第87話 術理。
分身との戦いがいつもの訓練だと知ったギンジは、暫く固まっていたが戻って来たので話を進める。
「では、まず初めにやってもらうのは……感覚共有だ」
「完全な感覚共有ですか」
「慣れれば簡単だからそれに、完全な感覚共有をすれば経験が倍になる。2体の分身と感覚共有をすれば3倍だ」
「もしかして、ゲームならそれでスキルレベルを上げていたんですか?」
頷く俺。
「どうりで、他のプレイヤーより強い訳ですね。そんな方法があったとは知りませんでした」
「全てのプレイヤーと戦った訳じゃないから、俺が最強って訳じゃないけどな。とにかく、完全な感覚共有が出来るようにならないと話にならない。さっそく始めろ。俺は自分の訓練をしてるから分からない事があればいつでも聞いてこい」
「はい!」
そしてさっそく分身を2体出すギンジに俺は、最初は1体から始めろと注意し、自分の訓練に入る。
ミツキに言ったからな。
まずはいつも感覚でやってる術理というものを理解しないと、何も始まらない。
とは言っても、戦闘術スキルのお陰でいろんな武器の扱いや素手での戦闘に関しては、十分出来てるんだが。
キジ丸の記憶にも術理に関しては、そんなに無い。
これは感覚でやってたからだろう。
だが理解は出来てる。
それを意識出来るようになれば、もっと先へ行けるはず。
俺はいつもやってる型を、スローモーションのような動きで始めた。
それで改めて分かる事がある。
拳を突き出す時の重心や、踏み込みの力を全身を通して相手に伝える事。
これらをいつも感覚でやっていたんだと、自分自身に感心してしまう。
それに攻撃時の身体の構造、体勢も大事なんだと改めて理解し、より理解が深まっていく事が段々面白くなっていき、時間を忘れて太極拳のようにゆっくりと動いていると、攻撃をする対象があればもっと理解が深まるなと思い分身を1体出し、身体強化をして突っ立ったままの状態にする。
そうやって分身に何度も何度も身体の構造を意識して殴ったり、攻撃時の力の流れを意識して殴ったりを繰り返す。
そして約1時間後。
強化した分身の腹に拳を添えて腰を落とし、斜に構えた状態から力の流れを操り、触れた状態の拳をグッと押した瞬間、分身が5メートル程吹っ飛ぶが今のは、手首の角度がちょっと違ったな。
もう一度添え手首の角度を調整してグッと押した瞬間、分身が8メートル程吹っ飛んだ。
俺は押した瞬間の力の流れを思い返し、地面を蹴る足の角度をもう少し変えた方が良いかと微調整をしながら繰り返すと数回目の事。
分身の腹に添えた拳をグッと押した瞬間、衝撃波が発生したかのようにズンッ! と鈍い音と共に分身が壁まですっ飛んで行く。
「ヤバいな」
魔力を使っていない状態でこれだ。
今のに強化や魔力を流すと更に威力は上がるだろう。
寸勁や浸透勁はゲームでも使ってたが、その時はここまで威力は無かった。
魔力を使ってたし、感覚でやってたからな。
だが術理の理解が深まると、魔力が無くてもここまで威力は出る。
術理は少ない力で最大の力を発揮する事が可能。
そのため、疲れず長い戦闘が可能になるのだ。
「術理って面白い」
よし、次は刀の術理だ。
刀も戦闘術スキルのお陰で使い方は、感覚で分かっていた。
素振りをする時はいつも、腕の力を使わず身体で振るイメージでやっているが戦闘の時はたまに、体勢によっては腕で振る事もある。
俺は刀を取り出し、中段の構えを取り、ゆっくり振り上げるとゆっくり振り下ろすというのを何度か繰り返す。
時々斬り上げてみたりしながら姿勢や、切先をジッと見つめながら振り続ける。
その途中、徐々に腕の力を抜き、身体で刀を振り続けながら思考を巡らせているとふと気になる事があり、インベントリに入ってる木材を取り出し、土で作った台に置くと正面に立ち、上段の構えで意識を集中させてただまっすぐ振り下ろす。
すると長さ50センチ、横幅20センチ、厚み5センチの木材が斬れずに、刀によって弾かれ飛んで行く。
「なるほど」
今のは魔力を使わずただ振り下ろしただけの攻撃。
だがそれで分かった事が幾つかある。
ただ木材を斬るなら魔力を流して振り下ろせば、簡単に斬れるが魔力が無いとこの有様だ。
まあ、刀で木材を斬る必要は無いがこれは、木材程の硬さを持つ魔物には、通用しないって事だな。
魔力を流せば斬れるがもし魔力を使い果たしたら?
そんな状況もあり得る。
俺はもう一度木材を置き、今度は力の流れや姿勢を意識し、腕の力を一切使わず身体を使って振り下ろす。
すると台に当たるギリギリで刀をピタッと止めると木材は、綺麗に真っ二つになった。
魔力を使わず術理だけで斬るって難しいね。
でも、術理を理解して訓練すれば、どんなモノも斬れるはず。
『斬る』事をもっと追及しないとな。
そう言えば刀で斬る時、ブレる事なく真っ直ぐ素早く伝えれば鉄も斬れると何かで読んだ事がある。
漫画だったかな?
俺は刀を見ていつか魔力を使わず、鉄を斬れるようになろうと決意し、更に術理の訓練を続けた。
それから更に1時間程経った頃、ギンジが声を掛けて来る。
「師匠」
「いきなり師匠呼びか……で? どうした?」
「感覚共有をしながら本体も動かすとどうしても混乱してしまうんですが、どうすれば良いんでしょう?」
「分身で話す事は出来る?」
「はい」
「なら分身と会話してみな」
「分身と会話、ですか?」
「ああ、分身を別のキャラにして本体である自分と会話するんだ」
するとギンジは苦笑いを浮かべる。
「恥ずかしいとか思ってるんだろ?」
「すみません。結局は自分と会話してる画を想像してしまって」
「客観的に見て別人に見えるようになるまでやってみろ。俺も最初は混乱したが分身、ハンゾウという人物を頭の中で作ってそれになり切る事で、混乱しなくなったぞ」
「なり切るですか……演じるという事ですか?」
「そうとも言う。ギンジも忍者や変装した時はなり切るだろ?」
「あぁ……なるほど、感覚共有なのでどうしても同一に考えてました」
「慣れれば自然と出来るようになるさ」
「ありがとうございます」
「そろそろ昼だし、飯を食ってから続きをやろうか……って、ギンジ、大学の講義は大丈夫か?」
「はい、今日は休みなので」
どうりで何も言わなかった訳だ。
「今後の訓練場所を探しとけよ? 今日は俺の特殊空間を使ったけど、いつも使える訳じゃないからな?」
「はい、大学の訓練場を使うつもりです」
「いや、それだと忍者ってバレるだろ」
「大丈夫です。自分専用の訓練場があるので」
「専用があんの!? スゲーな」
「講師それぞれにあります」
大学スゲーな。
とりあえず昼飯にするか。
「一旦戻って飯にしよう。どっか美味い飯屋知ってる?」
「それなら友達がやってる店がおすすめです。案内します」
「よし、行こう」
そう言って大学の門へ転移した。
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