第90話 術理の訓練。

両手に短剣を持って構えた状態で動かないキング。

俺は木刀を持ち、構えずに待つ。

するとキングは、素早い動きで突っ込んで来たのでタイミングを合わせて木刀で軽く斬り上げる。


木刀が当たる瞬間、その場から姿を消して俺の右側へ移動したキングは、左手で殴りかかって来た。


「遅い!」


拳の部分には刃があるから普通に殴られると切れてしまうので、屈んで避けながら踏み込み、木刀の柄の部分で腹を突くが威力が足らない。


「っ!? 軽いな!!」


そう言って奴の右膝が顔面に迫って来たので、左腕でガードしながら後方へ跳び衝撃を和らげる。


「自分で跳んで威力を逃がしたか」


うむ、踏み込みと同時に腹を突いたけど、体重が乗らなかったか。

俺は一旦距離が空いたので、先程奴の腹を突いた時の体勢を取り、力の流れを確かめた。


……そうか、肘が中に入り過ぎたな。

肘がクッションになって力が伝わらなかったんだ。

なら衝撃の瞬間、関節を固めたら全ての力が伝わるはず。


「おい、何やってんだよ? 戦う気あんのか?」

「いやすまん。確かめてただけだ……ほら、じゃんじゃん来い」

「この……」


腰を落として構えるとキングの頭上に、バスケットボール程の火球が出現し、放たれると弾丸のような速さで俺に迫る。


瞬間的に俺はチャンスだと思い、木刀を軽く両手で握り、木刀を突き出すと火球の軌道に添え、火球が木刀に触れた瞬間、身体と一緒に木刀を傾け火球を受け流す。


よし、魔力を使わずに出来たぞ。

って、木刀がちょっと焦げちゃったけど。


「掛かったな」


次の瞬間には俺の背後に移ったキングがそう呟き、両手の短剣を同時に振り下ろして来たので地面を蹴って前に出て避けるがキングは身体を横に回転させ、両手の短剣による猛攻が始まった。


いろんな方角から迫る刃。

流石短剣。

連続攻撃が凄い。


たまに蹴りや膝蹴りも混ぜた猛攻。

相当鍛えてるようだ。


「くそっ! 何で当たらねぇ!? 強化してんだろ!!」

「してないよ。ただ避けてるだけだ」


うむ、縛りも加重も解かなくて大丈夫そうだな。

ただ、こっちの攻撃が当たっても相手は、魔力で強化してるから殆どダメージが入らない。

ダメージを与えるには、ちゃんと力を伝えないと無理そう。


術理の訓練には丁度良いね。

一撃で倒れないなら、いくらでも打ち込める。



続く猛攻の中、思考を巡らせ術理の理解を深めながら避け続ける事数分後。

これはスキルを持っていたお陰なのか、頭に浮かんだ術理を試す事に。


キングの攻撃を見極め、何度か木刀を振るが避けられ、短剣で弾かれては木刀がボロボロになっていく。

しかしその瞬間がやっと訪れた。


俺は後方へ跳んで距離を空け、一瞬距離が空いた瞬間奴は、地面を蹴って正面から迫り、短剣を持った右手を打ち込もうとして奴は目を見開き、ピタッと身体を止めたところに踏み込みながら奴の胴に木刀を叩き込むと奴は、10メートル程吹っ飛ぶが身体を回転させて着地する。


攻撃が来るかと思って警戒するが奴は、驚いた表情で口を開く。


「何だ今の? 何かスキルを使っただろ?」

「いや? 使ってないけど、どう見えた?」

「……目の前にあったお前の姿が消えた。絶対スキルだろ今の」


ほう、ああやって動くと姿を見失うのか。

これは面白い。

と、自然と笑みが浮かぶ。


「何を笑ってる? やっぱり何かやったんだな? それに、魔力を使わないと言ってたくせに、最初から使ってただろ」

「全然、まったく使ってないぞ?」

「あの動きは絶対強化してる」

「あぁ、残念。あれは素の動きだ」

「……じゃあ、魔力を使った動きを見せてみろ。そうしたら信じてやる」


別にお前に信じてもらう必要は無いけど……よし、術理にそった魔力の使い方を試すか。


「良いだろう。ではここから魔力を使って戦おう……耐えろよ?」

「へっ、余裕だ」


そう言いながら冷や汗を流すキング。

そこで観戦してるギンジとゲンキの話し声が聞こえてきた。


『何だ今の動き? キングが勝手に止まったように見えたが』

『僕もそう見えました。その隙に師匠が胴に木刀を叩き込んでましたね』

『それにしても動きが速すぎるな。あれで魔力を使ってないんだろ?』

『師匠がそう言ってますからね。おそらく使ってないんでしょう』

『で、ここから魔力を使った動きになると……カメラに映るか微妙だな』

『あの動画のような戦いが目の前で見れるのは、有難いですね』

『ああ、絶対見逃せねぇ』


キングが止まったように見えたか……先程の術理は、相手の意識の隙を突き、反応出来ない内に攻撃を仕掛ける術理だ。

相手の意識を感じ取り、その隙を突く。

これは気配察知があったお陰で簡単に出来た。


キングはずっと見てたつもりだが、その意識の隙に俺が動いたので認識出来ず、消えたように見えたんだろう。


では、全身に魔力を流して強化し、木刀にも魔力を流す。

木刀は斬撃力は上げないで耐久力だけを上げる。

魔力を使えば木刀でも斬れるからね。


魔力の流れを術理に合わせて微調整し、準備が整ったので告げる。


「良いか?」

「ああ、いつでも来い」


キングが構えた次の瞬間、奴は吹っ飛んで壁に激突。

壁に微かなクレーターを作り、キングは気絶したようで力なく壁から剥がれて地面に落ちた。


「耐えろって言ったのにな」


ギンジとゲンキの方を見てそう言うと、吹っ飛んだキングを見て目を見開き、口を開けて固まっていた。


俺は木刀を収納しながら歩いてキングに近付き、うつ伏せで気を失ってる奴の横にしゃがみ込むと背中に触れ、魔力で体内に印を書いて回復させる。


「……ん……あれ? 何で俺こんな所で……っ!?」


気付いたようで地面に手を突いてガバッと起き上がるキング。

しかし前方を見て俺が居ない事に気付き、キョロキョロ見回してギンジとゲンキを視界に捉えると2人が見てる視線を追って横に居る俺にようやく気付いた。


「うおっ!? ……俺はどうやって負けた?」

「耐えろって言ったのに、気絶すんなよ」

「俺が気絶? ……マジか」

「刀だったら確実に死んでたな。胴体を真っ二つにされて」


木刀でも出来たけど。

キングは地面に胡坐をかいて肩を落とし、疲れた様子で口を開く。


「まったく見えなかった……何がどうなった?」

「縮地で懐に入って胴に木刀を叩き込んだだけだ」


するとキングは少し黙った後、バッと正座になって頭を下げた。


「すみませんでしたぁ!!」

「はは、まあ良い訓練になったから良いよ」

「訓練?」

「術理の訓練に使わせてもらった」

「……最強パネェっす」


茫然とするキングと、未だ固まってるギンジとゲンキ。

次はゲンキとやるか?

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