第83話 講師と教授。

大学敷地内の中央校舎に教授が居るらしく、行き交う学生達に混じってのんびり歩いて向かう。


運動場でサッカーをしている学生や、バスケ、テニスコートもあってスカート姿の女の子がテニスをしてるのを遠目から視力を強化し、じっくり眺めながら歩いてると、前から声を掛けられる。


「あの、もしかしてキジ丸さんですか?」


視力強化を解いて前を向くとそこには、肩ぐらいまである金髪を後ろで縛ってるイケメンが立っていた。

服装は、青いTシャツにカーキ色のズボンと普通の格好をした男だ。


だが、こちらに向かって歩いて来る姿を見てかなり出来る奴だと分かる。

歩く時の重心がブレていない。

相当身体操作に長けてるな。


「そうだけど、君は?」

「すみません、僕は『ギンジ』でこの大学で講師をしてます」


そう言って頭を下げるギンジ。

しかし、まさか講師とはね。

学生かと思ってたよ。

それよりギンジってどっかで聞いた事ある名前だな。


「講師ね……俺の事を知ってるって事は、元プレイヤー?」


頷くギンジ。


「不老ですか」

「はい、ゲームの時から不老ですね。それより、まさかこんな所でキジ丸さんに会えるとは思ってなかったです」

「ちょっと教授に話を聞きたくて」

「教授? スズカさんですか?」

「はい、魔の領域について研究してると聞いたので」

「あぁ……もしかして魔の領域に行く気ですか?」

「まあ、それで行く前に知ってる人の話を聞いておこうと思いまして」

「僕も行った事ありますが、あそこは止めた方が良いですよ。命が幾つあっても足らないような場所です」


ほう、結構強そうなギンジがそう言うって事は、相当ヤバい所なのか。


「ギンジさんも結構強いと思いますけど、それでも?」

「いやいや、僕は全然ですよ……10年程前に一度試しに行ってみたんですけど、1時間も経たない内に撤退する事になりました」

「それは1人で?」

「はい、ゲームの時からソロだったので、ちなみに僕は素手で戦います。まあ、それで厳しかったんですけどね」


そう言って笑うギンジ。


「ギンジさんも一緒に教授の所に行きませんか?」

「僕がですか?」

「はい、ギンジさんの話も聞きたいので」


すると少し考えて答える。


「そうですね……良いですよ。僕もキジ丸さんに聞きたい事があるので」

「聞きたい事?」

「ええ、どうやったらあんなに強くなれるのか? とかですね」

「ただ訓練をしただけですよ」

「どんな訓練を?」

「あぁ、じゃあ教授の所に向かいながら話しましょうか」

「あっ、そうですね。案内します」


それからギンジの案内で教授の所へ向かう途中、俺がどんな訓練をしていたのかざっくり説明した。



加重、訓練モードを使った戦闘訓練、閻魔鉱の装備を使った負荷トレーニング等々。

一通り話を聞いたギンジが口を開く。

勿論隣に並んで歩きながらだ。


「……その閻魔鉱というのはどんな鉱石ですか?」

「ぱっと見は漆黒だけど、よく見ると表面がキラキラ細かい粒子が輝いてますね」

「あっ、もしかして『マナ鉱石』の事ですか?」

「そうそう、地域によって言い方が変わるんですよね。確かマナ鉱石とも言います」

「なるほど、あれなら確かに訓練には丁度良いかも? でも確か、ピンポン玉サイズでもかなり重かったはずですが」

「1つ4トン程ある物を両手両足に装備して普段どおりに動く訓練です」

「4トン……そりゃあそこまで強くなるのも頷けますね。とここです」


なんて話をしてると教授の部屋の前に到着し、ギンジがノックするが返事が無い。

ギンジは俺を見て苦笑いを浮かべる。


「研究に没頭してるか寝てますね」


俺は既に魔力感知、気配察知、空間感知で中に1人居る事は把握済みだ。

空間感知で確かめると、椅子に座り本を読んでいるようだな。

集中力が凄いのかも?


「本を読んでるみたいですね」

「分かるのですか?」

「はい、そういうスキルを持ってるので」

「良いですね……教授」


そう言って扉を開けるギンジ。

扉を開けると中は、あっちこっちに本や紙の束が積み上げられており、変な機械も置かれていた。


部屋の広さは、約16メートル四方の真四角の形をしてる。

奥の壁意外には棚が並び、資料や本などが詰め込まれ、入って右手にはソファが2つとテーブル。

左手にはダイニングテーブルのようなテーブルと椅子が4つ。

どちらのテーブルの上にも本と紙の束が積まれている状態。


そして正面奥にはL字型の机が置かれ、その上には薄く大きな液晶画面が3台置かれ、周囲には本とファイルの束が積まれている。

そんなL字の執務机の席に座り、後ろの窓側を向いて本を読んでいる茶色に近い赤髪で長い髪をした女が座っていた。


「教授、お客さんですよ」


奥へ進みながらギンジが声を掛けるがまったく反応無し。


「教授? ……スズカさん!」

「んあ? おや、ギンジ君、久しぶりだね」


振り向いた女は、見た目は女子高生くらいの女の子で眠たそうな目をしており可愛い。

服装がブカブカのTシャツを着ており、かなりだらしなく見える。

これが教授か。


「お客さんですよ」

「ん? ……キミどこかで会った事があったかな?」

「いや、初めてですね」

「はて? 見覚えがあるような無いような……」

「スズカさん、彼はキジ丸さんです。GFWで最強のプレイヤーですよ」

「GFW……ああ!! キジ丸氏!! そうだそうだ。大会で優勝して最強忍者と戦ったプレイヤー……が、なぜここに?」


そう言って手に持っていた本を閉じて机の上に置く。


「魔の領域について話しを聞きたくて」

「あぁ、さっき連絡があった客か、まさかキジ丸氏とはな……もしかして、魔の領域に行くのかい?」


眠たそうな目をキラキラさせて聞いてくる教授。


「はい、それで魔の領域について聞きたくて来ました」


すると真剣な表情を浮かべて言う。


「死ぬよ?」


なので俺は、余所行きの格好を止めてニヤっと笑みを浮かべ答える。


「良い訓練になりそうだ」


俺の言葉を聞いてキョトンとする2人。

少しして。


「プッ……アハハハハハハハハ!!!」

「スズカさん?」

「アハハハハ……はぁ~、久しぶりに涙が出る程笑ったよ」

「大丈夫ですかスズカさん?」

「ああ、大丈夫……流石最強プレイヤーだね。言う事が違う」

「教授、魔の領域について聞かせてくれ、どんな場所なんだ?」


すると教授は、笑みを浮かべ告げる。


「魔の領域は、その名のとおり、魔物の領域だよ。ただし……その数、強さはゲームの時とは桁が違う」

「ほう、どう違うのかな?」

「あそこには、数百万いや、下手したら数千万の魔物が居る。小さい魔物からビルより大きな魔物、人が入る隙なんてどこにも無いのさ」


話を聞く限り、ゲームの魔の領域とは明らかに違うな。

ゲームだと、魔の領域内に影の里があった。

影の里とは忍びの里の事である。


教授の話だと、この世界の魔の領域には、人が入る隙間が無いらしい。

もっと詳しく聞かせてもらおうか。

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