第88話 食堂ゲンキ。

特殊空間から外に出るとギンジの案内で友達がやってる店に向かい、昼飯を食べる事に。


到着した店は大学から10分程のメイン通りから1本中に入った、細い路地にあり、中世風の建物で木製の看板には、日本語とこの国の文字で『食堂ゲンキ』と書かれていた。


「ホログラムの看板じゃないんだな」

「こっちの方が馴染があるからって言ってましたね」


確かに、こっちの方が見慣れてるな。

それに何だが落ち着く。

ホログラムのサイバーパンク風も良いけど、これも良い。


さっそくギンジが扉を開けるとカランカランと鐘の音が響き、すぐさま中から声がした。


『いらっしゃいませー!』


中に入ると板張りの床に、木製のテーブルと椅子が並ぶ店内。

奥の左側にはカウンター席がある。

客もそれなりに入っており、ギンジが奥のカウンターへ向かって歩いて行くので後に付いて行くとカウンター内に居るポニーテールにした金髪の女の子と挨拶を交わしながら席に着くので俺も隣に座った。


「エミーちゃん、ゲンキ居る?」


店主の名前が店の名前か……俺と一緒だな。


「はい、父さん! ギンジさんですよー!」


するとカウンター奥にある暖簾を捲って短髪で金髪の男が顔を出す。


「おっ、ギンジか、いつもので良いか?」

「はい、あっ、師匠、同じので良いですか?」

「美味いなら良いぞ。それとビールか変わった酒があればそれを」

「じゃあ同じ奴をもう1つと『メリック』もお願いします」

「はいよ、ちょっと待っててくれ」


そう言って奥へ引っ込むゲンキ。


「今のがここの店長で友達のゲンキです」

「プレイヤーか?」

「はい、ちなみにエミーちゃんはゲンキの娘です」

「ほう」


カウンター内でグラスを拭いてるエミーちゃんを見る。

可愛らしい子だ。

プレイヤーの子供かぁ。


そこでふと気になっていた事を聞く。


「ギンジの殺された彼女ってプレイヤー?」

「いえ、この世界に来て知り合った子です」

「こっちに来て何年経つ?」

「……もうすぐ20年ですね」

「こっちに来てからの事、ざっくり聞いても良いか?」

「はい……」


ギンジは、約20年前、この街の近くで目を覚まし、すぐこの街に辿り着くと最初は、自分がどういう状況か飲み込めなくて大変だったらしい。

しかし、すぐ他のプレイヤーと出会えた事で落ち着く事が出来たそうだ。

そのプレイヤーがこの店の店主のゲンキだったという。


ゲンキはギンジよりも10年程早くこの世界に来てたらしく、いろいろ聞いて落ち着いたとの事。


「それでも、なぜ自分達がゲームキャラでこの世界に来たのかは、未だに分かりませんが」

「それは仕方ないだろ」


そんな漫画のような事が現実に起きても漫画と同じような理由とは思えないし、かと言って他に原因が思い浮かぶ訳でもない。

明らかに人知を超えた出来事だ。


その後ギンジは、ハンターになって賞金首を追いかけ回す日々を送り、その中で彼女と出会い、そして2人で獲物を追いかけ彼女が殺された。


「その追ってた獲物が人斬りリュウゼン?」

「はい……賞金額は『200万』でした。それで簡単に捕まえられると思ったのですが……」

「予想以上に強かったと」


頷くギンジ。


「そいつは何をして賞金首に?」

「殺しです。賞金首になるのは基本殺人犯です」

「そうなんだ」

「はい、他には強盗、強姦、そして窃盗ですがと言ってもひったくりや万引きは対象外です。高価な物、一定の価値がある物を盗んだ者は賞金が掛かり、指名手配されます」


へ~、そういう決まりがあるんだ。


「ハンターか……俺もなろうかな?」

「僕もハンターは続けてます。奴の情報が入って来るので」

「今はどこに居るんだろうな」

「北です」

「ん?」

「奴が言ってました。殺したければ追いかけて来い、魔の領域を超えた先で待ってると」


魔の領域を超えられる程の腕があるって事か。

いや、忍者の可能性があるんだっけ?

だったら超えられそうだな。


「魔の領域を超えられる程強くなって来いって事かな?」

「たぶんそうでしょう。必ずこの手で……」


そこで奥からゲンキが出て来た。


「ほいお待ち……なに殺気を撒き散らしてんだ?」

「あっ、すまない」


出されたのは、定食で皿に大きなステーキが乗っていた。

それと汁物にご飯、漬物まである。


「どうぞー、メリックです」


そう言ってエミーちゃんがウイスキーのような色の液体が入った瓶とグラスを、目の前にドンと置く。


「これがメリック?」

「果物から作った蒸留酒です」

「ほう、ではさっそく」

「あんたはどっかで見た事ある顔だな?」


ゲンキが俺を見ながらそう言うので、グラスと瓶を取りながら答えようとしたらギンジが言う。


「彼は、キジ丸さんですよ」

「キジ丸? ……っ!? ああ!! 最強プレイヤーのキジ丸だ!! 何でこんな所に居るんだ!?」

「父さん? 他のお客さんの迷惑だよ?」

「んあ? いやお前、最強が目の前に居るんだぞ?」

「ふ~ん……最強って何の?」

「俺達英雄のトップだ」

「いや、全てのプレイヤーと戦ってないから最強ではない……ん? 美味いなこの酒」


メリックをグラスに注いで一口飲むと、口に広がる柑橘系に近い果物の香りが口の中に広がり、鼻から抜けていく。

コクがあって濃厚。

そして果物の甘味が最後に残る。

良いね。


「美味しいですよね? 僕も偶に飲みます」

「じゃあ次は肉だな」


ナイフとフォークを持ち、ステーキを切って口に入れて噛むと、甘辛いタレの味が広がり、肉の旨味と甘い油が口いっぱいに広がる。

これはご飯にも酒にも合う!


「プハァ~、美味い!」

「だろ? っていうか何でこんな所に居るんだ?」

「魔の領域に行くためだよ」

「マジかよ」


そこでカランカランと鐘の音が響き、店に誰かが入って来た。


「おっ、これは面白い」


ゲンキは、入って来た者を見てニヤっとしながら言う。

そこでギンジも振り返ると。


「あっ、マズいですね」


いったい誰が入って来たのか振り返るとそこには、茶髪をオールバックにした男が笑顔でこちらに向かって来ていた。


「よう、ゲンキ、久しぶりだな」


知り合いか。


「おう『キング』お前この前言ってたよな?」


キングはギンジの隣に座りながら答える。


「よう、ギンジも来てたのか、それで? 何を言ったって?」

「最強プレイヤーの戦いは、全部フェイクだって」

「ん? あぁ、キジ丸だっけ? あれはフェイクだぞ? 俺が戦えば即終了だぜ?」


ゲンキはより一層いやらしい笑みを浮かべ告げる。


「なら試したらどうだ? そこに本人が居るしな」

「はっ? おっ、キジ丸じゃん。なあ、あれってフェイクだろ?」


異世界に来てまで動画の事を言うとは、どうでも良くね?


「さあ? 動画を自分で上げた事が無いし見た事無いから知らん」

「なら俺と一戦やろうぜ。これで俺が勝てば最強は俺だろ?」

「だな。どうだキジ丸さん?」


見た感じ弱そうなんだよなぁ。

あっ、魔力無しで術理の訓練には使えるか?


よし、やってやろう。

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