第81話 別の道。

特殊空間を使った連絡方法は、使い魔で連絡を取る。

クレナイの手首に入れ墨のような、黒い線を入れた。


「これで連絡が取れるのか?」

「ああ、それは使い魔だ。盗聴は出来ないから安心しろ」

「なるほど……」


使い魔といっても生物を模ったものではなく、目は無いので音だけを送れる仕組みだ。

中継地点となる特殊空間に、クレナイからの通信を受信する使い魔を設置し、それと感覚共有をしておけばいつでも話せる。


続いて後ろを向いてもらい、クレナイの背中に魔力で時空属性の印を刻む。


「ん? 熱い」

「使い魔とは違って刻んだからな。これで歳は取らなくなったぞ」

「こんな簡単に……ウルの時は、契約書にサインしたりしたが」

「それはまた違う方法だからだろ? 言っとくが俺以外の者が背中の印を真似しても不老には出来ないからな?」

「そうなのか?」

「ああ、その印の中に時空属性の魔力が込められてるからな」

「俺も印は使うから分かる……よし、じゃあ俺は一旦ヴァルハラに戻る。オーズも来いよ」

「分かった」

「ほら、お前らもやってやるから後ろ向け。ちなみに裏切ったら一気に爺さんになる術式を組み込んであるからな」

「えっ!?」


振り向くオーズを無理やり前に向かせ、背中に印を刻む。

クレナイも驚いた表情をしてたがニヤっと笑みを浮かべるだけで、黒ずくめ達にも同じように印を刻んだ。


はい、裏切ったら印を消すだけで、爺さんになったりはしません。

ただの脅しです。



全員に印を刻み終わるとクレナイに、ヴァルハラへ戻ったらゼルメアがあるのか調べられたら調べてほしいと言い、了承したので影に潜って影渡りで店に戻る。


カウンター席でまたビールを飲んでるシュートの影から出ると、アキオの隣に座り飯を注文。

結局飯を食えなかったからな。


「遅かったな」


と、ビールを飲みながら言うアキオ。


「で? クレナイはどうした?」


ビールを流し込み、そう聞いてくるシュート。


「ヴァルハラに戻ったよ。今後カリムス王国には手出ししないとさ」

「信用出来るのか?」

「ああ、カリムス王国に手を出してたのはトップのウルだからな。そいつも死んだからもう大丈夫だろ」


するとアキオが。


「じゃあ、観光して明日帰るか」

「ってかお前ら、何もしてねぇじゃん」

「はは、アジトに乗り込むんだぞ? もしもの場合を考慮して付いて来ただけだから」


相手が暴れたらって事ね。

まあそれでも、俺だけで終わらせたけど。

幹部がもっと居たら危なかったかもな。


そこで俺は、明日帰るというアキオの言葉に答える。


「明日はお前らだけで帰ってくれ、俺は残る」

「何すんだ?」

「観光?」


アキオの言葉に首を横に振り答えた。


「北へ行く道を探す」

「キジ丸なら行けるんだろ?」


シュートがそう言うので頷く。


「ああ、だがそれじゃ意味が無い」

「意味が無い?」

「どういう事?」

「誰もが行けるような道を探すって事だ」


特定の者しか行き来出来ない状況は、良くない。

誰もが行き来出来るようにしないとね。

まあ、そんな道があれば既に発見されてるだろうけど。


「長年探してるが誰も発見出来てないぞ?」

「分かってるよ。だから俺とハンゾウが探すか作る」

「作る?」

「キジ丸が?」

「どうなるのかは現地を見てみないと分からんが、ここからだと北になるのか? 大量の魔物が居るって所は? そこを通れるようにしようかと思ってる」


俺の言葉に固まる2人。

先に口を開いたのはアキオだった。


「いやいやいや、流石にキジ丸でもそれは無理だろ」

「だな、死にに行くようなもんだぞ?」

「俺にはハンゾウも居るから大丈夫。もし危なくなったらすぐ逃げられる」

「あぁ、ハンゾウのあの技なら行けるか?」


シュートが何かを思い出しながらそんな事を呟く。

するとアキオも、何か思い出したのか納得するように頷いた。


「あれか」

「何の事を言ってんの?」

「ほれ、精霊魔王を倒したあの技、大陸に大穴を空けた」

「あぁ、神星か」

「そうそう、それ」

「あれなら大量の魔物を一気に始末出来るんじゃねぇか?」


シュートの言葉を聞いて少し考える。

もし神星を使えば、確実に大陸に大穴が空く。

ゲームで精霊魔王に使った時は、直径約数キロで深さも数キロあった。

あれを大量の魔物が居る所に落とすか……いや、ダメだな。

地形が変わってしまう。


精霊魔王の時はゲームだからやったけど、現実になったこの世界でやったらどうなるんだ?

下手したら大陸の一部が消滅するかも?


「ダメだ。あれは威力があり過ぎて大陸が消滅する恐れがある」

「ああ~……確かにゲームの時もあの後大変だったらしいからな」


シュートの言葉にふと目を向ける。

その後の事を俺は知らないのだ。


「どう大変だったのか聞いても?」

「魔物や動物が落ちたり、人が落ちるってのも聞いたな。んで大量の魔法使いで地道に穴を塞ぐ作業をしてたぞ」


そこでアキオが付け加える。


「ちなみに、こっちの世界に来る時点で穴は全然塞がってなかったはず」


そりゃあんなデカい穴だしね。

塞ぐのも数年掛かるだろうさ。


「という訳で、あの技は使えないって事だ」

「あの辺りは、人が住んでないから良いんじゃねぇか?」

「いや、人が通れるようにするって言ってんのに、そんな穴を空けたら余計通れないだろ」

「あっ、そっか」


そう言ってビールを飲みながら考え込むシュート。


「とにかく、現地に行って良い方法が無いか確かめてくるよ」

「……俺も行こうかな」

「お前は将軍だろ、国に戻れ」

「じゃあ俺……」

「警察の幹部だろ。お前らは仕事に戻れよ」


俺がそう言うと2人は、ボソッと「辞めようかな」と呟いた。

その言葉に呆れながらも俺は、運ばれて来たすき焼き定食とビールを堪能する。


大量の魔物か……どんな所なのか楽しみだ。

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