第92話 魔の領域を目指して。

GFWに存在する全ての職業には、クラスが存在する。

忍者で言えば、下忍、中忍、上忍、忍び頭、影忍とクラスアップしていき、影忍になって条件を満たすと更に特殊忍者という職業に転職が可能となる。

それが生産忍者と魔忍者だ。


特殊忍者はそれぞれ、クラスが2つだけで条件を満たせば転職が可能になり、2つの特殊忍者を極めれば、影の神(忍者の職業を司る管理AI)が出す試練をクリアし、ようやく忍者の最高峰、忍者・極に転職が出来てクラスは1つだけでクラスアップは無い。


その代わり、スキルのレベルキャップが解放され、どこまでもレベルを上げる事が可能になるのだ。


俺は全てをクリアして忍者・極になった。

その俺が試練を出してそれをクリアすれば、この世界でもクラスアップが出来る可能性がある。


忍び頭から影忍になるには、ゲームだと自分の格上の影と戦って勝つ事。

全てが格上なので普通では勝てない。

そこでユニークスキルを取得するのが必須条件となる。

影は格上だがユニークスキルを使えないからな。


格上の影と戦うのは、死ぬ可能性もある。

ゲームならリスポーンするがこの世界だと死んだら終わり。

普通の神経なら挑戦はしないだろう。

だが、死ぬ可能性がある試練を超えてこその影忍だ。


そう言えば、住人NPCの忍者は、死ぬ事が多い影忍の試練に挑戦する事が次第に禁止となり、影忍になる者が居なかった。

過去には居たけど。

今は俺達も、住人と同じ立場って事か。



なんてコーヒーを飲みながらカフェの窓際にある席に座り、考え込んでいると対面に座るギンジが口を開く。


「師匠、僕のためにすみません」

「いや、俺も気になる事だから良いよ。ただ影忍へのクラスアップは、かなり危険なものになりそうだ。下手したら死ぬ可能性もある」

「死……ゲームでも何度か死にましたが、現実だと厳しいですね」

「住人の忍者もそれで影忍になる者が減ったらしいからな」

「それでも、僕は強くなるために挑戦したいと思ってます」

「うむ……」


神から授かる力……まあ、巻物作成のスキルを使えば、術というかスキルを授ける事は出来るんだけど、ただ渡しても意味が無い。

試練を超える事に意味がある。


「これまで自主練をして来て強くなった実感はある?」

「はい、多少なりとは」


ならちゃんと成長はするって事だな。

だとしたら……。


「クラスアップの試練は考えておくから、これからも訓練は続けるように」

「了解です」

「じゃあ、俺は魔の領域に行くからギンジは帰れ」

「えっ、僕も行きます」

「クラスアップしてたら連れて行ったけど、まだ影忍になってないなら連れて行くのは危険だ」

「これまで鍛えて来ましたよ?」

「それでも足らないんだ。忍び頭と影忍の差はそれ程ある」


すると悔しそうな表情をし、少し俯くギンジ。


「心配すんな。ちょっと偵察して帰って来るから。そのまま北側へ行ったりはしないさ」

「……ちゃんと戻って来てくれますか?」

「ああ、約束する。お前をクラスアップさせて強くしてやるってな」

「……分かりました。帰って来るまで感覚共有の訓練を続けておきます」

「ああ、感覚共有にある程度慣れたら次は、分身と感覚共有をしながら戦闘訓練をするんだ。分かったな? そうすれば自分の隙が見えてくるからそれを無くしていけば良い」

「了解です」


その後、会計を済ませ店の前でギンジと別れると俺は、路地裏に入って影に潜り、影渡りで北を目指す。



街の最北端に到着した俺は、高層ビルの屋上に立ち、高さ400メートルはあるだろう外壁の外を眺めていた。

このビルは外壁より高いので外が見える。


見える景色は、街の近くが高低差の激しい荒野になっており、地平線には微かに森や高い山々が見えるがここからじゃ特に変わった所は……あるな。


一瞬目の錯覚かと思い目を擦ってもう一度見るが、やはり見間違いではないようだ。


「山が動いてる?」


いや、山と思ってるあれは魔物か。


「デカ過ぎだろ」


あそこが魔の領域。

GFWの魔の領域とは違う、本当の魔の領域。

もしかしたら忍びの里があるかも?

って、流石に無いか……無いよね?


シュートに聞いたがこの世界の魔物は基本、再生持ちらしい。

個体によって再生能力に違いはあるが、デカければデカい程、再生能力が高いとも言っていた。

よく人類が滅ばずに残ってるもんだ。


「さて、行くか」


その場で影に潜り、街の外へ影渡りで移動する。

岩場の影に移動し、影から出ると閻魔鉱の装備を着け、腕を回したりその場で軽く跳んだりして身体を解す。


久しぶりの閻魔鉱装備。

ちょっと重く感じるのは、久しぶりだからか。

街の中で閻魔鉱の装備を着けると、重すぎて道がへこんだりするからな。

やっぱりこれを着けると落ち着く。


いつものように刀を左腰に着け、脇差を右腰に着けると外套を纏い、地面を蹴って走り出すと重さで足跡が残ってしまうが気にしない。


何で走ってるのかって?

これも訓練になるからね。


風のように荒野を走り続け、偶に跳んだり岩壁を走ったりしながら進む事約1時間後。

高い足場を走っていると前方に、対岸まで50メートル程の穴というか渓谷を発見。

このまま跳び越えようとスピードを上げ、思いっきり跳んだ瞬間、下から大きな口が迫る。


「マジか!?」


俺は咄嗟に、魔糸を対岸に飛ばし張り付けると身体を引っ張り、何とかギリギリ食われるのを避け、空中を移動しながら後方を確認するとそこには、大きな口に鋭い牙が並び、目が無くツルっとした頭の生物が居た。


「SYAAAAAAA!!!」


叫びながら口から液体を撒き散らす魔物。

対岸に着地してすぐさま振り返り確認すると魔物は、全長約40メートル近くある巨体で、身体は人型に見えるが皮膚は赤黒く、指は4本で鋭く長い爪が付いてる。


「……モグラ?」


奴の身体には、所々濡れた土が付いており、全体的に土っぽさが残っているので、おそらく普段は土の中に居る魔物。

だから目が無いのかと勝手に納得。


それにしても、まったく気配が無かった。

魔力感知にも反応は無かったし、空間感知でも跳ぶ直前まで何も居なかったのは確かだ。


奴は俺が跳んだ瞬間に土から飛び出し、数十メートル先の空中に居る俺を食おうとしたって事か……ヤバい奴が居るもんだな。


「GISYAAAAA!!!」


奴は渓谷から上がろうと地面に手を掛け、俺に迫って来る。


「汚いな」


奴が声を出す度に口から液体をボタボタ撒き散らし、その液体が掛かった地面はシュ~と白い煙を上げているのでおそらく酸だろう。


「俺からしたらただのよだれに見えるけど」


俺は腰を落とし、居合切りの構えを取り、刀に魔力を流しながら奴が手を突いて頭をグンッと上げて首がガラ空きになった瞬間、技を発動。


影明流・三式・魔閃


次の瞬間にはチンッ、と鞘に納刀する。

すると奴はピタッと動きを止め、数瞬後、首から上がズレて地面に落ち、血を噴き出し絶命。


上がろうとしていた身体は渓谷に落ち、頭も渓谷の底へ落下。

大きな音と微かに地面を揺らし、大量の土煙を上げる。


三式はユニークスキルの変質法を使ったという証だ。

奴は再生能力が高そうだったので変質法で再生出来ないようにし、魔閃、刀から魔力の刃を伸ばして斬り落とした。


首を落としたら流石に再生はしなかったかな?

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