4章

第82話 臨機応変に。

アバッテ王国の街中を1人ブラブラ歩きながら観光をし、気になった店に入っては商品を眺める。


そんな中、本屋に入って本棚に並んでいる漫画を見ながら気になった表紙の漫画に、リングを起動させて文字を読み込む。


「『君への思い』恋愛漫画か」


このアバッテ王国で使われている文字は、カリムス王国で見た文字と同じでカリムス王国は基本日本語だが中には、見知らぬ文字が使われていた。

その見知らぬ文字がこの国では、基本の文字となっており読めないので、リングを使って翻訳してるのだ。


ちなみに通貨もカリムス王国とは違う。

一応アバッテ王国も紙幣と硬貨だが、通貨は『レグ』というらしい。

カリムス王国は『エネ』Eと表示されていたが『1E』がだいたい『100L』なんだとさ。


日本とアメリカなら円高になるが、こっちだとレグ高?

とはならない。

これでもレグ安だとアキオが言っていた。

経済はよく分からん。


リングで支払いをする時は、自動で両替がされるそうでかなり楽だ。

シュートが俺のIDを作る時、口座も作ったらしく既にいくらか顧問料が入金されていた。

まあ、こっちに来てまだ何も買ってないけどね。

ただ商品を見てるだけである。


話す言葉は日本語に聞こえるのはおそらく、ゲームの時の翻訳が生きてると思う。

ハッキリとした理由は分からないが。

ゲームシステムは無いのに翻訳されてるのは、ゲームシステムでもアバター依存のシステムだから?

……やっぱり謎だ。


既にシュートとアキオは国へ帰った。

昨日飯を食った後、観光をして今日の朝一の列車で帰ったよ。

見送ってから俺は、1人街中をブラブラしてる最中だ。



街の中にはまだ中世風の建物が残っており、昔ながらの酒場も残っている。

まだ午前中なので閉まってるが。


街の中心に西洋風の城があってその周囲が貴族街になってるらしい。

カリムス王国に貴族は居ないが、アバッテ王国にはまだ貴族文化が残ってるようだな。

貴族街は高さ約50メートル程ある石壁に囲まれ東西南北に門があり、許可証が無いと入れないとの事。

これはネットにある情報である。


噴水がある広場に到着するとあっちこっちに屋台があり、良い匂いをさせていた。

スーツを着た人や、ラッパーのような恰好をした人が音楽を流しながらダンスをしていたりとここだけ見ると地球と大して変わらない。


俺はホットドックの屋台に寄っておっちゃんに声を掛ける。


「どうも、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「いらっしゃい」

「あぁ~、ホットドック5つ」

「はいよー。で? 何を聞きたいんだい?」


手は止めず言うので北にある、魔物の事を聞いてみた。


「魔の領域の何が聞きたいのかな? 魔物が大量に居るってだけの場所だよ?」


この世界でも魔の領域と呼ばれる場所があるのか。


「そこを通って北には行けないのかなぁと思って」

「はは、そりゃただ死にに行くようなもんだよ。私も詳しくは知らないけど、行けば必ず死ぬって聞いた事があるね……はいお待ち」


出されたホットドックを収納する。


「どうも……その魔の領域に詳しい人は居るかな?」

「ん~、軍の人なら詳しいと思うけど、後は大学の教授くらいかな? 『スズカ・オオミネ』っていうほら、テレビにもたまに出てる人」


テレビを見てないから知らんが、名前からして元プレイヤーだな。


「100年以上魔の領域について研究してる英雄だよ」


しかも不老か?

いや、婆さんの可能性もあるか。


「その人はどこに行けば会える?」

「そりゃ大学に行けば居ると思うよ?」

「確かに……ありがとう。また寄るよ」

「またどうぞー」


笑顔で言うおっちゃんに笑顔を返し、歩き出してすぐリングを起動してネットでスズカを検索すると国立中央大学で教授をしてると判明。

すぐさまマップで大学を検索すると結構近くにある事が分かり、のんびり歩いて向かう事に。


広場から出てホットドックを食べながら中央を目指して歩いていると、リングに通信が来た。

ミツキからだ。


『おう、どうした?』

『あの、今どこに?』

『アバッテ王国だけど?』

『では訓練は出来ませんね』

『ん? 縛りの訓練を続けてるんだろ?』

『はい』

『なら十分だと思うけど?』

『えっ、戦い方とかは?』

『それは自分に合った戦い方を自分で探すもんだろ。こういう時はこう避けるとか一々教えないと出来ないのか?』

『いえ、てっきり型のようなものがあると思ってたので』


あぁ、空手とかの型ね。

武術などの型には、攻撃と防御の全てが含まれているからな。

俺も型の訓練はするがそれは、戦闘術スキルで分かる動きをしてるだけで、これと決まった型は無い。

忍者は臨機応変に戦うのだ。


と言っても、俺が作った流派の型くらいは作った方が良いのか?

ああいうのって術理が組み込まれてるらしいが、俺の流派の術理は……基本魔力制御なんだよなぁ。


まあ、動きは戦闘術を基にしてるから術理は自然と含まれてるけど、次からはその辺りもちゃんと意識してやってみるか。

そうすれば俺も自然とやってる事がより深く理解出来て、教えられるようになるはず。


『今度型を作ってみるよ』

『無いなら別に大丈夫ですよ?』

『いや、ちゃんと術理を組み込んだ型を作る』

『じゃあ、それまでは今までどおりの訓練を続けていれば大丈夫ですか?』

『そうだな。式紙で分身を作って戦闘訓練をしていれば良い。縛りは忘れないように、あと出来れば加重も始めろ』

『あぁ、あれですか。全然加重の効果が小さいんですよね』

『最初はそうだろうが続けていれば強くなる』


いや、ゲームの時はそうだったけど現実になった今は……大丈夫だな。

繰り返し使っていれば成長する。

これはキジ丸の記憶で分かった。

現実になろうがどんな事でも、使わないと成長はしない。


『分かりました。今からやってみます』

『おう、サボるなよ?』

『はい!』


そう言って念話を終了。

型か……術理ねぇ。



なんて思いながら歩いてると大学に到着。

国立中央大学は、高さ約6メートルの石ブロックの壁に囲まれ、その敷地は東京ドーム約2個分。

南と東西に門があり、5階建ての長い建物が幾つも並び、1つ10階建ての高い建物が中央にある。


いろんな施設があるらしく、運動場、体育館、研究所、図書館、娯楽施設といった感じに、敷地内に街があるような造りだ。


俺は西門側に居てさっそく門から入ろうとしたら、警備員に止められた。

ちなみに門は鉄製の両開きで開いた状態だ。

高さ約8メートル、幅約6メートルの門。


門の左側には、警備員が詰めてる窓が付いた小さな建物。

中に1人と門の両脇に1人ずつ立っている。

俺を止めたのは右側に立ってる警備員だ。


「何の御用ですか?」

「えーっと、スズカ・オオミネ教授は居ますか?」


すると一瞬反応を示す。


「……教授になんの御用でしょう?」

「ちょっと魔の領域について聞きたくて、あっ、ちなみに私はこういう者です」


そう言ってIDを見せる。


「……特別顧問?」

「中に入れますかね?」

「おい、どうした?」


すると左側に立っていた警備員が近寄って来た。


「あっ、この人が教授に会いたいと」

「失礼ですがアポは?」

「いえ、昨日この国に来て先程教授の存在を知り、話を訊ければと思い来たんですが」

「そうですか、教授は忙しい方なので……ちょっと聞いてみます。少々お待ち下さい」

「ありがとうございます」


すると詰所に居る警備員と何やらやり取りをし、数分後こちらに戻って来ると。


「教授が会うとの事なのでどうぞ。あっ、これを首からぶら下げておいてください」


そう言ってプレートの付いた物を渡されたので首からぶら下げ、教授の居る建物の場所を聞いて門を潜った。


どんな話が訊けるかなぁ。

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