第91話 可能性。

キングは俺の強さを認めたようで、すっかり舎弟っぽくなってしまった。


「すみませんした兄貴」

「兄貴は止めろ」

「いやぁ~、ずっとフェイクだと思ってた動画がまさか本当だったとは、信じられないような事が実際あるんすねぇ」


もっと信じられない事が起きてるだろ、俺達の身に。

そんな話をしながらギンジ達の所へ戻るとゲンキが、驚いた様子で口を開いた。


「お、おいキング」

「ん? なんだ?」

「お前、大丈夫なのか?」

「ああ、痛いところは無いな? 兄貴が治してくれたんすか?」

「まあな」

「流石兄貴っす」

「お前、さっきまでキジ丸とか呼び捨てにしてたくせに、何だその掌返しは?」


と、ゲンキが怪訝な表情をしながら言う。


「バカ、あの動画が全部本物だって事は、まさに最強だぞ? そんな人を呼び捨てにするとか命知らずじゃねぇよ」


実戦なら死んでたけどなお前。


「散々フェイクだ何だのと言ってたくせに……キジ丸さん、1つ聞いても良いか?」


ゲンキが真剣な表情をして言うので頷く。


「最後のあれは、本気だったのか?」

「いや、全力の……5%くらいかな?」

「1割も無い……」

「あれで5%とは、流石兄貴っす」

「お前、死ななくてよかったな」

「ああ、下手したら死んでたぜ」

「自分なら勝てるとか言ってたのにな?」

「ちょっと前の自分を、思いっきり殴ってやりたい」

「俺が殴ってやろうか?」

「なんでだよ」


ゲンキとキングが話してるとギンジが俺の横に来て、小声で話しかけて来た。


「師匠、最後の攻撃、まったく見えなかったんですがただの縮地じゃないですよね?」

「ああ、術理を入れた縮地と攻撃を同時にやったんだ。戦闘中に思いついてやってみたけど、上手く出来たよ」

「術理……動きを少し変えるだけであんなに変わるんですね」

「それが術理ってもんだろ? 力の流れを作ってやれば、それ相応の力を発揮する」


普通に殴るだけでもそこには力の流れが存在し、身体の動かし方でその力を殺す事もあれば生かす事も出来るのだ。

綺麗に拳を突き出したとしても、膝や肘の角度、腰の回転などのタイミングのズレで力が分散されてしまう。

それらが全てカッチリ嵌った時、最大の力が発揮される。

それを追求したのが術理だな。


戦闘術スキルのレベルを上げといて良かった。

キジ丸の経験の中にあれが無ければ、出来なかった事だね。



その後、摸擬戦が終わったので皆で上に戻り、テーブルを囲って皆で乾杯をする事に。


「最強の男に乾杯!」

「兄貴に乾杯!」

「師匠に乾杯!」

「はは……乾杯」


うん、ビールは相変わらず美味い。

乾杯をすると皆は、俺とキングの摸擬戦の話をしたり、俺の動画の話をしたりして盛り上がる中俺は、そろそろ北を目指そうかと思い、ビールを一気飲みして席を立つ。


「じゃあそろそろ行くよ」

「では僕も行きます」

「何だ、もう行くのか?」

「兄貴、どこに行くんすか?」

「魔の領域」

「「っ!?」」


一瞬固まるゲンキとキング。

先に口を開いたのはゲンキだった。


「マジで行くのか?」

「ああ、北側へ行くための道を探さないと」

「北側……」

「兄貴、魔の領域は流石にヤバいっすよ?」

「大丈夫、逃げる手段もあるから」


転移でも影渡りでも逃げられるからな。

するとゲンキが難しい顔をして言う。


「……北側へ行くなら海の方が良いかもしれないぞ?」

「海?」

「ここから更に東へ約500キロ程行けば、海に出られる。魔の領域を渡るより、海から……」

「いやそりゃ無理だろ」


と、キングがツッコむ。


「海にも魔物が居るんだぞ? しかも陸よりデカくて多い。そんな中をどうやって渡んだ? それとも飛んで行くか?」


カゲに乗れば飛んで行けるけど、俺だけが行けても意味が無いんだよね。

うむ……最終手段としてそれも考えとくか。

こっち側からじゃ無理でも、北側からなら越える方法があるかもしれない。

行き来する手段が見つからなかったら一旦俺だけ北側へ行って、誰でも渡れる方法を探してみよう。


「高炉の影響で飛べねぇだろ。船ならまだ何とか……」

「結局、北側へ行く方法は無いんだよなぁ」


暗くなる2人に笑いながら答える。


「心配すんな。いずれ北側とこっち側を行き来出来るようになるさ。じゃあまたな」

「おう」

「兄貴、何か手が欲しい時はいつでも言って下さいっす!」

「ああ」


そう言ってギンジと店を後にした。



店を出て少し歩くとギンジが。


「師匠、今から向かうんですか?」

「いや、ちょっと準備してから向かう。ギンジは来なくて良いぞ?」

「いえ、僕も行きます。いいですか?」


うむ……。


「ギンジの職業クラスって何だった?」

「忍び頭です」


あぁ、なら影渡りは取得してないか。


「ユニークスキルを取得してクラスアップクエストをやろうと準備してたらこっちに」

「なるほど……」


俺はキジ丸としての記憶でクラスアップの事を思い出していた。

現実としての記憶にクラスアップは、試練を乗り越えて神から力を授かるとあるがその神(管理AI)はこの世界に居ない。


そこで歩いていた足を止め、思考に耽る。


「師匠?」


ゲームシステムが無くてもクラスアップは出来るんじゃね?

記憶では試練を超える事で、神から力を授かってるがそれは訓練と変わらない。


なら……忍者の最高峰『忍者・極』の職業を持つ俺が試練を出して超えられれば、クラスアップが出来る……かも?

生半可な試練じゃだめだ。

それ相応の試練を用意しないと、それを超えて力を得るプロセスをちゃんと考えて……。


「師匠、大丈夫ですか?」

「ん? あぁ、悪い、考え事してた」

「何を?」

「いや、ギンジが忍び頭で影忍へのクラスアップをするには、どうすれば良いのかってな」

「この世界でもクラスアップが出来るんですか!?」

「俺の感覚では出来る……かも?」

「どうすれば良いんですか!?」

「落ち着け、ちょっと時間をくれ、いろいろ確かめる必要がある」

「分かりました。どうかよろしくお願いします!」


頭を下げるギンジを見ながら思う。

ゲームシステムが無いこの世界だからこそ、出来る事があるはずだと。

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