重力に任せて渓谷の底へ飛び下り、途中で魔糸を岩壁に張り付けゆっくり着地すると死体を収納。


「ん?」


魔物の死体を収納して空いた穴の底を見ると、コンクリートのような物を発見。

穴の深さは約100メートル程ある。


こんな所に人工物があるのか。

昔の物かな?

遺跡だったりして……帰りに確かめよう。

先に魔の領域を調べないとね。


渓谷の底から思いっきり跳んで手足に魔力を纏い、岩壁に張り付くと更に跳んで地上に戻ると、魔の領域を目指して走り始める。


俺は走りながら考えていた。

気配を消したり、数百メートル上空に一瞬で到達する魔物。

ゲームの魔物に慣れている人や、この世界の住民だと厳しい相手だな。

ゼギアならスキャナーがあるから発見出来るかもしれないが、あれはカリムス王国だけが保有する兵器。


そう言えば、アバッテ王国の軍はどんな軍なんだろ?

ゼギアみたいなロボットは見なかったけど、流石に生身じゃないよな?



なんて考えながら走り続ける事数時間後、そろそろ日が沈んで来たので立ち止まり、いつもの訓練に加え術理の訓練を追加し、3時間程して終了すると岩場の高台に土で椅子を作り、解体して余っているスキラスの肉を取り出すと火の印を地面に書いて火を出し、魔糸で肉を吊るして焼いていく。


ちゃんと塩コショウはしてあるぞ。


ジュ~と油が垂れる良い音を聞きながらすっかり満点の星空になった空を見上げると、綺麗な月が見える。


「この世界も月は1つか」


異世界だと2つの月とかが定番なんだけど。

まあ、地球の月よりちょっと大きいかな?

滅茶苦茶綺麗だなぁ。


ここは地球と同じ宇宙にあるのかそれとも、まったく別の次元なのか……おやじと母さんは俺が死んでどう思ってるんだろ。

俺の金は両親に行くのか?

それなら文句は言わなそうだが。


星空を眺めながら魔糸を操り、まんべんなく肉を焼いて数分後、肉が焼けたのでさっそく一口かぶりつく。


ジュワっと肉汁が溢れ、甘い油が口いっぱいに広がり、塩コショウが効いていて美味い。

噛み千切ってモグモグ食べているとふと違和感を覚え、魔糸で目の前に浮かせてる肉をジッと見る。


「……気のせいか?」


と首を傾げ、もう一度肉にかぶり付き、噛み千切って咀嚼しながら意識を集中させるとやはり、微かに何かを感じた。


「……もしかして」


次元エネルギー?

食って大丈夫か?

……まあ美味いから良いか。

エネルギーも微かだし……一応エーテルで吸収しないようにしよう。


と、エーテルを練って食道と胃をカバーする。


その後、肉を全部食い終わるとエーテルで包んだ微かな次元エネルギーを掌に移動させ、球にして出すと虹色の光に包まれたビー玉より小さい青い光りが見えた。


「これが次元エネルギーその物……」


まさかスキラスの肉に混ざってるとはね。

まあ、次元エネルギーから生み出された生物? 兵器? だし、入ってても不思議じゃないが……この中に別次元のエネルギーも混ざってるのかな?

混ざってるよねぇ。

これくらいなら分離出来るが、あのデカい高炉のエネルギーをどうやって分離するかが問題だ。


右手にエネルギーの球を乗せたまま、煙草を取り出し火を点け、煙を吹き出す。


「フゥ~……」


ぼ~っとエネルギーの球を見ていてふと思う。

次元エネルギーを包んでるエーテル。

これはゲーム世界だと時代の流れの中、自然に魔力とマナに分かれたと言ってた。


エーテルと相性が良い次元エネルギーなら、エーテルのように自然と分離する?

いや、いつまで待たないといけないんだって話しだな。


「…………相性が良いエーテルならもしかして」


エーテルと混ぜて魔力とマナに分離させれば、別次元のエネルギーも分離出来るかも?

さっそく包んでる次元エネルギーとエーテルを混ぜようとし、虹色の光と青い光がマーブル状になった瞬間、バチンッ!! と弾けて手がボロボロになってしまった。


「っ~……片手間にやり過ぎたか?」


魔力で印を書いて手を治し、もう一度試そうと肉を地面に取り出してエーテルで包み、今度は両手を翳して制御に集中する。

肉の塊に沿ってエーテルを纏わせ、徐々に圧縮していき、次元エネルギーを包み込むようにし、肉から先程と同じ状態の光の球を作り出す。


するとエネルギーを抽出した肉が、いっきに干からびてしまう。

目の前で早送りしたように、いっきに干からびた肉を見てちょっと固まってしまった。


次元エネルギーで新鮮さを保っていたのか?

それとも、抽出方法に問題があったかな?

さっきは咀嚼して取り出したが、今回は肉の塊のまま抽出したから、それで干からびた可能性もある。


と、今はそれより分離が先だと思い、制御に集中。

じっくり次元エネルギーと混ぜていく……これはかなり難しい。

爆薬を混ぜてるような感覚だ。


光りがマーブル状になり、グルグルと混ざって行くと次第に、青色が強い虹色の球へと変化し、今にも破裂しそうな程力強さを感じる。


「ふぅ~……よし」


ここまでは良い。

ここからが問題だ。

これを魔力とマナへ戻すように……あっ。


次の瞬間、また破裂して地面に小さなクレーターを作ってしまう。

しかし、今ので理解した。


「これは訓練が必要だな」


そう、エーテルから魔力とマナに戻す事を今までやった事が無いのだ。

エーテルを使った後は、いつもそのまま解除していたので戻す事に慣れてない。


自分で混ぜて戻せないのは、おかしな話だよね。

という訳で、さっそくエーテルだけで、分離する練習を始める事に。



エーテルを練って掌に集め、虹色の球を作ると魔力とマナに分離させようとした瞬間、エーテルが暴走して小さな爆発を起こす。

また手がボロボロになってしまった。


手を治しながら考える。

今やったのは、エーテルをただ魔力とマナに分離させようとして2つのエネルギーを引き離そうとしたら爆発したのだ。

って事は……あっ、引き離そうとして制御が甘くなり、暴発したのか。


……じゃあ、どうやって分離させれば良いんだ?

引き離すイメージが違うんだろうけど、他にどうすれば……制御しながら分離させる……混ぜた物をまた別々に戻す……難しくね?


そう言えば、漫画で水と油を混ぜて成分を分離させる方法とかやってたな。

混ざらない成分を混ぜて分離させるか……魔力とマナに混ざらないエネルギーなんてある?


瘴気も混ざるしなぁ……いろいろ試してみるか。

と、高台で1人、黙々と実験を繰り返す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る