第89話 戦いの条件。

ゲンキにどうかと聞かれて俺は、少し考えるフリをして答える。


「そうだな……一戦やるってどういう形式で? 殺し合いか?」

「いや、それは流石にマズいから、摸擬戦で良いだろ? キング?」

「ああ、今のご時世、殺しちまうといろいろ面倒だからな」


摸擬戦か……。


「ルールは?」

「どうする?」


ゲンキに聞かれたキングは、ニヤっと笑いながら答えた。


「当然、何でも有だろ」

「なるほど、殺さなければ何でも有って事か?」

「お、おう」

「じゃあ、俺から1つ付け加える」

「何だ? 手加減は出来ねぇぞ?」


笑いながら言うキングを無視して告げる。


「俺は魔力を一切使わずに戦おう。勿論、キングだっけ? あんたは使って良いからな」

「はっ?」

「おいおい、魔力を使わないってそれは危険だろ」

「そうですよ師匠。魔力が無いと強化も出来ません。それでキングの攻撃を受ければ、致命傷になります」

「問題無いよ。鍛えてるから」


強化しなくても耐久力には自信がある。

シュートの拳を耐えたからね。

それにしてもギンジ以外も魔力が使えるって事は、ゲームの時にユニークスキルを取得してたんだな。


そこでゲンキがギンジを見て言う。


「おいギンジ、師匠ってなんだ? 今キジ丸さんの事を師匠って呼んだだろ?」

「ええ、今僕はキジ丸さんに鍛えてもらってるんで師匠です」

「だってお前は……いや、まあ最強プレイヤーだしな」


ゲンキは俺をチラっと見て言葉を変えた。

おそらくギンジが忍者だと知ってる1人だろう。


「確かお前は格闘系だろ? キジ丸って侍だよな? 戦闘スタイルが違い過ぎるだろ」


キングはギンジが忍者だと知らないらしい。

ちゃんと正体を伝える相手は考えてるようだ。


「キジ丸さんは、格闘戦も出来るので鍛えてもらってるんです」

「へ~、まあ良いか。それよりゲンキ、地下を使わせてもらうぞ?」

「ああ、だがちょっと待て」

「何だ?」

「昼時が終わるまで勝負は待て、俺も見たいから」

「あぁ……良いかそれで?」


ゲンキに聞かれたので頷く。


「それより地下ってなに?」

「この店の地下に、訓練場があるんです」


と、ギンジが教えてくれた。

本当に俺の店と同じような造りだな。

うちは雑貨店だけど。


「今でも鍛錬は続けてるからな」

「俺も偶に使わせてもらってる」

「では、客足が落ち着くまで暫く待ちましょうか」

「おう」

「すまんな」


ゲンキが謝るので「気にしなくて良い」と言っておく。

時間まで美味い酒と飯があるなら文句は無い。



その後、飯を食い終わり、俺は酒を飲みながら煙草を吹かし、ギンジとキングで雑談をしていた。


「なあキジ丸さんよ」

「ん?」

「ハンゾウは居るのか?」

「ああ、居るけど?」

「どこに居る? ちょっと聞きたい事があるんだ」

「ハンゾウ」


すると俺の背後に片膝を突いた分身を出す。


「おお、マジで忍者だ……と、それよりあんた、何でキジ丸に従ってるんだ? あんた程強い奴がなぜ?」


俺はハンゾウで首を傾げ答える。


「言ってる意味が分からんな。主は拙者より強い」

「いやいや、あんたが裏組織の連中やギルドの奴ら、それと帝国の兵士達と一気に相手をしてる動画を見たけど、あれより強いってあり得ないだろ」


あぁ、あれか。


「あと死の国カラトナと仁の国の戦争でも、エデンのメンバー数百人だっけ? 1000人だっけかを相手にして勝ってたよな? キジ丸がそれより強いってどうしても思えない。何で従ってる?」

「主の忍びになったのは、主が拙者より強いからではない。助けて頂いた恩が有るからだ。しかし、主が拙者より強いのは確かだがな」

「助けてもらった恩か……強いってのは信じられないがそれなら納得だ……と、ちょっとトイレ」


そう言ってゲンキが席を離れるとギンジが口を開く。


「凄いですね師匠」

「何が?」

「1人2人役を完璧にこなしてます。知っていてもハンゾウと師匠が2人居るように思えてくる」

「訓練したからな。ギンジも慣れたら出来るさ」

「頑張ります」


死の国と仁の国の戦争か、何だか懐かしいな。


「なあ、この世界でも戦争ってあった?」

「はい、過去にはあったそうです」

「やっぱりあったんだ」

「と言っても、300年以上前の話しですけど」


レインがこっちに来てからは無いって事か。


「まあ、水面下ではいろいろあるみたいですが」

「そんなもんだろうな」


表だって戦争をしなければ、まだマシか。

魔物が脅威の世界で人同士が争うって、本当に愚かだ。



なんて話をして過ごしてると客が徐々に減っていき、1時間程して他の客が居なくなるとゲンキが出て来て扉に、休憩の看板をぶら下げ鍵を閉めた。


「待たせて悪い。じゃあさっそく行くか」


ゲンキの案内でカウンターから厨房に入り、その奥にある扉から地下へ続く階段を下りて行くとそこは、テニスコート2面分程の広さがある空間になっていた。


床も壁も天井もコンクリートのようで、頑丈そうだ。

天井までの高さは約15メートル。

埋め込まれた明かりが空間内を明るく照らしてる。


隅にはサンドバッグや、トレーニング器具が置かれており、普段からここで鍛えてるらしい。


「よし、じゃあキング、キジ丸さん、摸擬戦は撮影しても良いか? 後で見返すために」

「おう、良いぜ」

「ああ、良いよ」


了承しゲンキが撮影用のカメラを設置。

どうやら普段から動きの確認をするために、撮影はよくしてるとの事。


準備が整ったのでキングと俺は、空間の中心で6メートル程離れて対峙する。

するとゲンキがカメラの後ろで声を上げた。


「じゃあいつでも良いぞ!」


その言葉を聞いてキングは、ニヤっと笑みを深め口を開く。


「本当に強いのか、試させてもらうぜ?」

「あっ、ちなみに俺は、武器も使わないからな」

「……舐めてんのか?」

「刀を使えば一瞬で終わってしまうからね……そうだ」


俺はそう言ってインベントリから木刀を取り出す。

訓練で使っていた自作の木刀だ。


「これなら怪我はするけど死なないだろ……たぶん」


当たり所が悪ければ死ぬかもしれないが、魔力で強化してる相手なら頭を殴っても死なないだろう。


「木刀……切り裂いてやる」


キングは両手に変わった形の短剣を取り出し、腰を落として構えた。

柄を握った拳の部分を覆うような形で、緩やかに曲線を描く刃が伸びている。

ゲームには無かった武器だ。

面白い。

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