第85話 ギンジの目的。
いや、まさか弟子にしてくれって言われるとは思わなかった。
まあ、ハンゾウで弟子は取らないんだけどね。
「それは無理だ」
「どうしてですか?」
「拙者は弟子を取らん」
「忍者の弟子は取らないという事ですか?」
分身で頷く。
するとギンジは、浮いていた腰を下ろしソファに座るとキジ丸の俺を見て言う。
「すみません、先程は嘘を吐きました」
俺は首を傾げる。
「僕はゲームでは、忍者としてプレイしていました」
忍者だった事を言うとはな。
ゲームシステムが無いから掟も発動しないが、忍者としてそれはどうかと思うぞ?
「へ~、忍者なんだ」
そこでギンジは、ソファから降りてハンゾウの横で片膝を突き、もう一度弟子にして下さいと頭を下げた。
教授を見ると俺の視線に気付いたのか、笑いながら口を開く。
「ギンジ君が忍者なのは知ってるよ。ゲームの時は掟があって誰にも言えなかったそうだが今は、それが無いそうだ」
落ち着いていたので知ってるとは思ったけど、掟の事も話したんだな。
ゲームの時は言えなかった事が言えるようになれば、そりゃ話したくなるのも分かるが……。
「他にギンジが忍者だと知ってる人は?」
俺が聞くとギンジが顔を上げ答える。
「スズカさん以外だと、2人です」
「なるほど、それはどちらもプレイヤー?」
「はい」
うむ……2人のプレイヤーなら大丈夫かな?
「口止めはしてある?」
「はい、信用した相手にしか言ってません」
「俺は良いんだ?」
「ハンゾウさんの主ですから信用はしてます」
簡単に信用し過ぎだろ。
ちょっと危ないな。
と、思っていると教授が言う。
「ギンジ君は信用出来る。私が保証するよ」
「その根拠は?」
「長い付き合いだからね。十分信用出来るさ」
そういう事じゃないんだよなぁ。
ギンジが俺の正体が忍者だと分かった時、それを誰にも言わないのかって話だ。
ゲームシステムの掟は無いが掟は掟。
それを破れば忍者ではない。
これはおそらくキジ丸としての感覚だろう。
俺が忍者だと正体をバラしても問題は無いが言わない一番の理由は、自分が忍者であるために、掟を破るつもりは無いって感じかな?
さて、どうしたものか……俺の弟子なら良いんだけどハンゾウの弟子はなぁ。
まだ信用は出来ないんだよねぇ。
「どうか、お願いします」
頭を下げて言うギンジを見てふと気になった事がある。
「そこまでしてハンゾウの弟子になりたい理由は?」
すると頭を下げたまま話し始めた。
「……仇を討ちたいんです」
「仇? 誰の?」
「……12年前、付き合っていた彼女です」
「その仇が強いの?」
「はい『人斬りリュウゼン』と呼ばれている賞金首です」
人斬り……この世界にも人斬りが居るのか。
ゲームの時は、侍の住人が人斬りになってたが、人斬りになった者は例外なく強い。
まあ、力に溺れて弱くなる奴も居たけど。
「そいつはプレイヤー?」
「分かりません。ですが、かなりの強さでした」
「戦った事があるのか?」
「一度、彼女を目の前で殺された時」
「なるほど……そいつは俺よりも強いかな?」
「えっ?」
俺の言葉にキョトンとする2人。
「キジ丸氏は、戦闘狂なのかい?」
「いや違うけど?」
フレンドには、訓練狂って言われたけどね。
「ただ、自分よりも強い奴が居るなら嬉しい事じゃん? 自分もまだまだ強くなれるって事だからな」
「……フッ、フハハハハハハハハ!!! 最強とはそういう思考をしてるのか、面白いな」
「そうか? 普通だと思うが」
「いやいや、普通の人は近づかないようにしたり、怖がるのが普通だ。しかも、自分より強いなら猶更嬉しいとは……君が最強プレイヤーである理由が少し分かった気がするよ」
そうかなぁ?
そういうプレイヤーは、俺の周りには多かった気がするけど?
ゼロもそうだし、半裸の男もそうだったな。
そこでギンジは口を開く。
「キジ丸さんの強さは動画で見ただけですが、おそらくキジ丸さんでは勝てないと思います」
「ほう、そんなに強いのか」
目を細めてニヤっと笑う。
しかしギンジは首を横に振り答える。
「いえ、相性の問題です」
「相性? 人斬りなら侍だろ? 俺も侍だぞ?」
「いえ、奴は忍者の可能性が高い」
「忍者の人斬り?」
それって裏の忍びじゃね?
ゲームにも居た、落ちた忍者。
ちなみに人斬りは、落ちた侍の事を言う。
ギンジの話しによるとリュウゼンは、空蝉術を使ったらしい。
空蝉術は、攻撃が当たる直前に発動すると、残像を残し相手の背後に瞬間移動する忍者スキルだ。
確かにそれを使ったなら忍者である証拠だが……。
「僕の攻撃は、全て躱されて最後は、空蝉術で背後に回られ背中から胸を貫かれました」
「よく生きてたな」
「奴がわざと急所を外したんです。そして去り際『俺を殺しに来い。待ってるぞ』と言っていました」
その後、傷を治して追いかけようとしたが、今の自分じゃ勝てないと思い、ずっと鍛えてきたらしい。
「それでも勝てないと?」
「奴の動き、技、全てが格上です。あの時も奴は、手を抜いていたようでした」
ほうほう、それほどの者が居るとはね。
人斬りリュウゼンか……是非戦ってみたい。
といっても、ギンジの獲物だからな。
うむ、どうすれば戦えるか……よし。
「ハンゾウ、ギンジを弟子にしてやれ」
「承知」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!!」
「主の命ならば仕方ない。ただしギンジとやら、生易しいものではないぞ?」
「はい! よろしくお願いします!!」
別に戦えなくても戦闘が見れるなら良い。
ギンジがやられそうなら、俺が戦えるかもしれないし。
「キジ丸氏、良いのかい?」
「ああ、まあ、いろいろ誓約はあるけどな」
「誓約?」
ここからハンゾウで答える。
「拙者の技を流出させないために誓約を受けてもらう」
「分かりました」
「誰かに話せば……」
「はい、その時は命を落とすという事ですね?」
ハンゾウで頷く。
「私が話を聞いてるのは良いのかい?」
教授が笑いながらそう言うので、キジ丸で答える。
「教授は誰かに言わないだろ? 勿論、言えば……」
「おおコワ……安心しろ、こう見えて私は口が堅い。今後、私から2人の関係が漏れる事は無いと両親に誓おう」
「両親? こっちに居んの?」
「いや……だがいずれ、帰るさ」
あぁ、地球に帰ろうとしてるんだな。
その辺りもちょっと聞いておこう。
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