第86話 最強の秘密。
いずれ両親の下へ帰ると言った教授。
帰る方法はあるのか聞くと。
「さっぱり分からんな」
「長年帰る方法を探してるんだろ? それでも何も分からないと?」
「そもそも、私達がどうやってこの世界に来たのかすら分かってないんだ。全員ゲームで使っていたアバターで現実に生きている。GFWがほぼ現実に近いゲームだと言っても所詮データだ。なのにそのデータが現実になるなんて現象、まったく聞いた事が無い。漫画などではあったけどね」
まあ確かに、俺も聞いた事は無いな。
……ん?
「データが現実になるって3Dプリンターみたいだな」
「3Dプリンターか……近いと言えばそうだが中身はまったく違う。だが3Dプリンターを、4D、5Dにすればデータの生物を再現出来るようになるのかも? いや、やはり魂は作れないか」
「でも俺達はここに存在してる」
「あぁ、それは間違い無い。私は既に100年以上この世界に存在してるからね」
「100年以上か……」
「この世界に来た時の私は、まだ18歳だったよ。若かったねぇ~」
「見た目は今も若いけど」
「はは、これはゲームで不老になったままだからね……まあ、いつか必ず地球に帰るつもりだよ」
「そのために魔の領域の研究を?」
「他にもいろいろ調べてるけど、何の手がかりも無い状態がかれこれ100年は続いてるね」
それでも諦めず、帰る方法を探していると……帰る方法か。
「やっぱり転移系の魔法が鍵かな?」
「どうだろう? 転移で次元を超えるなんて事が出来るとは思えないが」
「いや、教授は時空属性を使える?」
頷く教授。
「なら特殊空間を作れるだろ?」
「ん? なんだいそれは?」
あれ?
知らない?
全員が知ってる訳じゃないのかと思い、特殊空間について説明した。
「なるほど、別の次元に空間を作り、そこに出入りが出来ると……なら次元を超えて地球へ帰る事も出来る可能性はあるな」
「俺も帰る方法は探してみるよ。何か分かれば知らせる」
「それは有難い。ではこれを、私の連絡IDだ」
そう言ってリングを起動させ、ホログラムでIDが書かれた画面を表示させるので登録しておく。
俺のIDも教えておいたぞ。
「いろいろ教えてくれてありがとう」
「いやいや、役に立ったのなら幸いだ」
「必ず地球へ帰る手がかりを見つけてやる」
「はは、期待して待ってるよ。勿論、私自身も探すけどな」
「ああ……じゃあハンゾウ、行こうか」
「はっ! ……ギンジ」
「はい」
「主に付いていけ」
「はい!」
そう言って分身を影に沈め解除。
「じゃあギンジも行こうか」
「はい」
「ギンジ君、しっかりやるんだよ?」
「ありがとうございます」
「では教授、また」
「ああ、いつでも来てくれ」
そう言って席を立ち、ギンジと一緒に部屋を後にした。
部屋を出て廊下を歩きながら少し後ろを歩くギンジに話し掛ける。
「よし、さっそく訓練しようか」
「キジ丸さんが?」
「あぁ、後で説明する。とりあえず場所を移そう」
そこで転移を発動させ、広い洞窟のような特殊空間へ移動した。
突然景色が変わった事で一瞬固まるギンジだが、周囲を見回して危険が無い事を理解したのか、落ち着いた状態で口を開く。
「転移ですか?」
「ああ」
返事をしながら横に、ハンゾウを出すとギンジは、すぐさま片膝を突き頭を下げる。
これから印を刻んで縛りを付けるつもりだがその前に、少し試したい事があるのだ。
「ギンジ、ちょっと立ってくれ」
チラっとハンゾウを見るので頷いておく。
するとスッと立ち上がったので前に行き、右手を差し出す。
何がしたいのか分からないといった感じでギンジは、首を傾げるが手の形を見て握手だろうと思ったようで右手を出したので掴むとその瞬間、握手をしてる手の周囲に印のようなものが手から出てグルグル回り、3秒程で治まり手の中に消えた。
ギンジはそれを見て目を見開き、手と俺を交互に見る。
これはゲームの時にあった『忍びの誓』というやつだ。
忍者同士が握手をすると発動し、互いの正体を他の人に話せなくなるのだが、現実になったこの世界でも発動した事に驚いてる様子。
そうそう、クレナイに聞いたら俺の正体を知ってるのは、あそこに居た連中だけなので縛りにした。
「やっぱりな」
「えっ、あの、あれ?」
ギンジは絶賛混乱中。
俺は何となく感覚で出来るのでは? と思ったのだ。
掟はゲームシステムだがこの忍びの誓は、アバターや人同士が接触して起こる現象なので、アバター依存のシステムなら今も出来ると思ったが、どうやら的中したようだな。
しかも忍びの誓が終わった後、互いに話せない事を自然と理解出来た。
これはゲームの時には無かった現象だが、現実になった影響なのかも?
「……今のって忍びの誓? ですよね?」
「ああ」
「この世界でも発動するのは知らなかった……って、キジ丸さんが忍者だとは思わなかった。それでハンゾウさんと知り合ったんですね?」
「いや……」
俺は目の前でハンゾウを解除し、霧のように四散させる。
「……分身?」
「そう、俺の分身」
すると今まで以上に目を見開き、口を開けて固まるギンジ。
これは面白い。
「じ、じゃあ、ハンゾウさんってもしかして……」
「そのとおり、俺の事だ」
「…………いやでも、さっきキジ丸さんの横でハンゾウさんが話してましたよね!? あれ? どういう事?」
「はははは! あれも俺がハンゾウで話してたんだよ。ってか感覚共有は知ってるだろ?」
「感覚共有? 分身と感覚を共有出来るやつですよね? でもあれは話せないはずですが?」
あぁ、俺もゲームでは最初、そう思ってたよ。
でも違うんだなぁ。
「感覚共有は、全ての感覚を共有する事が出来る」
「はい、それは知ってます。ですがそれは本体が動けなくなりますよね?」
「出来るんだなこれが」
「…………知らなかった」
「まあ、感覚共有をしながら本体で動くのは最初、かなり混乱するよな? でも、慣れると案外簡単だぞ? 俺は最高、分身10体と感覚共有をしながら動けるからね」
「……つまりハンゾウさんは、キジ丸さんで、キジ丸さんが本体というわけですか?」
「そのとおり」
「……えっ、ちょっと待ってください、つまりあの大会の動画で最後戦ったのって」
「おう、分身といつもどおりの訓練をしただけだ」
またまた固まってしまったギンジが数秒後、呟く。
「……あれが訓練」
分身を使えば今も出来るぞ?
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